第82話 試験場所への移動と高級ホテル
前回のあらすじ:
推薦試験の説明を受けた。
スライムとなって特訓した(ハズ)
「今日はどうする?
現地でどこかに泊まってもいいし、宿泊設備展開してもいいし、目印を付けたら帰ってもいいだろうし……」
対魔物戦闘試験前日。
ユウキたち3人は、現在翌日の集合場所付近へと魔道列車に乗って移動している。魔道列車とは魔石のエネルギーを使用して動く列車なのだが、実際は魔石のエネルギーを電気エネルギーに変えて使用しているのであくまで電車である。最新の技術では魔石のエネルギーを直接使用して動力へと変換する魔道具も存在しているのだが、交流都市ウエノは古くから発展していた都市であり、今もなお昔の技術がそのまま使用されている。
今回行われる対魔物戦闘試験は魔物との戦いであり、当然都市の外へと向かう必要がある。
交流都市ウエノにある出入り口は全部で8個用意されており、1番出口は東京ダンジョンの出入り口との移動用、残りの7個はそれぞれ近くに塔がある場所に存在している。
都市の傍に7個も塔が存在しているのは、巨大なムーブコアにより押しのけられた場所に存在するはずの塔がそのムーブコア外周に移動しているために起きている現象で、出入口はそこに移動しやすいように用意したのである。
そのうちのひとつ、3番出口の近くにある塔が今回ユウキたちが対魔物試験として使用する塔だ。
「そうねぇ。現地にもギルドの支部があるみたいだし、ちょっと周りも見てみたいわね」
ユウキの問いかけに答えるタマキ。
交流都市ウエノの人口は、小山ダンジョンの住民を受け入れている影響も含めて現在700万人近くまで膨らんでいる。そうでなくとも元々約500万人の人口があった都市だ。当然ローカルシーカーもたくさん存在している。
都市の面積分押しのけられた魔物が都市の外には存在しており、しかもまだ入り口付近のエリアのため魔物は弱い。
都市の出口から出た場所は格好の狩場となっている。そしてその素材を買い取るために、各出口の傍にはそれぞれダンジョン探索ギルドの支部が存在しているのである。
そしてもちろん、人が集まれば店もできる。食事処や宿泊所、サービス施設などなど周辺には様々な店が集まっている。
「たまには普通の宿に泊まるのもいいかもしれませんね」
ユウキたちは基本的に宿泊設備である温泉旅館の宝玉をいつも使用している。場所はクラン黄昏で借りている場所を使用しているが、EPは十分にあるのでわざわざ宿を用意する必要はない。それでもたまには遊び気分で普通の宿に泊まってみたくなる時もある。
「いい宿があるといいね」
「都市の出入り口なら素材を手に入れて加工する会社とかもあるだろうし、そこから仕入れる為に来る人もいると思うわ。だからそこそこの宿はあると思うわよ」
3人は試験前とは思えないようなのんびりとした会話をしながら、目的地である3番出口前駅を目指して魔道列車を乗り継いでいくのだった。
「1番出口程ではないけど、やっぱり活気があるわね」
「あっちはダンジョンの外からくるダンジョンシーカー向けの商売だからなのかな?
ダンジョン探索協会の本部も1番出口付近にあるし」
「この都市にくる方法として、帰還石でダンジョン出入り口に飛んでからくる人が居るんだと思うわ。わざわざ護衛雇って移動するのも大変だし、転移魔法を使って運んでもらうよりも安くつくと思うのよ。
帰りは転移魔法を使うのか、護衛を雇って移動するのかは分からないけど」
「ああ、そういう移動方法もあるか」
「防衛軍の人も1番出口付近を使うでしょうから、それもありそうな気がします」
そんな会話をしながら先ずは集合場所を確認し、そして辺りを散策しながら宿泊施設も探していく。イチゴの町やマジクでも見なかったような高層の建物もあれば、豪華な外見の宿もある。都市全体としては十分な広さがあるものの、出口付近の土地という意味では限りがある。
「ここなんてどうかしら」
高宮ロイヤルプリンセスホテルと表示されているひときわ豪華な外見のホテル。
特にお金に困っていないユウキたちだが、普段から無駄遣いをしているわけでもない。しかしこんなホテルは今までみたことが無かった為、どうせなら泊まってみようかという結論となったところでホテルの入り口からタマキに声がかけられた。
「小野寺さん!」
声をかけてきたのはタマキと同じ中学校に居た金持ちグループの1人である。元々5人組のPTであったがそのうち2人は小山ダンジョンに残り、3人が東京ダンジョンへとやってきていた。今はクラスメイトの女性1人を入れて4人PTとして動いている。
「こんばんは」
面倒だと思いつつもクラスメイトに声をかけられただけなので普通に応対するタマキ。やってきた男3人女1人の4人共がクラスメイトであるが、ユウキやサクラは当然その中の誰についても面識がない。
「小野寺さんも一緒に泊まりませんか?
PT契約で6人部屋に宿泊しているので、あと2人なら追加料金なしで泊まれるんです。
よろしければ一緒の女性もどうぞ。
せっかくの記念になるでしょうしね、さぁ。
あ、並野君は申しわけない。非常に残念ながら後2人しか部屋に泊まれないんですよ。
いやー残念ですね」
「ん?
言っている意味が分からないけど、俺の名前を知ってるんだ。
タマキの知り合いだよね?」
「そうね。
まぁ、行きましょうか」
その言葉を聞き、にやりとした顔をユウキに向けてホテルに戻る男3人とタマキの事をにらみつける女性が1人。
そしてユウキたち3人も特に気にすることなくホテルへと入っていく。
「そこの君、この部屋4人予定だったけど6人に変わるから調整しておいてくれ」
等と言う声が聞こえているのとは別のカウンターでタマキがフロントスタッフに声をかける。
「すいません。これで今日泊まれる部屋は空いていますか?
こちらへ来た記念のようなものなので3人で泊まれれば大きくても構わないので一番いい部屋が良いのですが。期間は今日の1泊です」
そう言ってタマキはクランカードと自分の身分証明用に学生証を提示する。
ユウキは知らない事だが、クランカードにも実は信用度が存在している。そしてクラン黄昏は当然のごとくほぼ最上級となるAランクだ。Sランクも仕様上は存在しているのだが、今のところ実際にSランクになったクランは存在していない。
そのためAランクカードは最上級の信用を得ることができるカードなのである。
そしてクランカードにも使用者制限が付いている為、タマキは自分の身分証明も一緒に見せたのだ。
こんな回りくどい事をしなくてもシルバーカードを見せれば十分なのだが、今回はそこまでしなくても十分に対処できるはずとタマキは考えている。
シーカーカードやクランカードの残高確認自体はギルドや本人しかできないが、支払いに使用する店舗でも疑似的な残高確認を行う事が出来る。
消費予定ポイントに対して支払い能力が十分かあらかじめ確認できるのだ。
そしてこのホテルでは、カードを差し込み信用度を入力することにより、対応可能な部屋が表示される仕組みとなっている。
「確認いたしました。ありがとうございます」
ホテルスタッフはそう言うとまずは身分証明用の学生証を返却する。シーカーカードやクランカードの場合、チェックインの段階で部屋などの支払いが発生し、チェックアウト時に追加料金を再び支払う事になるからだ。
「お客様のご希望に合わせますと、当ホテルの最上級となりますロイヤルプリンセスルームはいかがでしょうか?」
時刻はまだ16時前。予約が無くてもアップグレードで埋めずに普段から空けておく部屋であり、信用度の高い人以外はそもそもが案内すらされない部屋。そしてこれは本人の信用度が必要な条件であり、クランカードにタマキの名前が入っていたから案内された部屋である。
1泊で税やサービス料込みで約250万DPという高額ではあるが、専用のコンシェルジュが男女1名づつ付く上に部屋自体が10名宿泊できる広さを持っている。当然のことながら専用のキッチンにバスルーム、リビングも付いており、価格相応の豪華なプランとなる。
「ねぇ、2人とも。ここでいい?」
タマキは案内されたリーフレットを2人に見せて聞いているが既に顔がここに泊まりたいと告げている。
「いいんじゃない?
こういう体験もしてみたいよね」
ベッドには天蓋が付いており、名前の通りまさにお姫様気分を味わえそうな写真がリーフレットに載っている。ユウキはタマキが泊まりたいならそれでいいのではないかと考えたのだ。
「凄いですね。私もここに泊まってみたいです」
「なら決まりね。ここでお願いします」
「畏まりました」
そう言って何もなかったように手続きを進めるタマキとスタッフとは別に、別カウンターで状況に気が付く男たち。
「は?」
「え?」
「どういうこと?」
そしてさらに加わる女性の一言。
「ねぇ、なんで私たちは最上級の部屋じゃないの?」
「そういえば。君、なんで僕達は最上級の部屋を案内されてないんだ?」
「確認いたします。
……お客様は一般のお客様となりますので、特別ルームへの宿泊は対象外となっております」
資産家として、あるいは経営者として成功しているのは父親であり本人ではない。そして家から金は貰ってきているものの、資産家や経営者としてのカードを持たせてもらえたわけではない。あくまで必要な分をお小遣いとしてもらっているだけである。
当然父親がきて予約をしたのであれば案内されるのだが、子供達だけであれば金を持っているだけの中学生だ。何かがあっても父親が責任を取るという訳でもない。
「じゃぁ、なんであいつらは案内されるんだよ」
「お客様の個人情報をお伝えする事は出来ません」
「おぃ、並野!
なんでお前らが特別なんだよ」
うるさいとは思っていたが、急に呼びかけられてびっくりするユウキ。しかし何故だかなんてユウキだって知るわけがない。ユウキ自身は、クランカードにそんな機能があることなど知らないのだから。
「えっと、君が誰だか知らないけど、俺がそんなこと知るわけないでしょ。
じゃあね」
そうして準備が整ったスタッフに案内され、ユウキたち3人はフロントを後にして部屋へと向かっていくのだった……。
「ぷっ。ふふふふふ」
部屋についての案内が終わり、3人でのんびりとリビングで過ごす。
すると急にタマキが思い出したかのように吹き出し、そのまま忍び笑いを始めた。
「どうしたの?」
「いや、フロントでのあの一幕。
ちょっとスッキリしたから」
「結局あれは何だったの?」
「お金で何でも手に入ると思っているバカの一味よ。
私が施設出身だと知っているから、ここに泊まれるお金なんて持ってないと思ったんでしょ。ユウキの事も知っていたから、もしかしたらユウキも施設出身だと知っていたのかもね。
さすがにサクラちゃんの事は詳しく知らなかったみたいだけど」
「ユウキさんだけを外して私たち2人をっていう事は、そういう意味なんですよね?」
「そうね。
そして受け入れたら試験では無理でも高校からは一緒にPTを組もうとでも言ってくるつもりだったんじゃないかしら」
「なるほど。最近お金に無頓着になってたから、不思議なことを言っている意味が良く分からなかった。
この部屋の料金も別に高いという気がしなかったし、ちょっとやばいかも」
「急にお金に困らなくなっちゃったからね」
「私はいまだに信じられませんけどね」
「お金があればできることも多いけど、お金で解決できない事もあるよね……」
「ユウキは何を解決したいの?」
「え?
うーん……笑わない?」
「もちろん」
「笑いません」
2人の返事を聞いて一息入れ、ユウキは今考えている事を話し始める。
「えっとさ。ほら、何たら大臣の人が言ったらしいじゃない?
俺が死ぬとダンジョンボスを倒せる人が居なくなるからいずれダンジョン管理者が居なくなってダンジョンがリセットされるって。
これって俺たちにとっても他人事じゃないんだと言われて気が付いたんだよね。
俺と2人との間にだって、いつか子供が出来るじゃない?
子供はまだ大丈夫だと思うけど、孫や曾孫の代になると俺が管理者を更新できるか分からないし、それ以降は多分無理だよね。
だからそれまでに何とか俺以外の人がダンジョンボスを倒せる力をつけるにはどうすればいいのかなって。何か俺にもできることが無いのかなと思ってね」
「そうねぇ。
私達に出来る事と言えば、クラスミッションを進めて共通ミッションがどうなるかとかを調べる事じゃない?
それ以外の事は他の人だってできるんだから」
「そうですよ。
それにガイドさんは言ってたじゃないですか。『自分自身でいきなり魔法を使えなくても、システムの補助で色々と学べるように』って。だからダンジョンシステムをいろいろ利用して学んでいけば、本当にダンジョンシステム外で魔法を使えるようになる可能性があると思うんです。
そのためにもミッションをやって先に進むのが良いと思います」
「やっぱそこだよねぇ。
すぐには結果が出ないけど」
「のんびりやればいいじゃない。
ほら、私達といつか子供を作るんでしょ。そのためには体も鍛えないとね」
嬉しそうにそう言ったタマキがユウキに突っ込みを入れる。
「そうですね。私も入ってましたよね。えへへへへ」
サクラもうれしそうである。
「あーもう。だから笑わないって確認したのに」
「笑ってないわよ。喜んでいるだけで」
「そうですよー。頑張りましょうね」
その後食事の為にドレスに着替えてみたり、天蓋付きのベッドの上でイチャイチャしてみたりと初めての高級ホテルでの1泊を3人で楽しんでいく。
そして翌日。
対魔物戦闘試験の集合場所へと到着したユウキたち3人は、別の部屋に泊まっていた4人からより一層睨まれる事になるのだった。




