第84話 対魔物戦闘試験1
前回のあらすじ:
対魔物戦闘試験の集合場所へと集まった。
試験監督官の中にセクシーお姉さんが居た。
「試験監督官として同行するクラン千本桜所属の海藤よ。よろしくね」
「同じく増田だ」
「瀬川だ。よろしくな」
「「「よろしくお願いします」」」
ユウキたちへの自己紹介を終えた海藤は、第一印象としてのアピールはまずまず成功したと安心する。対象であるユウキの目線はしっかりととらえており、見た目重視の装備効果は十分に発揮できているからだ。
それに対し、増田と瀬川の第一歩は上手くいったとは言えない。
普段であれば何もしなくても女性の方から近寄ってくる。声をかければ当然のようについてくる。2人も当然自分たちの見た目が良いことは理解しており、現に受験生の中には担当ではないにもかかわらず自分達の方へ目線を向けている者達が居る。
しかし肝心の対象であるタマキとサクラが2人の方を向いていない。
タマキとサクラが見ている対象は……海藤だ。
「そのサスペンダーもダンジョン産装備なんですか?」
サクラが目をキラキラさせながら海藤に聞く。
サクラだけでなくタマキも興味を示しており、増田と瀬川の事など眼中にないのである。
「残念ながら、違うわ。これは人の手で作られた物よ。
だから大きさの自動調節とかは無いの。
もちろんスキル持ちが作っているから、装備をできる物よ」
「でもこれ……装備登録はどうしているんです?
ホットパンツを挟んでますよね」
「これ実は、サスペンダーとホットパンツを併せて上下装備として1個の登録をしているのよ」
「あ、これ2個合わせて全身スーツと同じような登録なんですね。
こういう手があるんですか」
「見え方と実際は、必ずしも一致させる必要はないのよ」
「勉強になります。
ユウキさん、これって作れないですか?」
ユウキは対象を<解析>することにより、材料と対応スキルさえあれば生産することができる【神器】万能工作機を所持している。
しかしこの【神器】にも弱点はある。
「ダンジョン産じゃないから、今の俺では無理だと思う」
ダンジョン産のアイテムはあくまでダンジョンシステムの中で完結している物である。そのためドロップ品や宝箱から出たアイテムは簡単に解析して再現方法も分かるのだが、人の手で作り出されたアイテムは作り方までは分からないのである。
とは言えこれはユウキの【神器】万能工作機だけではなく、タマキの【神器】万能錬金釜にも似たような特徴がある。
当初アヤが作る材料を使ってのポーションは、タマキの【神器】を利用した錬金術では作る事が出来なかった。これはユウキの解析でも作り方が分からなかったため、他のアイテムと同じく人の手で作られたものは無理なのだろうと思われた。
しかしタマキがアヤのやり方を学び、実際にダンジョンシステム外で行われている部分を理解すると【神器】万能錬金釜でも同じ材料でポーションを作る事が出来るようになった。
この結果により、ダンジョンシステム外の事でも、自分たちが理解すれば作れるようになるのではないかと2人は考えている。
「スミレさんなら作れるんじゃない?
まぁ、普通に売っているお店を探した方が早い気がするけど。サクラちゃん今度はそれ着て踊るの?」
「だって、すごくないですか?」
「いや、凄いとは思うけどね」
「見たくないですか?」
「そりゃぁ、見たいか見たくないかと言ったら見たいけどさぁ」
「ほら、タマキさんだって興味津々ですよ」
「ユウキ、私が着ているのも見てみたい?」
「そりゃぁ見たいけど。でもタマキのは他の人に見せたくないというか何というか……」
「私だって外で着ようとは思わないわよ」
「あれー、ユウキさん。私とタマキさんの反応に差が無いですかー」
「だってサクラちゃんはこういうの着てみんなに見てもらいたいでしょ?
今の踊り子の格好だって十分に凄いと思うし、普段着だって攻めてるし。
でもタマキは普段そういう格好とまではいかないから何となくね」
等と言う試験監督官を放置して盛り上がる3人を見て、かわいいわねぇ、等と内心思う海藤であった。
移動開始時間となり、集合場所から塔へと向かう一行。再び外に出ることになるので各々が防寒装備を着込んでいる。これは当然海藤たち3人も上にコートを着ており、流石に肌の露出を抑えている。
3番出口から出て石の階段を降りきると、そこでは大勢のローカルシーカーたちが戦闘を繰り広げている。
交流都市ウエノの人口は多い。そのため魔物の素材も魔石も需要が多く、3時間で復活する魔物が都市のすぐ外に居るのは持ち帰りの時間を考えても好都合なのだ。
特にこの時期は塔の使用が対魔物戦闘試験の為に制限されることも重なり、出入り口付近の魔物が取り合いの激戦区となるのは当然のことと言える。
「色が違う」
塔の前までたどり着いた受験生たちの誰かが感想を漏らす。
これまで小山ダンジョンで見てきた塔は、全て薄茶色の外観をした塔だった。これはユウキ達も同じ感想であり、海底ダンジョンや他のダンジョンで見た塔も全て薄茶色の塔だった。しかし今目の前にある塔は、こげ茶色の外観をしている。
「これまで受験した小山ダンジョン出身の受験者たちも、今の感想と同じことを言っていたらしいぞ。
これはダンジョンの発展の違いによる物と思えばいい。昔はこの東京ダンジョンの塔も薄茶色だったそうだ。
違いは中の通路の太さと魔物の量であり、魔物の種類や強さは当時と変わりがない」
試験監督官の一人が説明を始める。塔という施設はダンジョンのどこにあっても1階は1階なりの強さが、10階は10階なりの強さがという風に魔物の強さはほぼ変わらない。種類の違いによる難易度こそあるものの、今回は魔物を倒せるかという点だけが重要であり移動は集団で行う事になっている。
「段階開放の開放数の違いですか?」
ユウキがそばに居た海藤に質問をする。
「当たり。段階開放なんてよく知ってたわねぇ。
それ、大学で習うことのはずよ」
「そうなんですね。
開放数が上がると既存施設にも影響が出ると……」
「確か4段階目までは変わらず、5段階目で変わったという話だったはずね。
塔の攻略が難しくなったという見方もできるけど、倒せる魔物の量が増えてよくなったという見方もできるわ。
これだけ多くの人が集まると、都市の近くの魔物はどうしても取り合いになるのよね。
だからダンジョンシーカーの国家ライセンスを取れた人は、近場ではなく遠くの魔物を狩ってくるのよ」
そんな雑談をしながら他の受験生たちと一緒に塔の中へと入っていく。
「確かに通路が広いね」
「そうね。これなら人の出入りも楽だとは思うけど、その分魔物を止めるのは厄介ね」
ユウキの言葉にタマキが返す。
ウエノ第3塔の1階は迷宮タイプとなっており、床面は平らな茶色の土面で壁面も天井も同様な平面で構成されている。
普段の通路幅は4m程度であり、前衛が二人前で構えていればそこを抜けて回りこむというのはなかなか難しい状況となる。しかし今の通路はおよそ倍の8m近くはあると思われる。
PT同士が普通にすれ違う事が出来、1PTで多くの魔物と戦おうとすれば回り込まれる可能性が十分にある。
通路が広がった影響なのか、壁にあるランプのような照明以外に天井にも吊り下げ式の照明が追加されており、通路全体に十分な量の明かりが供給されている。
「地面が石じゃなくて土タイプってことは、最初は植物系かねぇ」
「多分そうね。とはいえ一番後ろの私達に1階の魔物が残っているとは思えないけど」
集団で移動するうえに移動するPTの順番は決まっており、ユウキたちのPTは一番後ろである。とはいえ5階まではそもそも倒したところで試験への影響は無く、5階は地上タイプであるためそこからは各PTで戦闘を行い魔物を倒す必要がある。
そして先頭の方から、「トマトが飛んできた」等と言う声が聞こえてくる。
「ダンジョントマト。美味しそうだね」
「ユウキ。少し確保ね」
「了解」
ただ聞いているだけでは飛んできたトマトを確保するように聞こえるが、実際は移動経路以外にあるトマトを確保するようにという指示である。
そしていつの間にか新鮮なトマトを頬張りつつ移動するユウキたち3人を見た試験監督官は、「いつの間に倒したんだ?」等と思いつつも何処からか飛んできたトマトをうまくつかんだのだろうという結論に至った。
こうして緊張感の欠片もないユウキたちの対魔物戦闘試験が始まったのだった。




