魔法使いは受け入れられる
精霊魔法というものが存在します。
精霊と呼ばれる魔素の集合体と自らの魔力を共鳴させ使われる魔法、と考えられていますが、人間の使用者が少なすぎるためにほとんどのことはわかっていない代物です。
そんな精霊魔法の一番の使い手として有名なのが森の民。
ご他聞に漏れず彼女――フェルミアもその精霊魔法の使い手でした。
「でも……うまく使えなくて、言うこと、きいてくれなくて……」
ぽろぽろ涙を零すフェルミアが震える声で事情を説明してくれるのですが、私は罪悪感から来るダメージで話半分です。
「大丈夫です。もうわかりましたから」
と彼女を慰めるソフィアさん。
「きゅるるん」
そしてモズリスちゃん。
あの、私が悪者みたいなのですががが。
「つまりは精霊の暴走といったところか」
「うん……はい。そう、です。花を増やしたかっただけなのに、こんなことに」
「そっか、わかったよ。怒鳴ってごめんね?」
ソフィアさんがもうわかったというなら、私の出る幕はもうありません。
それに綺麗なお顔が歪んでいるのを見ると、罪悪感がすごくてこれ以上責める気にもなりませんでした。
「でもこれからは気をつけてね」
「はい……あの……ごめんなさい」
潤んだ瞳の美少女が、許しを請い私を上目遣いで見上げます。
なんか新しい世界の扉が開いちゃいそうな妙な感覚を覚えました。
精霊のいたずらは往々にしてその発動のきっかけがわからないものです。
だから今回もそういうことにしようというのが私とソフィアさんの結論でした。
しょんぼりしたフェルミアを見送りお仕事は完了。私たちは帰路につきます。
「きゅる……」
「あ、忘れてた! 君はどうしようか」
「このモズリスはもう戻らないんですか?」
「精霊の仕業だから確実とは言えないけど、今戻ってないということはもうこのままかなぁ……」
「じゃあ仕方ないですね」
ソフィアさんが涎を拭くように口元を拭います。
嘘でしょ? 分かり合えたんじゃなかったの?
「冗談です」
「あはは……ごめん、冗談に思えなかった」
「きゅるる……」
「そんなわけないじゃないですかー。こんな可愛いのにー」
そして棒読み台詞のせいで未だに冗談に思えません。
明日には食卓に並びそうな勢いです。
だからというわけではないのですが、私はひとまずモズリスちゃんを逃がすことにしました。
どうするかはおいおい決めるとして、また会いに来るといたしましょう。
川辺まで戻ったところ、さっそくジャイアントボアの元へ集まっていた町のみなさんに取り囲まれました。
輝くような笑顔で、誰もが言うのは町から見えた巨人と稲妻の感想、そして感謝の言葉です。
いっぱい褒められました。良い気分です。
「良かったですね」
照れもあってそう言うのが精一杯でした。
「ささっ、リヴィさん。町へ戻りましょう。おじいちゃん達が宴の準備をしているようなので」
「ここは手伝わなくて大丈夫?」
「もちろん、みんなお肉を前にやる気にみなぎってますのでおまかせください。それにこれ以上町の恩人のお手を煩わせるわけにはいきませんよ!」
肩を掴まれ熱弁されたのでお言葉に甘えることにしました。
「なんなら町までおんぶでお連れします」という誘いはお断りしましたけど。
そして夕暮れの中、椅子と机が並べられた広場で宴が始まりました。
町長さんの挨拶のあと私も軽く挨拶をさせていただきましたが、元来私は引きこもりです。
ガッチガチで自分の名前すら噛んでしまいましたが、ご愛嬌ということでどうかご容赦を。
その代わりというわけではないのですが、挨拶のあとで私は魔法を披露することにしました。
「仰られた通りに致しましたが、何をされるおつもりですかな」
「え、おじいちゃんに何か頼んだんですか? リヴィさん」
広場の中央に男性陣が重たそうなお肉の塊を運び、枝にかけられたお肉が並ぶ圧巻の光景となりました。
「豚の丸焼き、ではないんだけどお近づきの印にプレゼント。第二火炎魔法ッ!」
私の声に呼応し火の玉が次々と現れます。
それが並んで火の輪となり、お肉を囲んで回り出すと歓声が上がりました。
ただの魔法による調理でしかなかったのですが、何やら見世物としてうけてるようなのでおまけしちゃいましょう。
「ついでに、第三火炎魔法ッ!!」
攻撃系の第三魔法は範囲攻撃のための魔法ですが、超長距離に放てば。
ドンッ!
お腹に響く音が空から降り、赤い炎が空を照らして散っていきます。
二度三度とそれを放ち、もう終わりだよと言う代わりに一礼。
ちょっと驚かせすぎた様子でしたが、一拍置いてからたくさんの拍手と歓声に包まれました。
「お姉ちゃんすごい、きれいっ、すごいっ!!」
たたっと駆け寄って来た小さな女の子が無邪気な笑顔で喜んでくれます。
そういえば、最初に町民のみなさんに囲まれた時にも目の前でぴょんぴょんしていた子です。
ちょっと癖っ毛な金髪に蒼い瞳の美人さんで八歳前後でしょうか。
ソフィアさんと同じくどこか顔立ちに上品さがある子でした。
「ありがとう、喜んでもらえたなら何よりだよ」
「私も、私もお姉ちゃんみたいに魔法使いになりたい!!」
「えぇ、大変だよ? それでもなりたいなら、きっとなれるだろうけどね」
微笑ましく思いながらふと私が老子と初めて会った時のことを思い出しました。
無知で愚かな私は、この子と同じように魔法使いに憧れ、老子に誘われたことを喜んでいたような気がします。
その直後、人里離れた森小屋に軟禁され、挙句の果てには放置されたのですが……暗くなるのでこの話はやめておきましょう。
「ソフィアさんもどうだった? ご希望ならもうちょっと――」
振り向いた私が見たのは、白目を剥いて倒れている町長とソフィアさんの姿でした。
遺伝なんでしょうか。二人そろって口を大きく開けて両手を上げた格好で硬直しています。
誰もが「あ、ショック死だな」とわかるお姿でした。
「えーっと、第三治癒魔法ゥゥゥ――ッ!!」
こうして私は優しくて暖かくて、そして賑やかな町に迎えられて新しい暮らしをスタートしたのでした。




