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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第二章 ガルディア救出編

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第二十二話 積み重なる日常

第二章 ガルディア救出編


 見張り台の上は、風の通りがいい。


 村の柵の一番高いところから、北の森も、東の丘も、遠くの山々も見える。


 太陽は高く、吹き抜ける風が気持ちがいい。


 僕はゆっくりと周囲を見渡す。


 風と、木々のざわめきと、遠くの川の音。


 それに混ざって、どこか眠そうなあくびの気配。


 クロープだ。


 牧場の方角に、寝息の気配。


(……ZZZ)


 苦笑しながら、器に耳を少しだけ傾ける。


 声は、聞こうと思えば聞こえるし、聞かないようにすれば静かにもなる。


 常に頭の中で誰かがしゃべっているわけではない。

 

 うるさく感じることもなくなった。


(フライ、ネールのやつがまた飛んでったんだが)


 今度は、パディットの声がした。


(またか……)


 思わず、見張り台の上でため息が漏れる。


 意識を、少しだけ空の方へ伸ばす。


(ネールさーん? まーた、どこ行っちゃったんですかー?)


(呼んだか、フライ)


 空を見上げると、青空の中に小さな影。


 茶色の羽に、ところどころ稲妻のような模様。雷鳥のネールだ。


(私は雷鳥、飛ぶことは生きることだ)


(それはそうなんですけどね)


 ネールの声は、いつもどこか澄ましている。


(たださ、勝手に牧場出たら、村の人が心配しますよ)


(ほどほどの高さで、ほどほどの距離にいてくれると助かるんですけど)


 ネールが、くるりと一回転した。


(ふむ、この高さなら、村からは見えまい)


(それに、上から見る森の様子は大事ではないか?)


(それは、ありがたい情報ですけど……)


(私の監視は役に立っているだろう?)


 ネールが、どこか誇らしげに続ける。


(とにかく、牧場仲間の勝手な遠征は、許可していません)


 ネールが、少し不満そうな気配を送ってくる。


(……すぐ戻るさ)


(最初からそう言ってください)


 肩の力が、少し抜ける。


(大変だねー、フライ)


 パンが笑った。


(ネールがちゃんと牧場に戻ったら、教えるね)


(頼んだよ、パン)


 最後にもう一度、森の方角をぐるりと見渡すが、危ない気配は今のところない。


「見張り交代するぞー!」


 下から声が上がる。


 ハンターの一人が、手を振っていた。


「お願いします」


 見張り台から降り、地面に足をつける。



 詰所の裏の魔法練習場は、相変わらず焦げ跡だらけだった。


 木製の人形は、新しいものと古いものが半分ずつ混ざっている。


 その真ん中で、シアンさんが杖を肩に担いで待っていた。


「おー、来た来た」


 銀髪を高い位置でひとつにまとめて、いつものローブ姿。


 こっちを見る目が、完全に弟子を見る師匠のそれになっている。


「見張り、お疲れさん」


「ネールさんがまた牧場を勝手に出ようとしてまして」


「あー、最近多いね」


「じっとしてるのが苦手なんだろね」


 シアンさんが苦笑する。


「村の人に何か言われないか心配ですよ」


 僕はため息をつく。


「今日もよろしくお願いします」


「うん、じゃ、今日も頑張ろっか」


 そう言いながら、杖をくるりと回す。


 僕は、ローブの裾を軽く整え、ダイナモの杖を構える。


「まずはいつも通り、火と雷の魔力確認ね」


 シアンさんが、人形から少し離れた位置に立つ。


「スパークフレアからいこっか」


 スパークフレア。


 炎と雷を同時に放つ魔法。


 器から、炎と雷の魔力をすくい取る。


 杖の柄に手を添え、先端を木人形に向ける。


 火の流れ、雷の流れ、二つを、一つにまとめる。


「〈〈スパークフレア〉〉」


 杖先から、眩しい光の塊が走り出した。


 一直線に木人形の胸元へ、そしてぱっと弾ける。


 爆発は、小さめに抑えた。


 人形の表面が、うっすらと焦げる。


「んー、火の立ち上がりは悪くないね」


 シアンさんが目を細める。


「ただ、雷のまとめ方がちょっと荒いかな」


「ほら」


 杖の先で焦げた部分を指す。


「ちゃんと中央に当たってるし、ダメージも出てるけどさ」


「もうちょっとまとまった芯があると、威力がそのまま乗ると思う」


「今は、最後にちょっと広がりすぎてる」


「なるほど……」


(雷が、少し走りすぎているな)


 パディットが指摘する。


「でも、全体的には上出来」


 シアンさんが、ぽん、と僕の肩を叩く。


「合わせ魔法なんて、普通ならもっと先にやるやつだからね」


「わたしだって、火と土の魔法覚えるのに、相当苦労したんだから」


 シアンさんが、自分の杖を軽く振る。


「〈〈ファイアウォール〉〉」


 土壁の少し手前に、横一列に炎の壁が立ち上がる。


 土の魔法で壁を固定し、そのラインに炎を走らせる。


「これ覚えるのに、数年かかったからね」


「そんなにですか」


「そんなにです」


 指を二本立てて強調する。


「で、フライは半年ちょいで、合わせ技を二、三個はもう形にしてる」


「エレフワールもね」


 エレフワール。


 遠くの地面に、炎と雷の矢を降らせる魔法だ。


 威力を抑えれば、森の中の小さなモンスターを散らすのにちょうどいい。


「正直、成長速度だけ見たら、わたしよりかなり早いよ」


「テイムでモンスターと繋がってることと、竜の器の影響が大きいでしょうけどね」


 シアンさんが、苦笑する。



 ひと通りの鍛錬を終え、丸太に腰を下ろしたところで、シアンさんが杖を膝に乗せながらこちらを見た。


「でも、フライの一番のイレギュラーは、実はそこじゃないからね」


「火と雷の合わせ技よりも、成長速度よりも」


 指で杖の柄をとん、と叩く。


「“テイムバンク”の方が、だいぶんおかしい」


「おかしいって言い方やめてくれません?」


 思わず眉をひそめる。


「でも、まぁ……そうですね」


 苦笑するしかない。


「さすがにちょっと、自分でもびっくりしました」


「だよね」


 シアンさんが身を乗り出す。



 魔法訓練開始からしばらく経った頃。


 魔力の流れが、やけに軽く感じていた。


 火も、雷も、いつもより素直に杖を通った。


「でさ」


 シアンさんが、手振りを交えて続ける。


「じゃあ今日は、もうちょっと魔力流してみるかって話になって」


「僕が気になったのもありましたけど、シアンさんが興味津々でしたよね」


「否定はしない」


 お互い笑ってしまう。


 あの日も、いつものように魔法の練習をしていた。


 魔力の流れが気持ちよくて、調子に乗った。


 器のパンの気配を、いつもより多めに杖に流す。


 杖の芯を通り、ルミナストーンを抜けて――


 そこまでは、いつもの感覚。


 次の瞬間。


 視界の端が、ふっと白く光ると、足元に白い魔法陣のような輪が浮かび上がる。


「あれ?って思ったら、目の前にパンがいたからね」


 シアンさんが、苦笑混じりに言う。


(なんか呼ばれたって思ったら、ここにいたんだよね)


 パンも少し苦笑いしている。


 牧場にいるはずのパンが、練習場の真ん中に。


 ただ杖に魔力を通しただけで。


「で、しばらくしてから分かった」


 シアンさんが、指を一本立てる。


「フライの魔力と、テイムの繋がりと、魔力の気配が、杖を通して一本の線になった」


「ルミナストーンから、テイムで繋がってるモンスターへ」


「その線を、そのまま引き寄せる形になった」


「それ、かなりとんでもないことなんですよね」


「とんでもないね」


 シアンさんが、あっさり頷く。


「距離関係なく、繋がってるモンスターを好きな位置に呼び出せるなんて」


「ただし、一体呼ぶのに、フライの魔力がごっそり持っていかれる」


「あの時も、呼んだ瞬間にふらついてたでしょ」


「そうでしたね」


 床にへたり込みそうになった感覚を思い出す。


「だから、慣れるまでそう多くは使えないでしょうね」


「気をつけないと、魔力切れだからね」


「そうですね」


 それがテイムバンク。


「とにかく」


 シアンさんが、まとめるように言う。


「テイムバンクは、火や雷の合わせ技なんかよりよっぽど異常」


「でも、便利だよね」


 シアンさんが、いたずらっぽく笑う。


「例えば、今みたいに、ネールが脱走してる時とかさ」


「それは、確かに」


 空を見上げる。


 さっきまで高いところを飛んでいた影は、今は見えない。


 だがネールの気配はまだ空のどこかにある。


(フライ)


 パンの声だ。


(ネール全然帰って来ないし、どんどん気配が遠くなってくよ)


「ネールさんがまた遠くまで行こうとしてます」


「やる?」


 シアンさんが、面白そうに眉を上げた。


「あんまり乱発はさせないけど、一回くらいなら許可する」


「じゃあ、行きますか」


 深呼吸をひとつ。


 器から、ゆっくりと魔力をすくい上げる。


 いつもより、多めに。


 杖の先を地面に突き立てると、その周りに淡い光の輪がすっと浮かんだ。


 テイムの繋がりの感覚と、魔力を一本の線にまとめる。


「〈〈テイムバンク〉〉」


 次の瞬間。


 地面に白い魔法陣が光り。


 茶色の羽。


 稲妻模様の翼。


 ネールが、魔法練習場の真ん中に召喚された。


(ん?)


 ネールが自分の足元を見て、目を見開いた。


(私を捕まえるとは、さすがだなフライ)


 ネールが、羽を軽く震わせる。


(ちょうど、そろそろ戻るところだったのだ)


(毎回言いますよね、それ)


(事実だ)


 どこか涼しい声。


(脱走だけは困りますからね)


 ネールは、一度だけ大きく翼を広げるとーー


(牧場にて待つ)


 それだけ残して、空へ舞い上がり、そのまま牧場の方角へ飛び去っていった。


「便利だよねぇ、ほんと」


 笑いながら、シアンさんが杖を肩に担ぐ。


「よし! ネールも引っ張ってきたし、今日はこのへんにしとこっか」


「今日は私も牧場、覗きに行くよ」


「はい」



 訓練を一区切りつけてから、僕たちは牧場へ向かった。


 木の柵の向こう。


 宿舎前の広場には、止まり木にすでにネールがしゃんと立っていた。


 その隣では、パディットが尻尾を振りながらあくびをし、そのさらに奥の日陰には、クロープが壁にもたれかかって大きないびきをかいている。


(おかえり、フライ)


 パンが、ひょいと顔を上げた。


(ネール、ちゃんと戻ったよ)


 パンがそう言うと、ネールがどこか誇らしげに羽を整える。


(私の飛行を途中で終わらせたこと、しっかり覚えておこう)


(飛ぶこと禁止しますよ)


(冗談だ)


 短く鳴いて、くちばしを閉じる。


「何か賑やかになったね」


 シアンさんが、牧場を見回しながら杖を軽く回した。


「みんな魔力も落ち着いてるし、本当にモンスターいるのかって思っちゃうよね」


「テイムしたモンスターはやっぱり何か変わるのかな」


 僕はシアンさんの方を向いた。


「どうなんでしょうね」


「みんなにそんな変わった気がするって聞いたことないですね」


「何より、喋っていても楽しいし、みんな優しいですよ」


「弟子が楽しそうで何よりだね」


 シアンさんは満足そうに笑った。


 クロープが、大きい目を半分だけ開けてこちらを見た。


(みんながここにいると、落ち着くー……)


(森の見張りはどう?)


(異常ないよー……ZZZ)


 そう言うなり、またすぐに寝息を立て始めた。


「じゃあ、今日はそろそろ帰ろっかな」


 その様子を見届けてから、シアンさんが小さく伸びをした。


「また、いつでも来てください」


「あ、また忘れてるかもしれないけど、今日は治療所に行く日じゃないっけ?」


 シアンさんは杖の柄で、僕の方を指す。


「あ、そういえば今日でしたね、定期検診」


 思い出して、はっとする。


「魔杖使いは、魔力切れが一番怖いからさ」


 シアンさんが、軽く人差し指を振る。


「ちゃんとヒーラーに見てもらわないと」


「そうですね、ちゃんと行ってきます」


 シアンさんが、じろっと僕を見る。


「よろしい」


 シアンさんが満足そうに頷いた。


 牧場の皆に軽く手を振り、治療所へ向かって歩き出した。



 治療所の扉を開けると、いつもの薬草とハーブの混ざった匂いがした。


 木の棚には、瓶や包帯や薬草の束。


 窓際には、乾かし中のハーブ。


 不思議と落ち着く場所だ。


 中に入った途端、明るい声が飛んできた。


「サボらずに来たじゃん、フライ」


 セラだ。


「セラさん、フライさんはサボってるんじゃないですよ」


 横から、ノエルさんの落ち着いた声がした。


「魔法に夢中で、ついうっかり忘れちゃうだけなんです」


「ついうっかり、ですか」


 僕はバツが悪そうに頭をかいた。


 それを見て、セラが笑っているとーー


「はいはい、そこまで」


 カーテンの向こうから、ケールさんの声がした。


 髪を後ろできゅっと束ね、白衣の袖をまくった姿で出てくる。


「来たのなら、早く診るわよ」


 ケールさんは、短く挨拶を返すと、僕の顔をじろりと見る。


「顔色は悪くないわね」


「今日もシアンのところで魔法の練習してたんでしょう?」


「火と雷の基本と、テイムバンクを少し」


「テイムバンクねぇ」


 ケールさんが、ため息をつく。


「また厄介なもの覚えたわね、あなた」


「便利なのはわかるけど、魔力の消費が尋常じゃないのよアレ」


「だからこそ、定期的に魔力の流れを診る」


 診察用の椅子に座らされ、腕や脈、呼吸、それから魔力の流れを触診される。


 ケールさんの手から伝わる魔力は、ひんやりとしていて、どこか澄んでいた。


「ふむ」


 しばらく沈黙したあとーー


「魔力の通りは問題ないわ」


 思わずほっと息をついた。


「今日はこれで帰るの?」


 カルテに何かを書き込みながら、ケールさんが顔を上げる。


「このあと、工房に少し寄ってから帰ろうと思います」


 ケールさんが、軽く頷く。


「じゃあ、また何かあったらきなさい」


「皆さん、ありがとうございました」


 一度頭を下げると、僕は治療所を後にした。



 外に出ると、村の空は少しだけ夕方に傾きかけていた。


 工房の扉を開けると、いつもの木と油の匂いがした。


「こんにちは」


 僕が声をかけると、


「よう」


 奥の作業台から、ゼンさんが顔を上げる。


「杖見とくか」


「ちょっと貸してみろ」


 ダイナモの杖を渡すと、ゼンさんは重さを確かめるように何度か握りを変え、軽く振ってみせた。


「芯もルミナストーンも落ち着いてるな、さすがだ」


 杖をもう一度、僕の方へ向ける。


「今の使い方のままでいいぞ」


「なんてったってダイナモ製だからな」


 ゼンさんが僕に杖を返しながら言う。


「もし何か変化を感じたら、またもってこい」


「使えば持ち主のクセで変わってくのが、道具ってやつだ」


「その都度使いやすいように調整してやる」


「そのために工房があるんだからよ」


「ありがとうございます」


 僕は礼を言うと、ローブの裾を整え、杖を握り直す。


「また来ます」


「いつでも来い」


 ゼンさんに軽く頭を下げると、僕は工房を後にした。



 南のダンジョンから半年が経った。


 僕は、仲間たちとともに、忙しい日常を、一つひとつ積み重ねていたのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

第二章はじまりです。

半年経った頃のフライの成長と、日常を書いてみました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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