第79話 対人戦闘試験2
前回のあらすじ:
戦闘試験の1日目が始まった。
姿を消すと、全方位の防御魔法を使われてしまうことが分かり、作戦を変更することにした。
――12月2日。
初日で1人受験と2人PT受験の対人戦闘試験が終わり、今日から3人PT受験の対人戦闘試験が始まる。
1人受験にも2人PT受験にも、記念受験生もいれば普通に中学校で成績が良かった受験生もいた。当然その者達は、普通に対人戦闘試験を通過している。
PTを組む相手を選べる程の実力を持つのであれば、一見1人よりも2人、そして2人よりも3人といった具合にPT人数を多くした方が有利かと思えてくる。
しかし、この後に控えている対魔物試験の成績判定方法を考えると必ずしもそうとは言えないのだ。
例えば塔の5階にいる魔物を1人受験で1体相手にして倒すという事は、6人PTで6体同時に相手をして倒すのと同じ評価となる。もちろんその分、1人では倒しにくいより上の階の魔物を倒すことで人数が多いPTの方がより良い結果を得ることもできるのだが、何も考えずに人数だけを増やしてしまうと悪い結果となる可能性がでてくるのである。
その判断を対人戦闘試験の様子を見て誰かと組むか決められるという点では、対人戦闘試験を受ける段階での人数が少ない方が選択肢を残せるともいえる。
ユウキたちは特に人数を変更するつもりが無く、対人戦闘試験も対魔物戦闘試験も3人で受験するつもりだ。根本的に、対魔物試験においてユウキたちが落ちるという可能性は考えにくい。そうなると誰かとPTを組んだ場合、その者の成績に関係なく合格へと導いてしまう事になる。
高校に進んでからも面倒を見るつもりがある場合はともかく、実力がない者を下手に合格させてしまうというのはまた問題なのである。
「3人試験の一番最後って、何時頃になるんだろうね」
ユウキたちの対人戦闘試験は、3人PT受験の中では一番最後に割り当てられていた。
これはギルドの推薦があるために突破確実だろうという試験実施側の判断なのだが、一部の者達にはタマキが居るからだろうと推測されていた。
「C-495だから495番目という意味だし、まぁ午後に入ってからよね。たぶん」
「1対1、2体2の試験官の動きはわかりましたし、午前中に3対3の様子も見れるという意味では最後でラッキーと言えるかもしれませんね」
1対1の対人戦闘試験は結果が分かりやすかったのだが、2対2になると少し状況が変わっていた。
受験生の1人が試験官に攻撃を始めると、残った試験官はもう1人の受験生へと向かって攻撃しだすのだ。前衛と後衛というバランスの場合、前衛が2人共を相手にするには2人が息を合わせてうまく立ち回る必要がある。そしてどちらかだけでも不合格の場合は、2人PTとしての不合格となる。
その場合はバラバラに再試験を受けるなり、どこかと合流して考えるなりする必要がある。
「2対2だと固まって対処するのが戦いやすそうだったけど、3対3だとどうなるかね」
「試験官は個々の立ち回りを見るために集中攻撃をしてこないようだから、攻撃1人、防御2人とかで攻撃役が各個撃破という形かしら。まぁ本当の意味で倒す必要はないし、ある程度形となって戦えていれば合格を貰えていたからやり方は色々あると思うわよ」
あくまで対魔物戦闘試験へ進ませて大丈夫かを確認するための試験である。そこまで難しいわけではない。
そんな会話をしながら試験の進行を見守っていると、昨日よりも進行があきらかに早い事に気が付く。
『そっか。誰か1人がやられたらアウトだから、この試験って隙がないPTが有利なんだ』
昨日同様、観戦しながらの会話はPT会話を利用する。
どうしても自分たちのスキルの話などが出やすいからだ。
『そういえばそうね。
確かに勝つことよりも負けない事を確認するのがこの試験の目的と言えるわね』
『私がユウキさんの傍で控えます?』
『どこまで何を見せるかじゃないかな』
『そうね、この先人前で何を使う可能性が高いか。何処を隠し通すか。
どうごまかすか。考えることはこの辺ね』
『でも<魔化>だけでは難しそうですよね。消えると対処されてしまいますし』
『それは1対1の場合よ。
今回は、いざとなったらユウキに隠れていてもらってその間に私が対処してしまうという手もあるわ。ただ、その場合ってユウキが居なくてもいいと言われてしまう可能性があるのよね』
『ああ。1人の場合は消えたところで本人が対処するわけだから、戦闘行為の一部だと。
複数の時に消えたまま終わったら、逃げたのと同じと考えられるかもしれないのね』
『隠れて生き延びるのも戦略だと思うけどね。
それに今後の事を考えても、ユウキが戦えると思わせておいた方が都合が良いと思うのよ』
身体能力が低いユウキは、弱いと思われる可能性が高い。
タマキとしては、それでもユウキは戦えると言う所を見せておきたいのだ。
『忍術を見せるのはどの程度不味いの?』
既に東京ダンジョンに来てからの3か月の間に、ユウキはサクラがつかえる忍術でスクロールを作り、ユウキもタマキも忍術がつかえるようになっている。
昨日の対人戦闘試験を見た後の検討では、忍術を用いての作戦で行こうと決めてあるのだ。そのため今は、3人共下級忍者というクラスとなっている。
このクラスは基本クラスではないため、下級クラスとなるのにクラスポイントとして200ポイントも使用しているのだが、どうせクラスミッションを進めるのならサクラは忍者を進めたいのだ。だから遅かれ早かれという事でこのタイミングで取得していた。
『少なくとも小山ダンジョンでは見たことが無いわね。
でもスミレさんが、東京ダンジョンでなら珍しい特殊な施設でドロップする事があるとは言ってたわ。だからまぁ、ユウキの魔石回収、私の転移を知られるよりはましね。
それに忍術なら逆にどんな忍術があるのか良く分かっていないらしいから、大抵のことを忍術でごまかせるメリットもある。<魔化>もスキル名は公開されたけどどんなスキルかは公開していない。うまくごまかせるならそれに越したことは無いわ。
なので昨日の作戦でいいと思うわよ』
そう言ってタマキは、作戦通りみんな活躍出来る道を勧めるのであった。
*****
3人PT受験の最後の戦闘。
この時イチゴの町出身者達が集まる見学場所では、タマキの試験状況を見ようと一部の者が注目していた。
これは対人戦闘試験においては、突出した1人の力よりも足を引っ張る者が居ないことが重要なのだと皆も気づいたからである。
つまりユウキが足を引っ張り、3人PTとして不合格になる。
敗者復活がある今回の試験では、その結果はタマキを個別にPTへと誘えるなどという可能性が出来たのだ。
「並野君の移動速度は遅いですねぇ」
まだ試験エリアには登って居なく、サクラの踊りの支援もなければタマキの移動術もかかっていない。あくまで普通に動いているだけだ。
ただ歩くという事でさえ、身体能力の差と言うものは存在する。
普通に歩いていても、ユウキよりもタマキやサクラの方が歩く速度が速いのだ。今はタマキやサクラがユウキに合わせて歩いているのだが、普段のタマキの移動速度を知っている者からすると、ゆっくり歩いているのはバレバレであった。
「もう一人の女の子の方かもしれないけど、どっちにしてもゆっくり歩く必要がある相手がPTに居るという事だな」
「そっちの女の子もかわいいね」
「小野寺さんの傍に居るなら、あの子位かわいい方が似合ってると思う」
サクラの評判は上々である。男たちには。
逆にそばに居る女たちは面白くない。また小野寺さんたち、とかいい加減に諦めればいいのに、等と言う諦めの悪い男たちへの呆れた言動が聞こえてくる。
彼女たちにとっては、このまま何事もなく試験を突破してくれた方がいいのである。
しかしこんなそれぞれの思惑に満ちた会話も、実際に戦闘試験が始まった瞬間に吹き飛んでしまう。
「「「「「え?」」」」」
いきなりユウキたちの人数が増えたのだ。
1人が2人、2人が4人、4人が8人へと。3人ともそれぞれが。
そして一度それぞれ8人となった人数が7人、6人、5人と減り、最終的に試験場所にはユウキたち3人がそれぞれ5人の15人いるように見えている。
「幻惑魔法?」
「俺達にも見えるという事は、こんなに広範囲の?」
「幻影を作り出しているんじゃないか?」
実際は分身の術なのであるが、忍術を使える者など知らない子供たちにとっては魔法で何かをしているように見えているのである。
そしてこれにより、試験会場に集まっていた全ての者がユウキたちの戦闘試験を注目することとなった。試験中の者達でさえ。
この状況に気が付いた総合試験官が、すかさず実況中継を開始した。
「おーっと!
これは凄いぞ、7番試験エリアの受験生たち。おそらくこれは、分身の術だー」
解説が始まったことにより、その他のエリアでの戦闘試験が一時中断となる。試験官たちも、この戦闘自体を見学させることに意味を見出したのだ。
「いや、実は分身の術に見せかけた幻影や幻惑かもしれないけどな。それにしても受験生なのにすさまじい技量だ。一時期1人あたり8人まで増えたが今は5人づつとなっているぞ。
8人の維持はまだ無理だったのか?
それともエネルギーの節約か?」
そしてそんな解説を聞きながらもユウキたちはただ止まっているわけではない。
勿論人数を減らしたのはわざとである。<魔化>で消えるのをごまかしただけのことだ。
見えなくなるからこそ全方位警戒するのであって、見えていればこれまで全方位防御魔法などを使っていなかった。そこをついての作戦である。
「なんと!
今度は踊りだしたぞ。いや、あれはもしかして人数分の支援が発動するのか?」
ユウキとタマキは何となく踊っているだけである。
そして踊っている間は試験官たちも手出しをしてこない。あくまで魔物と戦う前の準備中と同じ扱いなのだ。
そして15人の頭上に魔法陣のようなものが現れ、光の剣が出現する。
「今度は何かの魔法かー?
光の剣?
これも忍術なのか?」
勿論いつものユウキの照明である。
目的は明るくするためではない。意味が分からない相手には、これが攻撃に見えてくるのだ。
当然試験官たちも、ユウキたちが居る前方へと魔法障壁を展開する。あくまで最初は受ける気なのだ。そして……。
「ドゴォーン!」
「ドカッ!」
ユウキたち3人が試験官の後ろに現れ、魔化と雷衣を発動。
その状態でタマキが放った掌底は、完全に背後には無防備であった試験官を会場壁際へと吹き飛ばし、サクラが放った掌底も、試験官を試験エリア外へと吹き飛ばした。
しかし場外に弾き出すことが出来た試験官は2人だけだった。
タマキやサクラと違い、その場での掌底では対してダメージを与えられないユウキは、タマキの移動術にサクラの踊りの支援、そして雷衣の速度と魔衣による身体強化を有効活用するために助走距離をとっていた。
そのため、気配に気が付いた試験官が振り向いて構える時間が出来てしまったのであった。




