第102話 せいなる夜に2
――12月24日。
交流都市ウエノの繁華街では光のイルミネーションが町を彩り、行き交う大勢の人々をその幻想的な景色で魅了していた。
「なんというか、凄いね」
まだ日中にも拘らず、あえて屋根を付けた中で魅せる光のイルミネーション。店の前には赤と白のサンタクロースをイメージした可愛い売り子がラストアピールとばかりに笑顔で商品をアピールし、子供連れの親子は楽しそうな笑顔でおもちゃ売り場へと道を急ぐ。
「イチゴの町とは規模が違うわね」
「マジクとも違いますよ」
ユウキたちにとっては初めてすごす東京ダンジョン内でのクリスマス。特に今までは学校があった上に施設ですごす事が当たり前だったのだから、自由に何でもできるというのは初めての事である。
「でも……どこも混んでるわね」
「雑誌でおすすめされる場所なだけはありますよね」
クリスマスデートならココ、カップルおすすめ、昼デート等々と書かれた雑誌に載っていた内容を見てユウキたちも来たのだから、混んでいるのはある意味当然のことだ。とはいえはじめての都市にきているのだから他に情報など知らないのだけれど。
「早めに買い物もしないと、買うだけで大変そうだね」
金銭的に余裕のある初めてのクリスマス。ユウキたちは何をしようかと話し合った結果、ひとつの結論に至った。
それは、育った施設の子供たちにプレゼントを買って持って行こうと。
小さい時に施設で過ごしたクリスマスでは、卒業者からのプレゼントが届くことがあった。余り贅沢を言えない子供心に、そのプレゼントはとてもうれしく感じたことを覚えていたのだ。
小山ダンジョンから東京ダンジョンに移動したとはいえ、長らく育った施設の人々は3人にとって家族の様なものなのである
「そうですね、まずはこっちですよ」
そう自信ありげに言うサクラに案内され、ユウキとタマキもついて行く。2人はいつの間に調べたのだろうと思いながらもその足取りの確かさから目的があるのは明らかだった。
「ここです」
到着したのは様々な洋服が売っている衣服店だ。
メンズもレディースも売っているので確かに小さな子供達にも合うだろうし、つい最近まで過ごしていた中学校時代の施設にもっていく物も探すことができる。
ユウキは服装は着ることができれば良い派だったので余りこだわりは無いが、流石サクラちゃんなどと内心思っていたところで予想外の言葉が聞こえてくる。
「これでプレゼントを配りに行きましょうよ」
サクラが示したのは、今日色々なところで見かけてきた赤と白のサンタ服だ。サイズだけでなくコンセプトも色々あり……。
「サクラちゃんが持っているのは流石に過激じゃない?」
当然のようにミニスカートなのは当たり前。肩にかかる肘までの長さの赤いケープの縁にはふわふわの白いモコモコが付いており、体の前で左右に分かれるようになっている。しかし問題はそのケープの内側だ。そこに用意されている手触りのよさそうな赤い服は、丈が非常に短く下から覗くと胸がほぼ見えてしまうような長さである。
「見たくないですか?」
「そりゃ見たいけど……」
勿論ユウキだって見たいか見たくないかと言えば見たいに決まっている。
「小さな子の目線で見たら、結構見えない?」
「それくらいのドキドキが良いんじゃないですか」
確信犯である。
そんないつも通りのサクラの服装選びにドキドキしつつも、きちんとプレゼントも買うユウキたち。もちろん今日の記念になどとお互いにそれぞれプレゼントする物なども選ぶが、今日のメインは子供たちの服だ。
とはいえユウキ自身にこだわりは無いのでS、M、L、XLなど色々な大きさのアウターやシャツ、ズボンも長さや太さが人によって違うのでスウェット等ある程度調整がきくものを大量に選んでいく。当然男の子用である。
タマキやサクラは女の子用の物を買い、更には本やおもちゃ等々普通のプレゼントも用意する。食べ物に飲み物にケーキ等々次々と見つけては買っていく。
冷静にみれば買いすぎなのであるが、元々お金のない生活をしていたので加減が分からないのである。
買い物を終えた3人は、順番に施設を回っていく。
先ずはサクラが中学校時代にすごした施設の人が移った場所を訪れ、その後小学校時代の施設へ。東京ダンジョン内のどこに移動していたのかはあらかじめ知っていたので大した距離でもない。
ユウキとタマキはサクラとその施設で一度分かれ、タマキの中学校時代の施設へと移動する。サクラは出身施設の子供達と今日はすごし、そこで一泊する予定である。
そしてユウキの中学時代の施設を経由し、最後にユウキとタマキが小学校時代に過ごした施設を訪れた。
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「先生、クリスマスの差し入れです」
「あらあら、2人とも急に大きくなっちゃったわね」
タマキの言葉に施設の先生が微笑みながら言葉を返す。
ユウキとタマキも3年前まですごした施設であり、殆どの人は知り合いだ。
「結構色々用意してきたんですよ」
「ユウキ、まずは食材とかを出しちゃいましょ」
かつて自分たちの通った道なのだ。子供たちにプレゼントを渡しに行くと、大騒ぎになるのは目に見えている。
「ふふふ、今日はギルドからもいいお肉が配られたのよ。
2人も一緒に食べていくでしょ?」
ユウキたちが食材を出す傍ら、施設の職員が集まってきて会話に参加する。
今日施設宛てに配られた肉は、ダンジョンボスの肉である。ユウキたちは前回の量でも持て余していたので、どうせならクリスマスの日に特別という事で肉を配れないかと提案したのだ。
流石にすべての場所へ配るのは無理だという結論だったが、交流都市ウエノ内の施設へは全て届いたはずである。
「食事は一緒にしますが俺たちはそっちの肉は大丈夫なので、皆さんと子供達で」
遠慮をするような言葉であるが、ユウキたちの手元には十分在庫は残っているのだ。折角の子供たちの分が減ってしまうのは可哀そうである。
「私達にも色々と伝手が出来たので」
そう言って次々と出していく料理や飲み物、ケーキに食材。これまで使用せずに余っていた魔物の肉に魚や果物なども魔道具を出して取り出していく。
「……どうしたの?
これ……」
3年前まで一緒にいた職員としては、当然2人がそんなにお金を持っているはずがないと思っていた。しかし出てくる量が尋常ではない。
まだ中学校を卒業する時期の2人が使うには、大金のはずなのである。
「シーカーとして十分に金を稼げるようになったんで」
「私達結構強いんですよ」
既に中学校時代の施設でも同じことを言ったあとだ。2人とも言われることは分かって居たので応えはあらかじめ用意してある。
「そうなのね。
無事に生活できそうなら安心したわ」
送り出す側の施設職員としては、卒業した子供たちが無事に暮らしていけるのかはいつも不安なのである。
そんな大人とのやり取りを終えて続いて本命の子供達だ。
2人はサンタクロースの格好に着替えて子供たちのいる大部屋へ。
「あれ?
ユウ兄にタマ姉?
手伝いに来たの?」
子供たちの1人がユウキたちに気が付いて寄ってくる。
3年前まで遊んでいた相手であるので、子供たちの中でも5,6年生ともなればユウキたちの事は覚えている。
「ふっふっふ、これを見なさい!」
「サンタ様からの贈り物である!」
変なノリで語るタマキとユウキ。
そしてユウキが取り出すプレゼントの山。
「「「……」」」
サンタの格好をしたユウキたちに気が付いた子供達も集まってきたが、皆一様にポカーンとした表情でプレゼントの山を見つめている。
「ユウ兄。盗んできちゃだめだよ……」
「アホか。ちゃんと買ったんだよ」
「いやいやいや、だってユウ兄とタマ姉がそんなに金持ちなわけないじゃん」
「甘いな!
いつまでも昔の俺達ではない」
「そうよ。私達は進化したの」
タマキも訳が分からないノリである。
「進化って……バカじゃないの?」
だんだんと小さな子供たちの目がキラキラと輝き始めるも流石に12歳になるとそう簡単に信じられるものでもない。
「俺たちは庶民からお金持ちに進化したのだ」
「ユウキ、温泉よ」
タマキの言葉でユウキは温泉旅館の宝玉を使用する。
「見よ、これが俺たちの家だ」
そうして子供達を温泉旅館の宝玉内部へと案内し、そのご職員も交えて温泉を堪能したり食事をしたりして賑やかなクリスマスをすごしていくのであった……。
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「久々にはしゃいだわね」
子供達も寝静まり、今はクリスマスイブの夜に2人キリ。プレゼントを貰って良いと信じられた途端に子供達の大騒ぎが始まり、やっと落ち着いて2人になれたのだ。
ユウキと同じ部屋に戻ってきたタマキはセクシーなミニスカサンタの姿である。
「だね。先生たちにちょっと甘えすぎたかもしれないけど、どうしても昔の感覚は抜けないよね」
普段はスミレを十分頼りにしているものの、本当の意味で気を抜いて何でもできるという訳では無い。その点小さな時から知られているこの職員や先生たちは、ユウキにとってもタマキにとっても親代わりだ。
子供と思われても気にしない相手である。
「やっぱりここが、私達にとって家族なのよね」
「そうだね」
「ユウキ……家族欲しくない?」
「……結婚する?」
すでに成人年齢になっている2人は、法律上は結婚できる。とはいえ引き下げられたばかりなので一般的ではないのだけれど。
「うん」
タマキがにこやかに返事をする。
「いいの?」
「いつだって変わらないわよ。
それに……多分これからは周りの皆も早くなるわよ」
そう言いながらユウキにもたれかかるタマキ。
「そうなんだ……」
ユウキは作製した大人の魔道具を起動させ、周囲の<身体強化>を無効化する。
今回使用しているのは、魔装具ではなく普通の魔道具タイプのままだ。装備している間に寝てしまった場合の制御が不安なため、装備者とは切り離した普通の道具としたのである。
「どう?」
ユウキはタマキを抱き寄せ、布団の上に押し倒しながら声をかける。両手を頭の上に持ち上げて動けないようにする形で。
「うん。簡単にはふりほどけないわ」
とはいえあくまでそういうプレイであり、本気で動けば振りほどく事は可能である。
ユウキは左手でそのままタマキの両手を押さえつつ右手はサンタ服の中へ。タマキも気持ちよさそうな顔で楽しそうである。
「んっ」
ユウキの手がタマキの背中に周り、重なり合う2人の唇。そして……。
2人はせいなる夜を楽しんでいくのであった。
クリスマス編その2
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