家が死ぬ
夜遅くまで宴が続き、私はお借りした宿の一室で朝を迎えました。
外からは賑やかな声がしています。
朝早くからお仕事をされているのか、それともジャイアントボアの処理を夜通し行われていたのか。
ちょっと申し訳なく思いつつ、仕度をしている所にノックが響きました。
「おはようございます、リヴィさん。朝食をお持ちしましたのでよろしければどうぞ」
「あ、ソフィアさん、ありがとう」
持って来て頂いた朝食を食べつつ、ソフィアさんが元気そうで一安心。
まぁ、あの後焼けたお肉の塊一つをぺろりと一人で平らげていたので、心配はそれほどしていなかったんですけど。
「リヴィさんどこか行きたいところはありますか? もし特にないようでしたらリヴィさんのお家にご案内しようかと思いますが、いかがですか」
私の……お家。
なんて素敵な響きでしょう。
「ぜひお家へ。楽しみだなぁ」
「あんまり期待はなさらないでくださいね? なにぶん古いですし使われなくなって随分経つので。いちおうご案内の前にと点検と掃除に人はやっていますけど」
丘の上でちらりと見ただけですが、一人暮らしには十分すぎる大きさの家だったと記憶しています。
古くても住めれば問題はありません。
「自分の家を貰えるんだから気にしないよ。あぁ、色々揃えなくちゃなぁ」
「ふふっ、ちょうど数日後には行商人の方が来られる予定ですのでご紹介しますね。もちろん直接町まで行くのでしたらお手伝いもしますから仰ってください」
「ありがとぅ、ひとまずはお家の掃除だね。早く行って私も手伝わないと」
「いえいえ、ごゆっくりなさっててくださ――」
また来客のようだけど気を遣ってくれたソフィアさんが出てくれることに。
でも扉を開けたソフィアさんはそそくさと外に出て、扉の向こうで話し始めてしまいました。
何か嫌な予感がいたします。
「これからご案内するので早く掃除を……え、えええぇぇぇぇぇッ!!?」
びっくりしてパン落としちゃいました。
でも三秒以内に拾ったからセーフ。
「そんな!? だって昨日までなんとも……!! えぇぇッ!? なんでそんなことになるんですかッ!!!!」
もそもそとパンを食べつつ、心の準備はできました。
何かは知らないけど良いニュースではないのでしょう。
私が朝食を食べ終わる頃、沈痛な面持ちのソフィアさんが戻ってきました。
「とりあえず、見に行ってみますか」
事情は知りませんが、私は努めて明るくそう言いました。
遠目でそれを見て思ったのは、もう私は何かに呪われてるんじゃないかという落胆です。
呪っているのはきっと老子でしょう。しかも面白半分でです。
「これは……なかなか……」
町を見下ろせる見晴らしの良い丘の上にその家はありました。
それは思っていた以上に立派で、古くはあるけどしっかりした造りのお家でした。
ここでの「でした」は「元はそうだった」という意味での過去形です。
だって、大樹が屋根を突き破って貫通してるお家は、もう家ではないでしょ?
「あ、ああ……あああぁぁぁぁッ!! 申し訳ありません、リヴィさん!! 確かに昨日まではこんな風ではなかったんですが……なんとか、なんとかしますから、どうかご容赦を!!」
地面にへたりこんだソフィアさんは頭を大地にこすりつけます。
あわててそれを止めつつ、ひとまず中へ入ってみようと私は提案してみました。
ほら、中から見たら案外大丈夫だったり……するといいのになぁ(現実逃避)。
「わかりましたっ、では私が先に入って危険がないか確認いたしますの――」
ソフィアさんが扉を開けるより早く一人でに扉が開きます。
そしてその向こうにいたのは――なんとなく予想していた通りでした。
「「あっ」」
ソフィアさんと家から現れたフェルミアの声が重なります。
そしてしばしの沈黙。
真っ先に口を開いたのは、フェルミアでした。
「私のせいですけど、なにか!?」
今度はごまかさないでくれたけど、なぜか逆ギレでした。




