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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第二章 ガルディア救出編

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第二十八話 川辺の街

 カイバル境界丘を越えた先の道は、平原よりもずっと歩きやすかった。


 草は短く、ところどころ土の道が広がっている。


 ムーは、僕のローブの中で小さくなっている。


(むにゅ……むにゅ……)


(居心地は大丈夫?)


(悪くはないのん)


 僕は、フリールに単純な興味があった。


「フリールは、何でそんなにルミナストーンを集めてるの?」


「え?」


「魔杖使いにとってはありがたーいものでしょ」


 さらっと言った。


「それは分かるけど」


「でも、命張ってまで集めないかな」


 少し考えてから、答える。


「結果としてついてきたら嬉しいなって感じで」


「甘いなぁ」


 フリールが、ほっぺたをふくらませる。


「高価じゃん」


 指をぱちん、と鳴らした。


「ドーナで生きるには、お金がいんのよ」


 フリールがくるっと前を向く。


「でも、そこまで言い切れるのは、すごいと思う」


「ほめてる?」


「半分は」


「半分ほめられた、えへへ」



「ところでさ」


 しばらく歩いたところで、フリールが振り向いた。


「どっから旅してんの?」


「どっから、って」


「平原側から来る人なんて、めっちゃ珍しいからさ」


 フリールがじろっと見る。


「普通さ、街道側から来るじゃん」


「ってことは、訳ありってこったね?」


「フライ」


 すぐ横で、ホルスさんの声。


「……ダメだぞ」


 僕は、フリールに向き直る。


「あんまり詳しくは言えないんだ」


「ふーん」


 フリールが、じとっとした目で僕を見る。


 肩をすくめる。


「まぁ、命の恩人様が話したくないなら、しゃーない」


「ちゃんと送ってくからね」


「ちゃんと送られましょう」


 無茶苦茶に見えるけど、その奥で何かを測っているようにも見えた。


 その時だった。


(フライ)


 パディットの声が器に響いた。


(前方、気配を消したモンスターが五……いや、六か)


(足音が速い、群れで動くタイプだ)


「前から、モンスターの気配」


「気配を消して近づいて来てる」


 僕が言うと、ホルスさんがさっと顔を上げる。


「距離は?」


「もうすぐ、見えるくらいです」


 声に出すのと同時に、パディットが言う。


(ガルルカだな)


(あの犬、そこそこ厄介なやつだぞ、気をつけろ)


「出たぁぁぁぁ!!」


 フリールが、げんなりした声を上げた。


「あのワンチャンたち、速いんだよなぁ」


「魔力もあんま感じないし、にーがーてー」


 草むらの奥から、犬型モンスターが姿を現した。


 唸り声を上げながら、僕らを囲むように広がってくる。


「ヒーラーがいないんだ、攻撃は極力避けるぞ」


 ホルスさんが、警戒を告げる。


(任せろ)


 パディットが指示を飛ばす。


(これくらいの速さなら、全部の動きは見える)


(フライ、右に二、左に三、一匹様子を伺ってる)


(左側のやつらはホルス向きだ)


「ホルスさん」


 僕は、すぐに声に出す。


「左から三匹、動きます」


「右は僕がおさえます」


「おう」


 ガルルカが、じりじりと間合いを詰めてくる。


「フリール!」


「は、はいぃ!」


「ホルスさんの真正面はまずい」


「僕が右を攻撃したら、その方向に全力で退避して!」


「おー……了解!」


 フリールが、ぽかんと口を開けた。


「散れっ!」


 ホルスさんが、短く叫ぶ。


 それと同時に、ガルルカたちが一斉に飛びかかってきた。


(右、二)


 パディットの声に合わせて、体が自然に動く。


 一体目が、牙をむいて正面から飛び込んでくる。


「〈〈フレア〉〉」


 足元に炎を走らせる。


 ガルルカの足が一瞬もつれ、その身体がわずかに浮いた。


(二体目、横から)


 すぐ横から突っ込んでくる気配。


 半歩下がってかわし、杖の突きで鼻先を思い切り叩く。


「キャンッ!」


 短い悲鳴を上げて地面を転がる。


 ホルスさんに向いていた一匹が、僕の後方に回り込んだ。


 背中に気配。


(振り向きざま正面に魔法を放て)


 振り向きざま、杖を目の前に向け、魔法を叩き込む。


「〈〈スパークフレア〉〉」


 爆ぜる炎雷に、ガルルカが吹き飛ぶ。


 その横で、ホルスさんが左側の残り二体に向かって走り込む。


 一体目の懐に潜り込み、前足を斬り払う。


 バランスを崩したところに、首筋へ一閃。


「ガウッ!」


 声にならない声と共に、ガルルカが崩れ落ちる。


 もう一体が、横から飛びかかる。


 ホルスさんは、半歩だけ前に出る。


 飛んできた体を、肩越しにいなすようにしてかわし、同時に脇腹へ斬り上げた。


 血が、草の上に散る。


 フリールが、少し離れた場所でしゃがみ込む。


「ホルスさん!」


「分かってる」


 ホルスさんが、短く答える。


(残り、様子見していた一匹)


 パディットが告げる。


(そいつ、もうほっといていい)


(逃げるか、諦めるか、完全に戦意喪失してる)


 ガルルカの一匹が、距離を取りながら、唸っていた。


「これ以上は、戦いじゃないな」


 ホルスさんが、剣を鞘に戻し一歩踏み出す。


 ガルルカが、一声吠える。


「キャン……」


 弱々しい鳴き声を上げて、草むらの奥へと消えていった。


「ふぅ……」


 僕は、杖を下ろして息を吐いた。


(いい連携だったな)


 パディットが自慢げに言う。


(うん、ありがとう、パディット)



「ねぇ?」


 戦いが終わるやいなや、フリールがずいっと顔を近づけてきた。


「フライってさ、目、何個あんの?」


「え? 二つだけど?」


「ちがくて!」


「そんな周り見えてる人、初めて見たわ」


 フリールが、じーっと僕を覗き込む。


「こいつらってさ、一応魔力あるっちゃあるけど、ほとんど見えないよね」


「気配も消して動いてくるし」


「それなのに、指示的確すぎひんか?」


 指をぴしっと立てる。


「えっと……まぁ、がんばって見てます?」


 ほぼパディットのおかげだ。


「あんま詮索すんなよ」


 ホルスさんが、ガルルカの死体から少し離れたところで、ため息をつく。


「こっちは教える義理ねぇんだからな」


「つれないなぁ」


「うざいわっ!」


 ホルスさんが、心底うんざりした顔をした。



 戦闘の余韻を引きずりながら、さらにしばらく歩く。


 太陽は、少しずつ傾いてきていた。


「見えてきましたね」


 前方の地平線の向こう。


 ゆるやかに下る斜面の先に、川。


 そのすぐそばに、石造りの建物、低い外壁、いくつもの屋根。


「あれが、川辺の楽園、ドーナの街だよん!」


 フリールが、胸を張る。


「うわぁ、大きい街ですねー!」


 思わず声が漏れた。


「さ、着いたぞ」


 荷物を少し持ち直し、街の方角を指で示した。


「じゃあな、元気でな、達者でな」


「厄介払いみたいにすんなっちゅうねん!」


 フリールが、思い切りツッコむ。


「ところでさぁ……」


 フリールが、いつもの調子で口を開いた。


「だめだ」


 ホルスさんの返事は、一文字だった。


「まだなんも言ってないじゃんよ?」


「言わなくても面倒なことってのは分かるんだよ」


「ひどーい!」


 フリールがほっぺたを膨らませる。


「でも言うけどね!」


「あたしと、ダンジョンに潜ってくんない?」


 その声が、さっきまでと違って本気の声だった。


「ダンジョン……」


 行かなきゃいけない気もする。


 でも、今は絶対にダメだ。


 ここで足を止めたらホップが。


 そう考えていると──


「考えてもいいから!」


 フリールが、ぐいっと近づいてくる。


「今じゃなくっていい!」


 僕の目を、まっすぐに見つめて言う。


「ただ、二ヶ月以内!」


「……二ヶ月?」


「訳あり!」


 フリールが、胸をどん、と叩く。


「助けると思って、一緒に潜って!」


「怪しいな……」


 ホルスさんが、眉をひそめる。


「ただ、お前、その感じ、本当に訳ありだな」


「ふっ、ふ〜ん〜〜♪」


 フリールが、わざとらしく空を見上げて口笛を鳴らした。


 ごまかしているようで。


 でも、その目は笑っていなかった。


「正直、行きたい」


 僕は、ゆっくりと言葉を探す。


「いや、行かなきゃいけない気がする」


 フリールの目が、ぱちっと見開かれた。


「ダンジョンにも、僕なりの用事がある」


「ただ、今は本当に無理なんだ」


「でも、フリール、約束する」


 僕は、フリールを見た。


「必ず、ダンジョンに行こう」


「それ、マ?」


 さっきまでちゃらんぽらんだった顔から、一瞬でふざけた感じが消える。


「絶対忘れないでね」


 にぎやかな声とは裏腹に、静かな響きだった。


「待ってるからね」


「僕も、そのダンジョンに行かないといけない理由があるんだ」


 南の森のように、ゼインとも繋がっている何かが、ダンジョンにある気がしていた。


「信じてほしい」


「……ん、おけ」


 フリールが、小さく頷く。


「行ける時になったら、また街に来て」


「魔杖屋リンリン、そこにあたしいるから」


「約束するよ」


 僕も頷く。


「よろしい!」


 フリールが、ぱっと表情を明るくした。


「じゃ、フライくんの約束ゲットだぜ!」



 ドーナの街に近づくにつれて、賑やかさがはっきりしてくる。


 ガヤガヤとした喧噪が、外壁の外まで漏れていた。


「正直、街に寄るのはダメだと思ってたが」


 ホルスさんが、小さく息を吐く。


「どう考えても、ここで物資を補給した方がいいな」


「賛成です」


 僕は即答した。


「食料も水も、かなり底をついてます」


「ガルディアまでは、まだ距離があるからな」


 ホルスさんが、真剣な顔で続ける。


「どこかで必ず、食料調達はしなきゃいけない」


「……行くしかないか」


「どうしました、お二人様ー?」


 横から、ひょこっとフリールの顔が出てくる。


「お困りなら、手を貸すよん?」


「……嫌な予感しかしねぇ」


「道中見てたら分かったよ?」


 フリールが、指を一本立てる。


「まず、荷物の量からして物資が不足中ってね」


「それと、街に入るかどうか悩んでる」


 じとっとした目でホルスさんを見る。


「わたくしが、いいもの売ってあげよう!」


「仕方ない、街へ行くか」


 ホルスさんが、溜め息まじりに言った瞬間。


「だからっ、人の話は最後までって言うでしょ!?」


 フリールが、地面を踏み鳴らす。


「食料はわたしが手配する、宿も目立たないとこ紹介したげる!」


「だから無視はやめれー!」


「本当?」


 思わず、前のめりになる。


「お、食いついたね、フライくん」


 フリールが、ちょっとだけ嬉しそうに笑った。


「だから絶対に! 手伝ってね!」


 両手を広げる。


「……信用、されてないのかな」


「いやいやいや」


 フリールが、手を横に振る。


「人はそう簡単に信用できないよ?」


「言ったじゃん、売ってあげるって」


「あたいが売るのは、恩だよ」


 くるっと振り向いて、こちらに指を向ける。


「これでダンジョン来てくれなくてもさ」


「精一杯やったって思えるんだよね」


「やれることはやったってさ」


 そこだけ、少し声が柔らかくなる。


「だからまぁ、これは自分が納得するための行動なんさね」


「絶対、裏切らないよ」


 僕は、はっきりと言った。


「それでよし!」


 フリールが、ぱんっと手を打つ。


「じゃあ、はいこれ!」


 ホルスさんの胸元に、紙切れを一枚押し付けた。


「この紙は?」


「地図だよん」


 フリールが、胸を張る。


「このルートで行けば、人目につかないで街の中の端っこの、ぼろっちぃ民家みたいな宿まで行けるよ」


「そこに、あたしが食料届けたげる」


「その代わり!」


 くるっと振り向いて指を立てる。


「お金は倍もらいます!」


「商売なんで!」


「恩を売るってのは、どうなったんだ」


「それはそれ、金は金っす」


 フリールが、悪びれもなく言う。


「……倍か」


 ホルスさんが、少しだけ唸る。


「でも、正直それでも補給はしたいな」


 地図をじっと見つめる。


「情報料も込みだ」


「払う」


「うわぁ、ホルスがデレた」


「デレとらんわ!」


 ホルスさんが、即座に否定する。


「信用してほしいし、後払いでいいよ」


 フリールが、少しだけ声を落とした。


「あたしも、あとで地図んとこに食料手配するからさ」


「代金は、宿の人に預けといて」


「分かった」


 ホルスさんが、短くうなずく。


「本当はさ」


 フリールが、ちらっと街の方を振り返る。


「川が綺麗な街だし、物もいっぱいある」


「ご飯も美味しいからさ」


「ゆっくり観光できるとよかったね」


「今度また、必ず」


 僕は、自然と口にしていた。


「今度また、ね」


 フリールが、にやっと笑う。


「自然に出たなら、フリールさん的に信用高いセリフです、それ」


 そう言って、ぴょいっと手を振る。


「じゃ、またね、チャーオ!」


 それだけ言うと、フリールは人混みの方へ走っていった。


「多分、悪いやつではないんだろうな」


 ホルスさんが、小さく呟く。


「そうですね」


 僕も、同じ気持ちだった。



 フリールのくれた地図の通りに歩くと、ドーナの街は静かだった。


 大きな正門からではなく、脇の細い路地、川沿いの裏道。


 石畳の隙間から、草が顔を出しているような道ばかり。


 それでも、地図は正確だった。


 人通りの少ない路地を抜け、荷車の影に身を隠しながら進む。


「ここか」


 ホルスさんが、立ち止まった。


 地図に書かれていた印の場所。


 外から見れば、ただの古びた民家にしか見えない。


 木の扉。


 色褪せた看板。


 でも、近づいてみると、小さく宿と刻まれていた。


「ごめんくださーい」


 扉を叩くと、中からゆっくりと足音が近づいてくる。


「はいよー……あら」


 出てきたのは、背の曲がったおばあちゃんだった。


 柔らかいシワの刻まれた顔。


「フリールの紹介の方かい?」


「え?」


 思わず顔を見合わせる。


「はい、多分そうです」


 僕が答えると、おばあちゃんはふふっと笑った。


「よく来たねぇ」


「ほら、入りなさいな」


 中は、外見よりもずっと温かかった。


 古いけれどきれいな床。


 小さなテーブル。


 年代物の家具。


「宿泊は、あんたたちだけだよ」


 おばあちゃんが言う。


「ここは、そういう宿だからねぇ」


「そういう?」


「たまーにしか人は来んよ」


 部屋に入り荷物を下ろすと、一気に疲れが抜けていく。


 しっかりしたベッドは、本当に久しぶりだった。


 シーツの柔らかさ。


 枕の匂い。


 ベッドに腰を下ろした瞬間、体中が休めと言ってくる気がした。


 そんなことを考えていたら、おばあちゃんの声がした。


「荷物が届いたよ」


 部屋の扉を開けると、廊下に布袋がいくつか置かれていた。


 どれも、旅に持ってこいの食材ばかりだった。


「お金は、預かっとくよ」


 おばあちゃんが言う。


「ありがとうございます」


 おばあちゃんが、ふっと目を細める。


「あの子も、色々大変だねぇ」


「大変?」


 思わず聞き返してしまう。


 けれど、おばあちゃんはそれ以上何も言わなかった。


「ま、若い子には若い子の事情があるのさ」


 そう言って、台所の方へ戻っていった。


(きっと、フリールも何かを抱えてるんだろう)


 枕にもたれて、目を閉じる。


(そうでもないと、ダンジョンなんて危険なところに、自分から行こうとはしない)


 ムーは、ベッドでぷるぷると小さく震えている。


(ふかふか、なのん)


 その声を聞きながら、僕の意識は、ゆっくりと眠りに落ちていった。



 久しぶりに、ベッドでぐっすり眠った。


 夜中に一度も目が覚めなかったのは、いつ以来だろう。


 朝、鳥の声と共に目を覚ますと、窓の外には川の音と、街の朝のざわめきが広がっていた。


「よく寝れたかい?」


「はい、ぐっすりでした」


 階下に降りると、おばあちゃんが簡単な朝食を用意してくれていた。


 固めのパンと、あったかいスープ、それと少しのチーズ。


「しっかり食べてきな」


「はい」


 朝ごはんを食べると、心が落ち着いた。


 食料の袋を背負い直し、宿のおばあちゃんに代金を預ける。


「確かに預かったよ」


 おばあちゃんが、袋を受け取りながら言う。


「また、来るといい」


「はい、必ずまた来ます」


「ばあさん、元気でな」


 ゆっくりと頭を下げて、宿を出る。


 フリールの地図通りに、また裏道と脇道を抜けていく。


 来た時と同じように、人目は少なかった。


 ホルスさんが、小さく呟く。


「あいつは、信用してもいいんだろうな」


「ですね」


 僕も、素直にそう思った。


 川の音が、だんだんと遠ざかっていく。


 次に目指すは、川を渡る巨大な橋、ドーナ大橋。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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