第78話 対人戦闘試験1
前回のあらすじ:
戦闘試験に向けて修行などをした。
――12月1日。
ダンジョン科入学試験。
その1次試験と言える対人戦闘試験が行われるこの日、小山ダンジョン出身の受験生たちは指定されたイベント会場へ集まっていた。
かつて地球上にあった東京ドームを模して造られたイベント会場の客席には、1万人を超える受験生たちが座っている。
普段この施設ではコンサートや各種イベント等が行われているが、今日は10面に区切られたスペースのそれぞれで対人戦闘試験が行われる予定である。
持ち時間一組最大5分、交代を含めると10面合わせて1時間で最大100組程度の試験進行速度である。仮に全員が6人PTだったとしても、今日中に終わるものではない。
実際は全員の試験が終わるまでに、数日かかる予定である。
「受験生の皆さん、おはようございます」
ドーム内壁面に設置された大型スクリーンに、女性の姿が映し出された。
対人戦試験の進行役の一人である。
「先ずはみなさんに、嬉しいお知らせがあります。
本日から行われる対人戦闘試験ですが、この小山ダンジョン出身の受験生に限り、1回だけ敗者復活ができる措置が追加されました。
これは、本来予定していた小山ダンジョンでの受験ではなく、ダンジョン間の移動やダンジョンそのものの違いなど様々なことを考慮しての特別措置となります。
PTを組む予定だった人が小山ダンジョンに残っている人もいるでしょう。敗者復活は、PTを分離して組み直しても構いません。
また、6人に満たない合格者PTが復活対象の人を組み込むことも可能です。
ただし、合格基準は変わりません。
この対人戦闘試験は、対魔物試験へと進むのが危険かどうかを判断するためのものです。そのPTで十分対応できると力を示すことが出来れば、敗者復活の受験生も通過することができます。その場合、当然のことですが対魔物試験はそのPTで受験することとなりますので気を付けて下さい」
本来は1人1回の挑戦権が2回になる。
これはダンジョン移住によって、本来とは違う形となってしまった受験者PTの救済措置である。元々予定していた連携が出来ないPTもあれば、主力予定者が抜けてしまったPTもある。
さらには、小山ダンジョンと違って東京ダンジョンにはダンジョン科のある高校は各地に存在し、交流都市ウエノ内にも国立の他に私立がある。
割合で考えれば、小山ダンジョンの時よりも多くの受験生を高校で受けとめることができるのだ。
そのため力を合わせて突破できるものは、突破して欲しいという陰ながらの事情も影響していた。
「これは、もしかしたら他の受験生の動きも見て勉強しろという事を言っているのかもしれないわね」
スクリーンを見ながら案内を聞いたタマキが、思ったことを口にする。受験生たちは既に受験用の装備に着替えており、ユウキの両隣りに座っているタマキとサクラには少なく無い視線が集まっている。
タマキとサクラが着ている装備は軽革鎧に革ズボン、革のブーツに革のグローブ、革の髪飾りである。
女性用の軽革鎧は胸を強調するようなビキニトップタイプであり、革ズボンもホットパンツのように短い装備である。そして最大の謎は、何故革の髪飾りが防具になるのか不明なのだが、ダンジョン産の品というものはそう言うものである。
そう、これはあくまでダンジョンが作り出した装備であって、ダンジョン内の素材を元に人が作り出した装備ではない。
ダンジョン産の装備は、装備者の性別や体格に合わせて自動調整される。しかしダンジョン素材を使って人が作る場合、自動調整されることなどない。どうすれば自動調整されるようにできるのかが、まだ分からないのである。
今回使っているのはあくまで初心者用のドロップ品であるため、大量に試験用に確保されているのだ。体格も男女も関係なく使え、クリーンの魔法で清潔に使える。壊れた物をスキルで修復するだけで使えるので毎年用意し直す必要などはない。
ちなみにユウキが着ている装備もダンジョン産であるが、こちらは革鎧ではなく革の服である。タマキとサクラは軽戦士タイプの装備で、ユウキは斥候タイプの装備と言える。
サクラもユウキと同じタイプにするかローブの方がいいのではないかという話は出たのであるが、エロカワは基本ですというぶれない意見でタマキと同じ装備となった。
残念ながら、踊り子の服は受験生用に用意されてはいなかったのだ。
それでもサクラは、周りからの視線を受けながら幸せな妄想の世界に浸っているのであるが。
「どういう戦闘になるのか見るのは基本じゃないの?」
タマキの言葉にユウキが返す。ユウキ自身、対人戦闘試験がどういう風に行われるのかなど見たことは無い。スミレたちに聞いても、いつもの修行とあまり変わりがないと言われてしまうのだ。他の人の試験を先に見ておきたいと思うのは、当然のことと言える。
「ユウキの発想は本気で戦う場合には当たり前の事だと思うんだけど、私達からするとここは通過できて当たり前なのよ。
真面目に塔の5階まで中学で戦えていた人が落ちるような試験ではないの。
だから初日の今日集まって、受験票を見せて試合予定順番の番号を貰ったらあとは自分の順番の頃にまた来ればいいだけのはずだったのよね。ただ、確かに対魔物試験の予定PTが崩れたなら補充するPTは出てくるだろうし、そのためには他の人の戦闘力を見ておいた方が良いともいえる。慣れない連携になってもメンバーを増やすか、そのまま行くかはそれぞれでしょうけどね」
「つまり、この対人戦闘試験を突破する目的で見る人は少ないと……」
「ここは私達にとっては突破できて当たり前と聞かされてきたからね」
「サクラちゃんも?」
「はい。塔の5階で普通に戦える人が、対人戦闘試験で落とされるようなことは無いと聞いていました。元々対魔物戦へと進ませるのが危険な人をはじくためなんだって。
記念受験で、元々戦えない人でも受験だけすることが結構あるらしいです」
記念受験が結構いるという話はユウキも確かに聞いていたのだが、その話は今の今まですっかり忘れていた。エリート中学出身ではないとはいえ、自分は受かるつもりで受験するのである。記念受験をするために来ているわけではない。
「なるほどね。俺の場合は素の身体能力では厳しいから、どういう風に判定されるのかはやっぱり知りたいかな。
メンバー補充はいらないだろうけど、2人はどうする?
俺たちの試験予定は明日だよね」
既に試合予定順番の番号は貰っている。
ユウキたちの予定は明日なので、今日やることは既に終わっているのだ。今は試験官からの説明が終わり、実際の対人戦闘試験の準備に入っている。
先ずはPTを組んでいない1人受験者からの試験である。
「もちろんユウキと一緒に見ていくわよ。
ユウキを突破させて一緒に過ごす事が私のやることなんだから」
「私も一緒に居ます。3人で過ごしたいですからね」
試験前の内容とは思えない会話である。そしてここは3人だけの空間ではない。
ユウキには周りからの嫉妬の視線が突き刺さっているのであるが、本人は対人戦闘試験が行われるグラウンドの方を気にしていて仕方が無い。周りの視線になど全く気がついていないのであった。
試験が始まってから1時間、初めの頃こそ興味深く全体をよく見ていたユウキであったが、早くも期待が薄れていた。
現時点でまったく合格者が出ないからである。
「今やっている人達の動きって、俺の素の動きに近いよね」
「たぶん受験申請の情報から、記念受験っぽい人は早めの試験順番にしているんじゃないかしら」
「最初の攻撃は受験生側に任せているよね。試験官は先ず防御に徹しているし」
「それは普段の魔物の戦闘でも基本的には同じよ。
魔物に襲われるんじゃなくて、魔物を狩りに行くのが基本なんだから。魔物を見つけ、十分に準備して、戦闘を仕掛ける。十分な体勢でなければ撤退した方がいいわ」
「でも襲われることもあるよね?」
「そうね。でもそれは『魔物を倒して強くなる教育を受ける』という段階での話ではないわ。ユウキの場合は襲われないうちに倒すという習慣が出来ているけど、学校の授業ではまだそこまではいか無いのよ」
そんな話をしている時に、周りから「おぉー」という声が聞こえてくる。
「どこだろう?」
「3番の試験場所です」
ユウキとタマキが会話をしている間も、サクラは試験状況を見守っていた。
「3番って……受験生が居ない?」
3番の試験場所を見たユウキだが、そこには試験官が防御の姿勢で立っているだけで受験生が見当たらない。
「その場で突然。消えました。
魔法陣は見えなかったので、スキル系なのかもしれません。
うまく魔法陣を見せずに魔法を使っただけかもしれませんけど」
「それで驚きの声が上がったのか」
『ユウキ、知覚で把握はできる?』
タマキは会話方法をPT会話に切り替えてユウキに訊ねる。スキルに関しては出来る限り周りに聞かせたくはない。
タマキの問いに答えるため、ユウキは3番の位置付近を<収納>の知覚で確認すると、見えないが確かに人が居ることはわかる。
『居るね。試験官の後ろに回り込もうとしてる』
『私達と同じことをやろうとしているのね』
姿を消せるのであれば、奇襲は有効な手段である。それは人を相手にするにも、魔物を相手にするにも同じ事だ。
しかしここで、試験官が魔法を使用した。試験官の周囲には、全方向に薄い膜のようなものが展開されている。
『ユウキ、なんの魔法だか分かった?』
『<解析>によると、全周囲の防御魔法だった。
姿を消すとそういう防御をされるのか』
そして受験生は消えた状況のまま試験官の後方より薄い膜に切りかかると、あっさりと防御魔法は解除された。しかし消えていた受験生の体は見えるようになり、試験官の体の向きも整えられてしまっている。
『防御魔法自体は加減しているっぽいね』
『それはそうよ。ただの試験なのよ。
本気で防御なんてされたら突破できないわ』
『でも俺達の戦法も少し変えないとまずそうだね』
『そうね。私とサクラちゃんはあの防御魔法を展開されてもそのまま押し切れると思うけど、ユウキは防御されている状態の上から攻撃するとまだ厳しいわよね』
『タイミング次第では押し切れるかもしれないけど、確実とは言えないかもしれない。
とりあえず見ていてよかったかな』
元々タマキとサクラは普通にクリアできるはずなのだから、移動術や踊りの支援をユウキにかけ、さらに<魔化>で消えたユウキが試験官の後ろから奇襲攻撃をすれば十分かと思っていたのだ。
今回の対応状況を見ると、もう少し工夫を入れた方が確実であると検討を始めるのであった。




