第83話 推薦試験への同行者
前回のあらすじ:
対魔物戦闘試験の集合場所近くにある高級ホテルに1泊した。
特別な部屋へと案内されたユウキたちを見て、タマキと同じクラスの金持ち同級生が文句を言っていた。
時刻は朝の6時30分。
既に季節は冬となっており、東京ダンジョンの中でも12月の早朝は1桁台の気温となっている。魔物が居る塔等の施設に入ってしまえばまた別であるが、東京ダンジョン入り口のエリアはダンジョン外の環境とほぼ同じである。
そんな戦闘用のシーカー装備では寒いと言える早朝に、ユウキたちは装備の上からコートを着込んで移動している。
上位海竜の革を使って作ったコートであり、これ自体がSR級の装備でもある。とはいえこれを鎧代わりに装備できるのがタマキだけであったのだが。
ユウキだけでなく、サクラもSR級防具を装備すると動けなくなってしまったのだ。
タマキにしてもわざわざ動きにくいコートを装備するよりもこれまでの革鎧の方が楽であり、そもそも3人は対魔物結界で自分たちを守っているので防具に関してはあまり気にしていない。
そのため3人はコートを装備せず、ただ普段のシーカー装備の上から着ているだけである。当然ダンジョンシステムとしては装備していることにならず、特殊効果は発動しない。耐久の身代わりに関しても、防御力の合計化に関しても。
とはいえそれでも温かいことに変わりはなく、素材的にコート自体の防御力も耐久もすごいので着ている意味はあるのだけれど。
ユウキたちがこんな朝早い時間に移動し始めているのは、試験の集合時間が6時45分であり、その10分前行動として集合場所へと向かっているからである。
実際の試験場所であるウエノ第3塔へと移動を開始するのは朝7時の予定だが、試験監督との顔合わせや注意事項があるために集合時間は15分前となっている。
試験開始がこのような朝早くから行われるのには、当然のことながら理由がある。試験を行うのに都合の良い塔は都市のすぐ傍には7個しかなく、他の塔へ行くには移動時間が必要となる。
それに対して受験生の数は多い。小山ダンジョンからの受験生だけでも、対人戦闘試験を通過しているのは約8000人もいるのだ。
しかし塔に出現している魔物の数には限度がある。そして一度倒すと3時間待たないと復活しない。そのため試験は7時、10時、13時、16時、19時と1日5回の出発時間となっている。
1回の参加者は約40人になるようにPT数を調整されており、1日で約200人。週5日で約1000人。これが4週間続いて1個の塔で約4000人。7個の塔で合計約28000人が今回の交流都市ウエノ全体での対魔物戦闘試験受験者数である。
受験者はできる限り出身校で集まるようになっている。これは道中のトラブルを回避する為である。普段から一緒に実習を受けていた者同士の方がお互いの事を分かっており、試験がスムーズに進むのだ。
……一般的には。
『タマキ、思いっきり睨まれてるんだけど』
集合場所の体育館へと到着し、コートを脱いで中に入ったユウキはホテルで絡んできた男3人からずっと睨まれているのである。
『まぁいいじゃない。向こうも新しい高校へ行く事にするのかは分からないけど、面倒なことは早めに片付いてもらった方が楽よ。
どうせ大した事は出来ないだろうし』
『なんか大変ですね』
『サクラちゃんの方は学校ではどうだったの?』
『私はそもそもがあまり役に立ってませんでしたから』
『でも昨日は誘われてたよね?』
『それは対人戦闘試験を見ていたからだと思います。
私だって容姿には自信がありますけど、それだけだと自分から売り込みに行かないとなかなか……。
タマキさんはそれに加えて強いから相手から誘ってくるんだと思います』
『魔物を倒すためのPT編成として考えるか、楽しむためのPT編成を考えるかの違いよ。
ナンパしてくるのは楽しむためのPTを組みたい人ね。受験や実習では先ずは魔物を倒すためのPT編成だから。サクラちゃんが学校であまり誘われなかったのはそういう関係なのかもしれないわね』
そんな事をPT会話で話しつつ時間を潰していると、集合場所へと試験官達が現れた。
「皆さんおはようございます」
あいさつに続いて出席確認を行い、参加予定者が全員そろっていることを確かめた後に試験の内容について再度説明される。
対魔物戦闘試験では、塔5階の魔物を倒せる事が最低条件となる。
1階から4階の魔物は倒したとしても点数としては考慮されず、5階の魔物を倒せない時点で失格である。とはいえ対人戦闘試験において5階で戦うには危険と判断された者は既に落とされており、基本的には何階の魔物まで倒せるかが重要となる。
6人PTでの戦闘が基本となり、5階の魔物を倒すと6P。これをPT人数で割ったポイントがそれぞれの受験生の得点となる。
同時に2体相手取り倒せば2倍の得点となるが、1体ずつ倒していった場合には加算されない。あくまでどれだけ強い敵を倒せるかというのが重要となる。
但し倒した魔物の素材があまりにもむごい場合は減点対象となるため、その場合は同じ階層できれいに倒し直した方が良いという場合はある。
階層が1回上がる毎に獲得得点は2倍となり、最終的にどこの階の魔物を倒して得た得点が一番高いかが成績となる。
リンク狩りにて大量に同時に倒すという方法も存在するが、点数として同時戦闘に計算されるのはPT人数の2倍までとなる。これにより雑魚を大量に相手にするだけでは上位にはなれないのである。
「それでは、皆さんと同行する試験監督を兼ねた護衛を紹介します」
試験官の言葉に従い、10名の試験監督官が現れる。今回の受験生PTは、ユウキたち3名PTが1個、4名PTが2個、5名PTが1個、6名PTが4個の8PTである。
それに対して試験監督官が10名。特にその内3名は見た目が他と明らかに違う。
7名は学校関係者であり、3名は現役のプロの有望ダンジョンシーカーだ。学校関係者はごく普通の装備だが、3人は明らかに見た目重視の見せ装備。まるで衣装である。
男性2人も実用性に疑問が残る格好であるが、女性の方は特に凄い。
下装備のホットパンツはまだ革のズボンと大差ないが、上装備となる部分がサスペンダーのみ。
前から見れば大事な部分は隠れているが、横から見ればほとんど丸見えである。
――あれは装備になるのか?
多くの者が疑問に思う中、それぞれの試験監督官が対応するPTの元へと訪れる。
見た目重視の試験監督官が全員ユウキたちの元へ。
「試験官!
これっておかしくないですか?」
すかさず受験生から試験官への質問が飛ぶ。
ずっとユウキの事を睨みつけている男からだ。
「どうしましたか?」
「なんで3人PTのところに3人も試験監督官が行くんですか?
護衛を兼ねるなら人数が多い所ほど人手が要ると思います」
流石にいくら何でも試験監督官を入れ替えて欲しいというのは言いにくい。先ずは人数的な問題から初めて情報を引き出そうと考えている。
「なるほど。
確かに守る必要がある者が多いほど手はかかりますが、通常の試験で向かうのは5階層から上がる程度ですので問題ありません。
彼ら3名の受験生は戦闘能力を推薦された推薦試験も兼ねています。推薦試験自体は15階までたどり着けないようであれば無効化され、後はさらにどこまでたどり着けるかというところで考慮されます。
そのため魔物の難易度がどんどん上がりますので担当してもらう試験監督官は現役のプロダンジョンシーカーの方々です。そのため少し特殊な装備をされていますが、実力は確かです」
「……それは彼らと同じように15階層まで魔物を倒してたどりつく事が出来れば、俺達も戦闘能力で推薦される要件を満たしているという事ですか?」
「彼らと同じ推薦という意味では満たしていませんが、15階層までの魔物を倒せるのであれば試験官として十分な戦闘力があるという推薦をつけましょう。
とはいえそんな事をしなくても、15階までたどり着けるのであれば学科試験でよほどの事がない限り落ちることは無いと思いますけどね」
素質の無いユウキが居て出来る事なら自分たちにもできるはず。
さらには一緒に行動すれば問題とならない範囲で妨害しつつ自分たちの方が上だという事をアピールできる。
そんな思惑を胸に秘め、男たちはユウキたちと共に上の階を目指していこうと決めたのであった。




