第101話 せいなる夜に1
第100話の時期のユウキたち側の話その1です
――時は少し遡り12月19日。
「さて、今日は大人の魔道具の元となっている物を見に行こうかと思うけど、予定はどう?」
訓練用ダンジョンを用意した翌日、ユウキたちと一緒に朝の訓練を終えたスミレは今日の予定を告げる。
元々いつにするという話まではしていなかったのだが、予定が決まっていなければ気になるものだ。クリスマスまで残り1週間を切っているのだから、今のタイミングならそこそこ近い日時と言える範囲である。
「特に予定はないよね」
「そうね」
「私も大丈夫です」
ユウキたちは普段から3人で行動していることもあり、他のクラスメイト達とは普段連絡を取っていない。下手に何かを話して交流都市ウエノ内の高校に行く気が無いという雰囲気を出してしまうのも問題だからだ。
「どこまで行くんです?」
「ダンジョン入り口にある訓練施設内の場所よ」
ユウキの質問にスミレが答える。
訓練施設の中には対魔物相手の訓練ゲートやPT対PT、レイド対レイドができる対人戦訓練エリアだけではなく、会議室や休憩所も設置されている。
そしてその地下にはユウキたちがまだ足を踏み入れたことのないエリアが存在していた。
目指す先はその地下であるが、東京ダンジョン内で訓練施設に入ろうとする場合は当然許可が必要となる。特に東京ダンジョンは住人がいるダンジョンであり、地下エリアも設備として使用中だ。手続きがいろいろと面倒である。
そのため今回はクラン黄昏用ダンジョンの訓練施設に行く事にした。
ユウキたちの記録を残すよりも、霞PTとしてダンジョンの外に出る道を選んだ結果であった。
*****
「これがその装置なんだけど、ユウキ君わかる?」
黄昏用ダンジョンの訓練施設地下についたスミレは、早速ユウキに訊ねる。
そこは壁で囲まれた部屋の入り口を鉄格子でふさがれた牢屋が並んでいる場所であり、スミレが言う装置はそれぞれの牢屋の前にひとつずつ存在している。
装置は腰までの高さの石柱の上に魔法陣が刻まれている物であるが、この場所で動かす内容と大人の魔道具として作られている物では効果が異なるのだ。
「……」
ユウキはそれぞれの装置を<解析>スキルで調べていく。
更に時々動かしては牢屋の中も調べ続ける。
そして……。
「この装置、単体で動いているわけではないようですよ」
「え?
そうなの?」
ユウキが伝えた分析結果にスミレが驚く。
「はい。
研究所で発動した大人の魔道具の魔法陣が不思議だとは思っていたんですが、こういう事だったんですね」
「これらが全部つながっているという事?」
スミレはユウキが伝える意味を考えながら、先につながる疑問を口にする。
「あ、いえ、そっちとつながっているんじゃないです。
この牢屋の部屋の頂点部分8か所分に、セットとなる物がそれぞれ埋め込まれていますね。それで範囲指定と追加効果を発生させているようです」
「ああ、だから中に入って装置を起動されると抜けだしにくいのね」
「そうですね。
牢屋自体に硬化の魔法がかかるのはそっちの仕組みのようです。
後は大人の魔道具が魔道具中心の球状範囲になってしまうのも、座標指定先にセットとなる物が無いからですね」
「物理結界が牢屋の内側にかかるんじゃなくて、牢屋自体を硬化してたのね。
どおりで大人の魔道具だと物理結界が発生しないはずだわ」
元々装置として石柱に刻まれている魔法陣を再現したり、色々と変化させてみたりして動くようになったものが大人の魔道具の刻印型魔法陣である。そのままでは動かなかったために変化させたものではあるが、その際に物理結界が無くなってしまったものと考えられていた。
根本的に勘違いしていたのである。
今は訓練施設を用いずにシーカーを牢屋内に閉じ込める場合、結界と<身体強化>の無効化は別々の魔道具で作動させて運用されている。
「こっちの牢屋は……魔法を使い難くしているんですかね?」
「そうね。その中に入って装置が起動すると、<身体強化>が無効化される以外に魔法も上手く使えなくなるわ。
でもその部分は今でも再現できないのよね」
身体強化が無効化されても魔法自体は使うことができる。
とはいえ<身体強化>スキルで上昇する魔法攻撃力などの部分も無効化されているため、使ったとしても大した攻撃力はない。しかし転移魔法等を使用できるだけで脱出できるため、どうしても閉じ込めておきたい場合は訓練施設地下の牢屋を今でも使用している状況だ。
「牢屋内にある魔力を動かして魔法陣の発生を妨害しようとしているみたいです。
でも浄化のタイミングと連動させてそっちは発動するようにしているようですね。
こんなことができるんですか……」
「ユウキ君なら再現できそう?」
「出来ると思いますけど……このまま再現するのがいいんですかね?」
「どういうこと?」
「これはこの場で埋め込まれている物と関係して一式なので、あまり自由がきかないみたいなんですよ。全く同じ大きさの部屋を用意して配置すればできそうですけど……本当はどういうものがあると便利なんですかね?」
ユウキはあくまで<解析>した物を【神器】で作成出来るだけであり、それを効率的に運用できるわけではない。
それぞれのパーツを理解して魔法を組み直す事は出来るので、運用方法が決まればより良い形の何かに作り直せる可能性はあるのだ。
ただどういう物が良いのか分からないだけで……。そこまで判断しろというのは中学生には酷な内容である。
「そうねぇ。石柱の魔法陣と8個の範囲指定の物がセットなのよね。
自由がきかないというのは8個の物の配置が決まっているという事なの?」
「相対座標で位置が決められていますね……あ、でも完全な位置ではなく範囲指定もできますね」
ユウキは解析した魔法陣を【神器】を使って修正し、動作内容の確認を繰り返す。
「今はピンポイントの座標指定で消費エネルギーを抑えているようです。
ただ、欠点として石柱を破壊するなど少し動かしてしまえば効果が消えてしまうようですが。
あとエネルギーをダンジョンから供給されているのは、多分装置として設置されてるからですね。その部分はここに設置されている状態でなければ魔道具と同じくEPで使用することになります」
そんなやり取りを繰り返した後、重要な問題点に気が付く。
「スミレさん、これ俺が作ったら多分埋め込まれている方はそのままの形で再現されてしまうので、刻印型じゃなくて内蔵型の魔道具になる気がします」
刻印型魔法陣とは文字通り魔法陣が見えるように刻まれているタイプの魔法陣である。しかし内蔵型というのは物理的に魔法陣が刻まれているわけではない、未だに仕組みが不明な物だ。
ユウキの【神器】ではこれまでも作れているものの、普通に人の手で作る方法は分からないのである。
「うーん、そっちは現状ユウキ君じゃないと作れないのよね。
とりあえず一般利用に向けた方は一時保留にしましょ。自分たちで利用するだけのことを考えるわよ。
ユウキ君にしか作れない物で社会システムを維持しようとすると無理が出てくるわ」
尤もな事である。
*****
「ユウキ君の<解析>は便利よね」
一通り解析を終えたユウキたちは、一度東京ダンジョンの本拠地へと戻っていた。今はクラン黄昏の拠点内で、ユウキたちの温泉旅館の宝玉を使用して休んでいるところである。
確実な安全性を確保できる温泉旅館の宝玉に慣れてしまい、休む時は出来るだけこの状況になっているのが現状だ。
「確かに便利です。
でもスキル2だとまだ、この温泉旅館の宝玉は解析できないんですよね」
「ゴブリンキングの鎧も解析できなかったのよね?」
・ゴブリンキングの鎧
レリック級アイテム(個人依存アイテム:譲渡不可、所有者のみ装備可能、破壊不可、廃棄不可)
レイドボスであるゴブリンキングがドロップする専用装備。
ゴブリン系の魔物から受けるダメージ減少。
セット効果(3)ゴブリンを1体呼び出し、使役可能。
セット効果(5)呼び出したゴブリンが上級ゴブリンとなる。
ユウキたちはレイドボスミッションの報酬として、レイドボスのドロップ品と蘇生薬を1個手に入れた。レイドボスのドロップ品はドロップ率が非常に低く、スミレもこれまでで3回しか手に入れた事が無い物だった。
今回はそのドロップ品の内、手に入れたのは魔物装備の鎧である。倒したレイドボスの鑑定結果が上位ゴブリンキングなのに、ドロップ品は普通のゴブリンキングの鎧という事で多少残念と思ってしまったのは仕方のないことだろう。
それでもレリック級というのはレイドボスからのみドロップされる十分に強い装備らしく、個人依存装備であるためユウキでも装備できるのは嬉しい物だ。星の表記が無いので正式にどの程度の強さとなるのかは不明だが、レイドボスの種類によってそもそも強さが異なるとも言われている。
しかしセット効果は同種の系統の魔物装備で固めた個数による効果であり、今回であればゴブリンキングの別の装備という事になる。他の魔物装備も同じとのことで、スミレも同種の3個という訳ではないためレリック級装備のセット効果は体験していないという。
とはいえスミレたちはレイドポイントで交換したウルトラレア級のセット装備を使用しているのであるが。
今回ユウキたちはレイドポイントとクラスポイントを100ポイントずつ手に入れており、1個だけであればレジェンド級装備とも交換できるポイントだ。ユウキたちとしては初召喚扱いの1000ポイントでは無かったは残念だが、既に通常のレイドボスとして誰かに倒されたことがある場合は対象にならないという事を確認できたという意味では一つの結果である。
「解析できないんですよね。スキルレベルが足りないのか、レリック級だからなのか、セット装備があるのは無理なのか、個人依存装備だから出来ないのかとかは分からないですけど」
スミレが使用しているウルトラレア級の個人依存装備も解析できていないので、まだどういう状況なのかは予想ができないのである。これまでは他人の個人依存装備だからという可能性もあったのだが、ユウキ自身の個人依存装備も解析できないのでそれだけではないことは確かだった。
それでも一部の魔道具は新たに解析できるようになったのでスキル2になった意味はあるのだけれど。
そんな休憩とも雑談ともいえるのんびりした時間をすごした後、ユウキたちは大人の魔道具について考える。
「どういう物にしようか。今まで作られていた物よりはすっきりとした物が作れそうだけど」
ユウキが作るのであれば、刻印型魔法陣にこだわる必要もない。魔法陣の余計な部分も除外できるのでスッキリした物を作製できる。
「ユウキさん、これって普通の結界の指輪のようにはできないですか?
そうすれば私のアレンジスキルで何かしら追加効果とかもできるかもしれませんし」
「ちょっと待ってね……この魔法陣、設置型の魔道具専用という訳ではなくて応用すれば魔装具として装備にも付けられそうかな……あれ?
そうなると浄化の魔法も魔装具としてEPで魔法を使える?
よく考えれば大人の魔道具で魔法をEPで発動してる……」
ユウキは【神器】の魔法陣リストから回復を選択し、浄化が魔道具で発動するのと同様に回復も魔道具で発動するように書き換える。
すると……。
「できるっぽい……かな?
これ魔法を覚えないでもEPで発動できそう……あ、浄化と違って素質判定削らないとダメか。EPの消費が増えた……そこまで上手くはいかないか」
「ねぇユウキ君……それってどれくらいのEPを消費するの?」
残念そうに言うユウキにスミレが声をかける。
「浄化は1回10EPと凄い少ないですね。回復も素質判定を付けたままだと10EPで行けますが、外すと1000EPに跳ね上がります。俺たちが使うなら気にならないレベルですけど」
1000EPとはエネルギーキューブ売却価格で5万円相当、購入価格で10万円相当である。
「そう……ねぇ、それって転移魔法は出来ないの?
転移魔法は生活魔法だから素質判定は無いわよね」
「……できますね。
ただ、使用EPがよく分かりません。多分転移先となる転移魔法陣迄の距離で変わるんだと思います」
ユウキは【神器】を操作しながら回答する。
使用EPに関しては不明と表示されたのだけれど。
「……この件はまだ誰にも言わないようにね。
魔法のスクロールは本人への消費アイテムだけど、装備だと継続して使えるのよね。EPで使えるという事は魔法力と違って譲渡できるし、マジックポーションに頼らなくても再使用しやすいわ。
何より同じダンジョン内なら、最大魔力量の問題で行けなかった遠くの場所へも1回で行ける可能性が出てくるわ」
「スミレさん、でもこれって俺しかやっぱり作れないんじゃないですかね?」
「……そう言えばそうよね。
とりあえずこれも保留にしましょ」
単に大人の魔道具を作るだけのはずが、新たな可能性に気が付く1日となったのであった。
クリスマス付近という事で急いで投入です。
時系列が100話の途中の話ですが、流石に途中に入れると締まらなくなるので分離して後ろに回した分が少し続きます。




