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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第二章 ガルディア救出編

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第二十六話 道なき道

 村の門を抜けて、森の手前まで来たところで、ホルスさんが立ち止まった。


「フライ、この景色をよく覚えとけ」


 村の方を振り返る。


 朝日に照らされる門。


 遠くに見える牧場の屋根。


 その向こうの、小さな家々。


「はい」


 振り返って、目に焼きつける。


 そして、ホルスさんが一歩、森の中へ足を踏み入れた。


 僕も、その背中を追いかける。


⸻


 森の中の道は、村の周りとはまるで違っていた。


 木は高く、どこまでも続く土の道。


 それと、獣やモンスターの気配。


(少し先に、小さい魔力がある)


 パディットの声が器に響いた。


(危険かな?)


(フライとホルスなら、問題ない程度だろうな)


「前方に、少しモンスターの気配です」


 小声で伝えると、ホルスさんが頷く。


「距離は?」


「もうすぐ、見えるくらいです」


 ホルスさんは腰の剣に手をかける。


「魔力は温存、旅路ではそれが基本だ」


「わかりました」


 出てきたのは、小型の角を持った闘牛のようなモンスター、バッフルだった。


 鼻息荒く、こちらを睨みつけてくる。


「じゃ、お手並み拝見だな」


 杖を構え、器から炎と雷をすくう。


「〈〈スパークフレア〉〉」


 炎と雷を、地面すれすれに走らせる。


「あとは任せろ」


 足元をすくわれたモンスターが、よろめいたところに、ホルスさんの剣が、最小限の動きで首筋を払った。


 モンスターが崩れ落ちる。


(さすがだな、ホルスは)


 パディットが、感心したように言う。


 その後も、道中で何度か小さな群れに出くわした。


 牙をむき出しにした蛇型のモンスター、ウッドスネーク。


 木の上から飛びかかってくる猿のようなモンスター、サンジュロ。


 そのたびに、僕は威力を抑えた炎と雷で体勢を崩し、ホルスさんが正確な一撃で仕留める。


「よし、その調子だ」


 血を払った剣を軽く振りながら、ホルスさんが言う。


 僕たちはそれを、何度か繰り返した。


⸻


「そろそろ、休憩場所を探すか」


 太陽が真上を少し過ぎた頃、ホルスさんが言う。


「フライ、安全そうな場所は分かるか」


「探してみますね」


 辺りの気配に意識を向ける。


「この先、左側に少し開けた岩場があります」


「そこなら、モンスターはあまり寄ってこないはず」


「行ってみるか」


 ホルスさんが頷き、僕が先に歩き出す。


 言葉にした道筋をなぞるように、森の中を進んでいく。


「……お」


 木々の間が、ふっと開けた。


 大きな岩がいくつか並び、その影に土の場所があった。


「いい場所じゃねぇか」


 ホルスさんが、周囲を見回す。


「ここを、今日の寝床にするか」


「はい」


⸻


 野営地に着いて荷物をおろす。


 すると少し遠くに、小さく動く気配を見つけた。


「少し向こうに、獣の気配がありますね」


「お、なんだろうな」


「モンスターの気配じゃありませんね」


「多分、動物ですかね」


 ホルスさんが辺りを見回しながら言う。


「危険なモンスターの気配はないんだな?」


「はい」


「じゃあ、フライ、狩ってこれるか?」


 ホルスさんが、少し笑みを浮かべて言う。


「多分、問題ないです」


「じゃあ、任せてみるかな」


 荷物を岩場の影に置き、杖を持って立ち上がる。


 器から、森の中を駆ける小さな気配を追う。


 草むらの向こうに、警戒心の薄い小さな鹿が、群れから少し離れて草を食べている。


 気づかれないように距離を詰め、短く息を吐く。


「〈〈エレク〉〉」


 足元にだけ、小さな雷を走らせる。


 驚いて足を取られた鹿が、体勢を崩した瞬間。


 僕は素早く接近し、あらかじめ用意していた短剣で、とどめを刺した。


(……ごめん)


 心の中で小さく呟いてから、手早く解体して肩に担ぐ。


⸻


「お、やるな」


「遠征経験で、獲物を獲ることまで覚えたか」


 簡易な焚き火台を組み、魔法で火を起こす。


 鹿肉を切り分け、塩と少しの香草をまぶす。


 枝に刺して、ゆっくりと火の上で回しながら焼いていく。


 脂が落ちて、ぱちぱちと音を立てた。


 香ばしい匂いが、空腹のお腹を刺激する。


「うまそうだな」


 ホルスさんが、覗き込んで言う。


「この焼き方は、父さんに教えてもらいました」


「ほー」


 そう言って、岩に腰を下ろした。


⸻


 日が傾き、空が赤く染まり始めた頃。


「いただきます」


 二人で、焼けた肉をかじり始める。


 噛むと、じゅっと脂が染み出した。


「……うん」


 自分で言うのもなんだけど、美味い。


「塩加減がいいな」


「脂も落ちすぎてねぇし、美味い」


「よかった」


 少し肩の力が抜けた。


 しばらくは、肉を食べる音と、焚き火のはぜる音だけが続く。


 空は、ゆっくりと青から藍色に変わりつつあった。


 ふと、ホルスさんが、焚き火の火をじっと見つめた。


 そして、ぽつりと口を開く。


「言わんでもいいかと思ってたが」


「多分、ここから先、ガルディアで必要になるだろう」


「俺の、ガルディアでの名前だ」


「ガルディアでの名前ですか」


「シグル」


 焚き火の光が、ホルスさんの横顔を照らす。


「ガルディアに入っても、お前はホルスで呼んでくれ」


 少しだけ目を細める。


「だが、城に入ったら、俺は“剣巧シグル”で通っていた」


 聞き慣れない響きが、耳に残る。


「剣巧……」


 少しだけ照れくさそうに肩をすくめる。


「ライゼルの城に行く前、王都の剣の大会みてぇなもんで、ちょっとばかし勝ちすぎてな」


「周りが勝手にそう呼び始めた」


 どこか、昔話をするような調子だった。


「俺は旅の時はシグルで通していた、村の事もかくしてな」


「ライゼルとは、主従でありながら、助っ人みたいな立場で召し抱えられた」


「まぁ、結構砕けた仲だったんだ、俺はライゼルと呼び向こうはシグルと呼んだ」


「城では、友達みたいにやっていたんだがな……」


 ホルスさんは話を続けた。


「ライゼルの最後は妙だったんだ」


 声のトーンが、少し落ちる。


「サラームの国に襲われたんだが」


「どう考えてもおかしいタイミングだった」


「騎士も、兵士も、ほぼ全軍が出払っている最中に、王族だけが城に取り残された」


 焚き火の火が、小さくはぜる。


「俺も城にいなかった、戻った時には、もう遅かった……」


「何度思い返しても、おかしな点が多すぎる」


 拳を、膝の上でゆっくり握る。


「俺は、ガルディアに内通者がいると踏んでいる」


 そこだけ、ほんの少しだけ息を詰まらせた。


「でなければ、あのウルズ大森林の守り手が、あんな簡単にやられるわけねぇんだ」


 ホルスさんの目に、ほんの一瞬だけ熱が宿る。


「ライゼルは絶対に、自分の城で、簡単に討ち死になんてことにはならねぇ」


 焚き火の光が揺れた。


 サラーム国。


 知らないはずの国の名が、妙に重たく感じられた。


⸻


 森の夜が、ゆっくりと深くなっていく。


「フライ」


 ホルスさんが、焚き火越しにこちらを見る。


「ここから先の話は、もう少し覚悟が決まってからでいい」


「色々と、聞きたくない話も混ざるからな」


 口元だけで笑う。


「今日は、ここまでだ」


 焚き火の火が、ぱち、と小さく弾けた。


「分かりました」


 ダイナモの杖を横に置き、空を見上げる。


 森の隙間から見える星は、村で見上げる空とは少し違って見えた。


 僕はその空を見上げながら、ゆっくりと目を閉じた。


⸻


 朝になり、ほんの少しの眠さを引きずりながら、僕は寝袋から出た。


「よく寝たな」


 焚き火の残り火をつつきながら、ホルスさんが伸びをした。


「野営でここまで気配がないのは初めてだ、熟睡しちまった」


 周りのモンスターの気配は薄い。


「今日もしっかり進めそうですね」


「ちゃんと疲れを取っておければ、進める距離も変わるからな」


 ホルスさんが、荷物をまとめながら言う。


「森の中を何日も歩きゃ、大体へばってくる」


「その時どれだけ動けるかは、どれだけ休めて旅していたかと一緒だからな」


 ホルスさんが背中の荷物に手を伸ばし、肩紐を持ち上げた。


⸻


 そこからさらに五日。


 僕らは、黙々と森を進んだ。


 木々は少しずつ低くなり、陽の光が差し込む時間が増えていく。


 そして⸻


「抜けたな」


 枝をかき分けた先に、いきなり空が広がった。


 木々の切れ目から、地平線まで続く草原が見える。


 濃い緑の波が、風に押されてさわさわと揺れた。


「ここからが、カイバル平原だ」


 ホルスさんが、遠くの方を見つめて言った。


「キャラバンでもない限り、徒歩で突っ切るのは厳しいって言われている、モンスターの巣窟だ」


「そんなに、ですか」


「草が豊富だと、餌も豊富だ」


「大型のモンスターや、森より強いやつらが、平気でうろうろしてる」


 風が、二人の間を吹き抜ける。


「ここから、平原の脇道を行く」


「脇道……」


 見渡す限りの草原に、道らしいものは見当たらない。


「普通なら、そんなとこ進むのは絶対にしない」


「ただな、お前がいれば別だ」


 ホルスさんが、ちらりとこちらを見る。


「気配察知で、モンスターを避けながら進む」


「平原を抜けるまで、案内役はお前だ」


 鼓動が早くなった。


「やれるか?」


 一度深呼吸をする。


「やります」


 自然と、返事が出た。


 ホルスさんが、にっと笑う。


「街道をキャラバンで通れば、ここを越えるのに五日」


「危険地帯を避けつつ斜めに切っていけば、徒歩でも七日で抜けられるはずだ」


「七日ですか……」


「長ぇぞ」


 そう言いながらも、その目はどこか信頼を宿していた。


「でも、お前の気配を探る力があれば、抜けられる」


「はい」


 モンスターたちの気配をひとつひとつ探りながら、一歩目を踏み出した。


⸻


 カイバル平原に入って、最初の一日目。


 太陽は容赦なく頭上から照りつけ、足元の草は膝の高さまで伸びている。


(あそこはダメだ)


 意識を広げながら、進路を微調整していく。


「右は大きいのがたくさんいます」


「左は数分で群れがこっちに流れてきそうです」


「なら、真ん中より少し奥だな」


 僕が探知して、ホルスさんが短く指示を出す。


「今いない場所じゃなく、来にくそうな場所を選べ」


「わかりました」


 そうやって、できるだけ穴を縫うように進んでいた、その時だった。


(フライ、前方の草の中に、妙に静かな気配がある)


 パディットの声が響いた。


 ちょうどこちらが進もうとしていた先。


(気配を消してる)


 パディットが警戒して言う。


「ホルスさん、前方にモンスターです」


「気配を消してます」


「わかった」


 ホルスさんが、腰の剣に手をかける。


 草の向こうを睨む。


 すると草が、かさかさと動いた。


 黄色と黒の縞模様が、風を切って飛び出した。


「ラングタイガーか!」


「ここいらでは、草むらに潜んで気配を消し、通った獲物を攻撃してくる」


(まぁまぁ早いな)


 パディットの声は、やけに冷静だった。


(前だ、もう後ろに回った)


 背後に、気配が移る。


 振り向いた時には、もう爪が目の前に迫っていた。


「っ!」


 僕は横に飛ぶ。


 頬のすぐそばを爪がかすめていった。


(次は横から来る)


 パディットの声に合わせて、視線だけを向ける。


 草が、わずかに揺れた。


 ラングタイガーの気配が、一瞬消える。


(……消えた?)


(いや、気配を消して襲ってくる)


 パディットの声が響く。


(俺が先回りして教える! 振り向いて、後ろの足元に魔法だ)


「ホルスさん! 僕の後ろに魔法撃ちます!」


「……後ろ!?」


 ホルスさんが振り向きざまに叫ぶ。


「わかった、撃て!」


 思考より先に、杖が動いた。


「〈〈フレア〉〉」


 炎の塊を、地面に叩きつけるように放つ。


 爆ぜる炎と、焼ける草の匂い。


 その中心で、ラングタイガーの気配がした。


「⸻ッ!」


 燃え上がる火の中から、ラングタイガーが飛び出す。


 一部が焦げ、バランスを崩したその首元に⸻


「ここだ!」


 ホルスさんの刃が走った。


 ラングタイガーの動きが、ふっと止まる。


 次の瞬間、どさりと地面に崩れ落ちた。


「はぁっ、はぁっ……」


 鼓動が速くなっている。


「やっぱり、探知してても避けるのが厳しい相手もいるな」


 ホルスさんが、剣を振って血を払う。


「気配を殺しながら来られると、探知が間に合わないか」


「パディットがいなかったら、気が付きませんでしたね」


(俺がついてる限りは、そう簡単にやらせないさ)


(助かったよ)


(こういう類は任せてくれ)


 気持ちが、少しだけ軽くなった。


「傷は?」


「かすり傷です」


 頬を指でなぞると、少しだけ血がついた。


「ポーション使うほどじゃ……」


「今は使わないほうがいい」


 ホルスさんが、即座に言う。


「ヒーラーもいない中、平原の真ん中で回復切れは厳しい」


「避け方を覚えるしかない」


「はい」


 厳しく思えたが、生き残るには必要なことだと思った。


⸻


 それからしばらくは、大きな戦闘もなく進めた。


 同じ景色が続く中で、ひたすら歩き続ける。


 と、思った矢先。


(フライ、さっきから、足元の砂の流れ方がおかしいよ)


 パンが呼び止める。


「砂?」


 足元を見ると、ところどころ、土の上に細かい砂が溜まっている場所があった。


 風で集まっただけにしては、不自然だ。


(気配は感じないね)


 気配の探知は、何も引っかからない。


「ホルスさん、モンスターかもしれません」


「確かに何か変だな」


 ホルスさんも、足を止めていた。


 次の瞬間。


 さっきまで、ただの砂の山だったものが⸻


「……おいおい」


 さらさら、と音を立て始めた。


 砂が、形になっていく。


 腕、足、胴、頭、人形の形を作る。


「サンドパペットか」


 ホルスさんが、低く呟いた。


「知ってるんですか」


「形だけならな」


「戦った経験はない」


 剣を抜く。


 サンドパペットが、ぎしりと首を傾けた。


 音もなく、こちらへ歩み寄ってくる。


 気配はやはり、何も感じない。


「魂も、意思もない」


「お前の気配探知には引っかからんだろうな」


「厄介ですね……」


 距離が一気に詰まる。


 ホルスさんの剣が、砂の腕を弾いた。


 切り裂かれた砂が、さらさらと地面に崩れ落ちる。


 だが、次の瞬間にはまた集まって、人形の腕に戻っていた。


「切っても切っても……」


 サンドパペットの拳が、ホルスさんを狙う。


 紙一重でかわす。


「速さは大したことねぇ」


「だが、ダメージが通らない」


「フライ、こういう相手には魔法だ」


「どうにか、形を維持できない状態にできねぇか」


「形を維持、できない……」


(砂の繋がりを断てれば、電気ならやれるかも)


 僕は杖を構えた。


「ホルスさん、少しだけ下がってください!」


「おう!」


 サンドパペットの足を、ホルスさんがすれ違いざまに払う。


 砂の体が、ぐらりと揺れた。


 僕は、その真ん中に向けて魔法を放つ。


「〈〈エレク〉〉」


 杖先から放たれた雷が、砂の体を貫き、帯電させる。


 ぱちぱち、と青白い火花が散る。


 瞬間、サンドパペットの体が爆ぜた。


 人型の輪郭を保てなくなり、ばらばらと四方に飛び散る。


「今だ!」


 ホルスさんが叫ぶ。


「フライ、走れ!」


「はいっ!」


 僕は全力で走った。


 砂が再び集まり始める前に、その場を離れる。


 数十メートル走ったところで、振り返った。


 さっきサンドパペットがいた場所で、砂がもぞもぞと動いている。


「雷魔法か、なるほどな」


 息を整えながら、ホルスさんが笑う。


「こいつは剣士泣かせだな」


 役割分担をしつつ、僕たちは平原を歩いて行った。


⸻


 そうして、カイバル平原一日目が終わった。


 同じ景色の中で、足だけが確実に疲れていく。


 夜は、背の高い草の陰に小さな窪地を見つけて、そこで野営をした。


 空気が澄んでいて、星が近く見えた。


 それからも、平原での日々は続いた。


 大きな気配を避けながら、群れる小さな気配をやり過ごし。


 同じような草の中で、僕らは少しずつ、ここでの歩き方を覚えていった。


⸻


「いつまでたっても景色が変わらないですね」


 僕は草の上に腰を下ろしながら、ため息をついた。


「平原ってのは、そういうもんだ」


 ホルスさんが、空を見上げる。


「空と草しかない」


 僕は、遠くの空を見た。


 まだ見えないガルディアの方角。


「あと三日も歩けば、平原は抜ける」


「頑張ります」


 カイバル平原に入って、四日が過ぎていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


バッフル

闘牛型:小型

生息:森、平野

魔力:地寄り、火小(魔法は使わない)

短い角で突進してくる


ウッドスネーク

蛇型:牙が長い

生息:森

魔力:風、地(魔法は使わない)

木の根元・草むらから飛びかかる


サンジュロ

猿型:手が長い

生息:森

魔力:地、雷(魔法は使わない)

木の上から飛び降りて奇襲


ラングタイガー

虎型:中型細身

生息:カイバル平原

魔力:雷寄、風小

一撃は軽いがとにかく速い

死角に回り込む狩人タイプ


サンドパペット

砂人形型:実態が曖昧

生息:カイバル平原、砂地

魔力:地単体

切ってもすぐ再生する

魔力で砂が動いている

物理が通りにくい 

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