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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第一章 アルミ村編

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第二十一話 明日へ

 シアンさんが、にやっと笑う。


「まずは、魔力の属性を見せてもらおうか」


「それと、魔力の寄りも見る」


「魔力の、寄り……?」


 そう言うと、シアンさんは腰の小袋から、ガラス玉みたいなものを取り出した。


 片手に乗る水晶玉ほどの大きさで、中がうっすらと白く濁っている。


「それは?」


「魔力玉ってやつで、これに魔力を流すと、その人の魔力がどの属性に寄っているかが見えるの」


 そう言うとシアンさんは、魔力玉を僕の手のひらにぽん、と乗せた。


「そんじゃフライ、いつもテイムで相手と繋がるイメージしてるでしょ」


「それを手のひらに流すイメージでやってみて、それで魔力は通るから」


「はい」


 深呼吸をひとつ。


 器にある魔力を、そっと手のひらに流す。


「よし、そのくらい、一回そこで止めて」


 手の中の魔力玉が、じんわりと温かくなった気がした。


「ふむふむ……」


 シアンさんが、魔力玉を覗き込む。


 白く濁っていた中身に、うっすらと色が走り始めていた。


 魔力玉の中で最初に浮かび上がったのは、赤。


 焚き火より少し強い、明るい炎の色。


「やっぱり炎はあるね」


 シアンさんが、納得したように頷く。


「パンの契約者だから当然っちゃ当然なのかな」


「次……」


 赤の横に、別の色が走る。


 今度は白に近い青。


 雷光のように細い筋になって、魔力玉の中を走っている。


「雷も、あるね」


 シアンさんが、指を立てる。


「複数適性持ちは、普通なんだよね」


「炎+土、とか。氷+風、とか」


「単体の方が実は珍しいんだよ」


「そうなんですね」


「ただ、問題はここから」


 シアンさんの声が、そこで少し変わった。


 魔力玉の中にもうひとつ、何かが浮かび上がり始めていた。


「……え?」


 それは、色、というより、光だった。


 魔力玉の奥に、うっすらと、光っている。


 見えるような、見えないような。


(……この気配)


 リュミエールのいた空間を、ふいに思い出す。


 あの、澄んだ光。


「あの、シアンさん?」


「ちょっと待って」


 光に透かし、別の角度から覗き込む。


「その奥の……何?」


「そんなにおかしいですか?」


「いやね、属性って基本さ」


 シアンさんが指を折る。


「炎、氷、雷、土、風、なんだけど」


 魔力玉の奥を、もう一度見る。


「今、私が見てるのは……光?」


(光、リュミエールの魔力……なのかな)


「ちょっと待ってよ」


 シアンさんが、頭を抱える。


「これってなんだろ、初めて見たんだけど」


「僕に聞かれても……」


(フライ)


 パディットの声が器から響く。


(確かに、オレたち以外の魔力の流れがある)


(パンの炎と、オレの雷とは違う)


(これが多分、リュミエールの魔力なんじゃないか?)


「一回整理しようか」


 シアンさんが、小さく息を吐いて、続けた。


「今、ここに見えてるのはーー」


 指を三本立てる。


「炎、雷、そして、よく分からないけど光っぽい何か」


「まとめ方がざっくりしてますね」


「だって本当にそうなんだもん」


 肩をすくめる。


「動きは今のところ、ほとんどないけどね」


「動きがない?」


「そういう風に、私には見える」


「まぁ、あと見るとしたら、何に寄ってるかくらいね」


「私は炎寄りで、土魔法も少し扱える」


「属性の話だけで言えば、単体持ちの方が、その分だけ一点突破になるから強い」


「僕は炎と雷の二つ持ちで」


「そう」


 シアンさんが、指を僕の胸元に向ける。


「炎と雷が、だいたい同じくらいで出てるから、強さもクセも、どっちかに大きく偏ってる感じはしない」


「バランス型ですかね」


「で、その奥に、それとは別の何かが光ってる」


 シアンさんが、空を見る。


「まぁ、フライが異質なのは、今に始まったことじゃないからね」


「……ですよね」


「まずさ、テイマーでモンスターと繋がるってだけで、聞いたことないからね」


「普通のテイマーってさ」


 土を指でつつく。


「魔力の首輪とか鎖とか使って、モンスターを縛るって、恐怖とか魔力で操作するみたいな感じ」


「……」


 言葉が出なかった。


「人側の安全だけを考えれば、その方がずっと楽だしね」


「でも、フライは違うでしょ?」


「パンもパディットも、一緒にいる仲間って感じだよね」


「はい」


 自然に頷いていた。


「だからね、そういうイレギュラーな人間の器には、イレギュラーな魔力が宿っても、別に驚きはしないんだよね」


 シアンさんが、魔力玉をくるくる回す。


「確かに、そうなのかもしれませんね」


「でしょ?」


 くすっと笑う。


「ちなみに、どれも鍛えないとなーんの意味もないからね」


 シアンさんが、僕の額を軽く小突く。


「はい」


「で、説明の続きね」


「複数持ちは、その分応用の幅があるけど、尖りは単体に劣ることが多い」


「フライは、炎と雷で見れば、複数持ち」


「ちなみに、私はテイム次第で使える属性は増えると見ている」


 にっと笑う。


「どうなっていくのか楽しみでもあるね」


「そうなんですね」


「じゃ、実際にちょっと魔力を動かしてみよっか」


「え?」


 シアンさんが立ち上がる。


「まずは火属性ね」


 シアンさんが、そう言って杖を構えた。


「フライの場合、テイムで繋ぐって感覚はもうあるから、そこに火って要素が足されるだけだと思う」


「今からやるのは、手のひらに、ろうそく一本分の火を灯すイメージ」


「パンの魔力を、フライの器の中でちょっと混ぜる感じかな」


(フライ、やってみよ)


 パンの声が響く。


(いつもみたいに繋いで、その繋いだ先を、少しだけ手のひらに)


 器から、少しだけパンの魔力をすくい上げ、その魔力を器で混ぜるイメージ。


 手のひらに、ほんの少しだけ熱が集まってくる。


 やがて――


「あ」


 手のひらの上に、小さな火が灯った。


 ろうそくの火くらいの大きさ。


 でも、確かに自分の魔力で燃えていると分かった。


「できた!」


「おー、初回にしては、かなり上出来だよ」


 シアンさんが、目を細める。


(フライ、できたね)


 パンの声が嬉しそうだった。


「じゃ、次はその火をちゃんと消す」


 炎を消すイメージ。


 器の魔力を、そっと引き戻すようにすると、手のひらの熱がふっと静かになった。


「こうやって、出すと引っ込めるを、セットで覚えていく」


「それができるようになって、やっと魔法を撃つに進める」


「なるほど」


「炎はこんな感じ」


 シアンさんが、にっと笑う。


「雷は、もうちょっと先」


「雷って一気に魔力が走るからさ、火より制御が難しいんだよ」


「雷は雷で、パディットと相談しながらやってく方がいいと思う」


 僕は頷いた。


「あと、杖があると魔力の通りがよくなるから、杖が出来たらの方がいいかもね」


 その日の鍛錬は、火を灯して消すを何度も繰り返すところで終わった。


 ろうそく一本分の火。


 自分の手のひらという、小さな範囲。


 けれど、終わる頃には、額にうっすらと汗がにじんでいた。


 魔力の使い方が、ようやく少しだけ見え始めた気がした。


「今日はここまでにしよっか」


 シアンさんが、杖を肩に担いだ。


「最初から飛ばしすぎると、魔力切れするからね」


「魔力切れ?」


「ちょっと気持ち悪くて、動けなくなるやつね」


「明日からは、その魔力をどう使うかを、もっと細かく見てく」


「よろしくお願いします」


「任された」


 シアンさんが、いたずらっぽく笑う。


「魔法、ちゃんと扱えるようにしようね」


「頑張ります!」


(明日から、ちゃんと積み重ねていこう)


 そう決めて、その夜はぐっすり眠った。



 翌朝。


 いつものように、僕は牧場の方へ足を向けた。


 村の外れに作られた、モンスターの牧場。


 木の柵でいくつもの区画に分けられた中に、小さな宿舎が並んでいる。


 僕は宿舎の扉をそっと開ける。


(……ふわぁ)


 パディットが顔を上げて、大きなあくびをした。


 床には、寝床用の藁が敷き詰めてある。


 パディット用の区画は他より少し広めで、その奥にはパンのスペースが用意されている。


(おはよう、フライ)


 パンの声がする。


(おはよう)


 用意しておいた餌を、器に分けていく。


 パディットには肉と穀物を混ぜたもの。


(おはよう、パディット)


(ああ、今日も魔法の訓練か)


 パディットが尻尾をぱたぱたと振る。


(うん、がんばるよ)


 餌の器を並べ終え、宿舎の戸をそっと閉める。


 木の柵越しに、牧場全体を見渡す。



 牧場の世話を終えて、今度はハンター詰所の裏手へ向かう。


 ホルスさんの基礎体力鍛錬の時間だ。


 走り込み、体幹の鍛錬、筋力を支えるための簡単な負荷運動。


 ひと通りこなしたあと、地面に手をついて息を整えていると、ホルスさんが腕を組んで僕を見下ろした。


「こりゃ、まだまだ鍛えることになりそうだな」


「そんなに体力ないですか?」


 息を切らしながら顔を上げる。


「いや?」


「一ヶ月程度でつく体力なら、もうすでについてるが、魔法を使うならもっと鍛えろ」


 ホルスさんの目が鋭くなる。


「シアンだって、毎日鍛錬してるぞ」


 シアンさんの火の魔法を思い出す。


 軽く振っているように見える一撃に、ちゃんと芯が通っていた理由が少し分かる気がした。


「分かりました」


「テイムも魔杖も、そいつを支える足腰も、全部必要だ」


「はい」


 汗をぬぐい、深呼吸をひとつ。


「今日は終わりにしよう」


「ありがとうございました」


 そう言うと、僕はハンター詰所の裏手を後にし、ゼンさんのいる工房へと向かった。



 工房の扉を開けると、作業台の前で腕を組んでいたゼンさんが、すぐこちらを振り向いた。


「来たな、フライ」


「あとはルミナストーンをはめ込むだけだ」


 布に包んでいたルミナストーンを出すと、作業台の中央へ置いた。


 その隣には、すでに形の整った杖が乗っている。


 握りやすそうな柄。


 少ししなりのありそうな中腹。


 先端には、小さな窪み。


 そこに、ルミナストーンが収まろうとしていた。


 ゼンさんが、にやっと笑う。


「見てろよ」


 工具を手に取り、慎重に石を窪みに合わせる。


 木とルミナストーンの間に薄い金属の枠をはさみ込む。


 ルミナストーンが、杖の先端にぴたりと収まった。


 次の瞬間、杖全体に、淡い光が一度だけ走る。


「よし、これで完成だ!」


 ゼンさんが、工具を置くと杖を持ち上げ、こちらに差し出した。


「どうだ、魔力を通してみてくれ」


「はい」


 両手で受け取り、握りを確かめ、そっと魔力を流してみる。


 今までよりも、ずっと滑らかに、器の魔力が杖に流れ込む。


 杖の芯を通って先端へ、ルミナストーンのところで、留める。


 昨日よりもずっと軽く、外へ流れ出ていく準備が整っている。


「……すごいです、これ!」


 思わず声が出た。


「昨日、シアンさんのところでやった時より、数倍楽に魔力が出し入れできます」


「器の中でざわついてた分が、ちゃんと通る道に乗った感じです」


「それでいい」


 ゼンさんが、満足そうに頷く。


「杖ってのはな、持ってる力を勝手に倍増させる道具じゃない」


「持ち主の力が、一番無理なく通る道を作ってやるもんだ」


 杖を握り直す。しっくり来る。


「本当に、ありがとうございます」


「おう、シアンとこで鍛錬、がんばれよ」


 ゼンさんが、鼻をこする。


「何かあったら、また来い」


「調整とかもしてやるからよ」


「それと、これをやる」


 そう言って、ゼンさんが作業台の下から布の束を取り出した。


 厚手なのに、手に持つと驚くほど軽い。


「これは?」


「ローブだ」


 ゼンさんが、簡単に広げて見せる。


 膝まで届く丈。


 動きやすいように、裾は少しだけ広がっている。


 内側には、薄い革の当て布も縫い込まれていた。


「魔杖使いなら、これで身を守って戦わないとな」


「布って言っても、ただの布じゃねぇぞ。火や刃を多少は流せるようにしてある」


「何から何まで……ありがとうございます!」


 思わずローブを抱きしめてしまう。


「いや、村の力になるなら、安いもんだ」


 ゼンさんが、照れくさそうに頭をかく。


 ローブを腕にかけ、杖を握り直す。



 その日から、日々の流れは、少しずつ形を持ち始めた。


 朝は、牧場での世話と、ホルスさんの基礎体力鍛錬。


 昼過ぎからは、シアンさんの魔力訓練がメイン。見張り番として立つこともあった。


 そんな日々の中で――


 牧場の宿舎は、少しずつ賑やかになっていった。



 ある日の夜の見張りの時。


 村の上の空を、毎日飛んでいた、鳥のモンスターがいた。


 茶色の羽。


 稲妻のような模様が走る翼。


 雷の魔力をまとった、空気を刺すような鳴き声。


(落ち着いて、ここは獲物がいる場所じゃない)


 テイムの器から伸ばした意識で、少しずつ距離を詰める。


 時間をかけて、少しずつ。


 やがて、その鳥モンスターは諦めたように羽をたたみ、柵の外の高い木の上に腰を落ち着けた。


 後日。


 鳥モンスターは牧場の一角に、落ち着いた寝場所を見つけた。


 雷鳥の“ネール”。


 そんな名前をつけた。



 別の日。


 シアンさんと森で訓練していた時。


 木々の間から、大きな足音が近づいてきた。


 大きな一つ目がぎょろりと光る、大柄な獣。


 厚い毛皮と、角の欠けた頭。


 一つ目獣のクロープ。


(こいつ、どっしりしてるな)


 パディットが呟く。


(でも、落ち着いて眠る場所さえあれば、案外大人しいやつだと思う)


 テイムの器を通じて語りかけると、クロープはしばらくこちらを見つめていた。


 やがて、森の中の一角を自分の縄張りとして認めるようになった。


 それから少し先。


 クロープは、牧場の一番奥の区画に寝床を構えた。


 宿舎の壁にもたれるようにして座り、そのままいびきをかきながら、外の気配をゆるやかに見張っていてくれる。


 一角ウサギのパン。


 キラーウルフのパディット。


 雷鳥のネール。


 一つ目獣のクロープ。


 そんな仲間たちが増えていくにつれて、牧場はますますモンスター牧場になっていった。



 村の外の様子も、少しずつ変わっていった。


 森では、前よりも頻繁にモンスターが顔を出すようになった。


 見張り台に立っている時、柵の外でパディットの雷が閃き、僕の火の魔法が木の間を走ることも増えた。


 僕の火も、雷も。


 少しずつ、少しずつ。


 魔法として形になる回数が、増えていった。



 村の中も、少しずつ変わった。


 ゼンさんとリエラさんの二人目の子が産まれ、パティちゃんはすっかりお姉ちゃんになった。


 テュリップさんは今まで以上に忙しそうに村と外の街道を行き来していた。


 モンスター牧場もみんなの活躍によって、徐々にだが村の人たちにも受け入れられるようになっていって、僕を見て話しかけてくれる人も増えていった。


「モンスターたちも、なんか頼もしくなったな」


「パンちゃんかわいいわよね」


「牧場のおかげでモンスターに襲われないで済む」


 そんな声をかけられるたびに、くすぐったくなりながらも、少しだけ誇らしかった。



 そんな日々を重ねて――


 気づけば、半年の月日が過ぎていた。


 南のダンジョンに潜り、ルミナストーンを持ち帰り、牧場ができてから。


 ゼンさんの工房で、ダイナモの魔杖を作ってもらってから。


 そしてーー


 ホップの手紙を受け取ってから。


 ホップの手紙はというと、あの一通を最後に、もう届いていない。


 ガルディアの噂。


 王位継承の話。


 王家の剣の話。


 そして、ガルディア周辺の赤目の話。


 そのどこかに、ホップが巻き込まれているような気がしてしまう。


 でも――


(ホップなら、ちゃんとやってる)


 独り言みたいに呟きながら、僕は空を見上げる。


 村の上に広がる空は、相変わらず高い。


 けれど、その向こうにあるはずのガルディアの空を、前より少しだけ近く感じる自分もいた。


 ダイナモの杖の柄に手を添える。



 こうして、フライは――


 牧場と仲間たちと、友の行方へのわずかな不安と、確かな信頼とを胸に抱えながら、


 村の日々の中で力を積み重ね、明日へと一歩ずつ進んでいくのだった。


 第一章 アルミ村編 完

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

ここまでで一章完結となります、アルミ村編でした。

自分としては楽しく書けたので満足しています。

次からは二章になります、これからは村の外の冒険を書いていきたいなと思います。

次章も読んでいただけると嬉しいです。

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