【第四章】5.君見いだしたまはむことを
次の日の朝、二人はバルゲートの街にある大広場へとやってきた。中央には噴水が設けられ、簡易的なベンチがその側に置かれており、散歩をする人や、談笑する人などがあちらこちらに見られる。
その一角に目当てのものがあった。
「あの、すみません」
ノエルが、木製の屋根付きカウンターにいる二人の男性に声をかける。
「おや、君は昨日の」
すると、昨日ノエルたちに話しかけてきたメガネの男が二人に気がついた。
彼は昨日同様ベレー帽を軽く上げて爽やかに挨拶をする。
「やぁ、おはよう。来てくれたんだね!」
「おはようございます。しばらくここに滞在することになりそうなので、ゲームに参加してみようかなと」
その言葉に男は嬉しそうにうんうんと頷く。
「いい判断だね! 観光がてら、ぜひぜひ」
そうして彼はカウンターの下から大きめの用紙を二人に見せた。そこにはゲームのルールが書かれているようだ。
「じゃあ早速ルール説明だよ。宝探しゲームはその名の通りで、街に隠されたお宝を探すゲーム。エリアはバルゲートの街全部!」
大きく手を広げるジェスチャーをして「すごいでしょう」と鼻を鳴らす彼に、リラがとても冷静に疑問を投げかける。
「『街全部』って、どこまでのことを指すの?」
「おっと、失礼。ざっくりとですが、南は山道前まで、東は湖まで、北は境界札の立っているところまで、西は……まぁ、あそこは崖ばかりですから、そこまでですね」
「そう。その言い方だと、宝は街の中心地にある可能性が高そうだね」
「ま、僕からは『そうとは限らないと思う』とだけお伝えしておきましょう」
華麗にウインクして見せる。飄々とした様子にリラは肩をすくめた。
「まぁ、基本的には何してもオッケーです。あ、常識の範囲で、ですよ? 制限時間も特に設けてませんが、宝を見つけた時点で終了です。ご滞在中に見つけられなかったらリタイアでも結構。ペナルティは発生しませんので、どうぞ気軽に遊んでください! さて、続いてヒントですが……」
そう言いながら、彼はカウンターの下から今度は封筒を一枚取り出した。白い封筒に、紅の蝋で封印されている。
「ヒントはこちらの封筒の中にあります! 一番に宝を見つけられた方には宝の他、街から別途プレゼントをご用意していますので、頑張ってくださいね!」
差し出された封筒はやけに厚みがある。表には何も書かれておらず、裏には見たことのない紋章が彫られた紅色の封蝋が押されていた。
「この紋章は……中央に、何かの門……? 下には波、上には……花か……」
「――さて、説明は以上です。何かご質問はありますか?」
「西の外れにある洋館は入ってもいいの?」
隣でリラが言うと、受付の男は二人ともハッとするような表情を見せた。かと思うと、メガネの男の隣に控えていた男が苦笑した。
「お嬢ちゃん、誰から聞いたか知らねーけど、あの幽霊屋敷はやめといた方がいいぜ」
『お嬢ちゃん』という言い回しが癪に触ったのか、リラはわずかにムッとした表情を見せる。
「入っていいのか悪いのか聞いてるのだけど」
すかさずメガネの男が笑顔で間に入る。
「もちろん、あそこは今は誰も住んでいないし、立ち入りの許可は取ってありますよ。ただ、そこで何があっても僕らは一切責任は取れないので。……くれぐれも自己責任で、よろしくお願いいたしますね」
「じ、自己責任……」
ノエルは彼の念押しに思わず息を呑み込むが、リラはまったく意に介さず、質問を終えると澄ました顔で歩き出した。
「あっ、待ってよ、リラ」
そうして去っていく二人の背中にメガネの男性はにこやかに手を振った。
「いってらっしゃ〜い!」
二人は大広場を離れ、その先にある石造りの橋の上で立ち止まった。
陽の光が、流れる川の水面に乱反射している。
「それじゃあ中身、見てみようか」
ノエルが声をかけ、橋の上で立ち止まると受け取った封筒を丁寧に開けた。
「中には……紙が二枚」
大小、大きさの違う用紙が入っている。ノエルはまず、八つ折りにされた大きな紙の方を開く。しかし、すぐに目を見張った。
「これは……なんだ?」
「すごい、綺麗な模様だね」
A3サイズほどの大きさの用紙には、紙いっぱいに円状の大きくて美しい模様が描かれていた。
「これって、いわゆる幾何学模様ってやつか? 何を表しているんだろう」
「もう一枚の紙にヒントがあるんじゃない?」
「そうだな」
ノエルはもう一枚の二つ折りにされた手紙サイズの小さな紙を開く。そこには整った文字である文章がつらつらと書かれていた。
「——生きとし生ける者は、ある日、空を願った」
それをゆっくりと読み上げる。物語を読むかのように。
「蒼穹を往くひとつの白き手が、あるべき姿を示し出す。真実はいつも、目に見えぬ場所に。幾千の時が二人を隔てようとも、我が願いはいつもそこに。数多の色が言葉となりて、ひと雫こぼれ落ちる。……君見いだしたまはむことを」
「え? 最後、なに?」
ふと、言葉遣いが急に変わりリラが聞き返した。
「君見いだしたまはむことを。ヴェルシオンじゃあまり聞かない表現だな」
「……君、見いだしたまはむことを」
リラは最後の一文をゆっくりと自身の中で噛み砕くように呟くと、次いで「封筒、見せて」とノエルから封筒を受け取った。
そこに押された紅の封蝋を見つめる。
「門のようなものに、下には海の波、上の花は桜だね」
「見たことない紋章だな。家紋にしては複雑すぎる気もする」
「そうだね。けど……」
彼女はどこか深刻そうに眉をひそめる。
「……もしかしたら、この文章は……」
小さな呟きが静かに風に流れた。けれど、彼女から次の言葉が出ることはなく、ただフッと息を吐いてその表情は穏やかなものへと戻った。
「リラ……?」
「ううん。なんでもない」
視線が輝く水面に落ちる。吹き抜ける風が、リラの握る紙をそっと揺らした。
「『宝探し』か……」
それはどこか重い雰囲気をまとってこぼれた。
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