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魔法使いは泣かせる


「みゃみゃみゃみゃぞ――ッ!?」


 ソフィアさんが電撃でも浴びたみたいにびくりと跳ねてよろめきます。


 今回ばかりはそのオーバーリアクションも仕方のないことです。

 なにせつい最近まで、私たちは魔族と呼ばれる方々と戦争をしていたのですから。


「その名で呼ぶな耳短(ヒューマー)


 ショートカットの灰緑の髪に薄緑の瞳。

 細くしなやかな身体を覆う肌は雪のように白く、どこか冷たい表情も相まってやはりお人形のような女の子です。


 私より少し高いぐらいの身長ですが、その冷たい美しさの所為で大人びて見えました。

 ただ、耳長(エルフ)の年齢を見た目で判断することはできませんけど。


「まあまあ、それより……あなたはどっち?」


 魔族という呼び方は亜人全体を指すある種侮蔑的とも言える呼称です。

 そんな言い方されて怒るのは当然ですが、さらに人はその魔族を二つに分ける別の呼称も使っています。

 友好的魔族(ハーフラッツ)敵対的魔族(ラッツ)か。

 耳長(エルフ)は森の中に住み、元来前者にあたると聞いています。


「私たちにどちらもない。私は森の民(アールヴ)、それ以外などない」


「じゃあ敵対しているわけじゃないってことでいい?」


「関心はない」


 ひとまず敵対ではないということでいいのでしょう。


「ほらソフィアさん、聞いた通りだから大丈夫」


「は、ひゃい。でもなんでこんなところに耳長(エルフ)が……ッ!」


 ギロリと睨まれソフィアさんがまた振動します。

 支える私までぶるぶると。

 ちょっとモズリスちゃんの気持ちがわかりました。これマッサージ効果があるようです。

 

「ちょっとお願いね」


「きゅるっ」


 すっかり懐いたモズリスちゃんにソフィアさんをまかせ、私は耳長(エルフ)――ではなく森の民(アールヴ)の女の子に尋ねます。


「こんな人間の町近くまでどのようなご用件で?」


「あなたに言う必要がどこにあると?」


「探し物は、見つかった?」


 少女の端整な顔が一瞬だけ歪みます。

 どうやら予想通りのようです。


「確か、この森に住む森の民(アールヴ)はもっと西側……数日ではたどり着けないほど離れた場所にいるんじゃなかった?」


「私たちが私たちの森のどこに行こうとあなたには関係ないわ」


 取り付く島もありません。

 でも今日ばかりは関係ないで済ませるわけにはいかないのです。


「本当にそう? おおかた魔法を見てここに来たんでしょうけど、私に関係なくともこの花には関係があるんじゃない? だとしたら、私にもおおいに関係あるんだけど」 


「……それに答える義務はない」


「へぇ、森の民(アールヴ)は誇り高い種族だと聞いていたけど、自分の失敗をごまかして逃げるような種族なんだ」


 少女の眉がぴくりと反応します。

 ちょっといじわるかもしれませんが、鉄壁クール系女子の攻略の為には仕方ありません。

 ここは心の鬼にしていきましょう。


「精霊のいたずらは偶発的に起こるものだけど、この規模のものはそうじゃない。強い方向性を与えなければここまでにはならないもの。その方向性を与えたのが、あなたなんじゃない?」


 少女は瞬きもせずに私を睨みます。

 いきなり逆ギレされて襲われやしないかと、さすがに私も緊張してきましが退くわけにはいきません。


「う、うるさい……!」


 おそらく汚れた衣服から察するに、彼女は精霊のいたずらを止めようと輪を探していたのではないでしょうか。

 つまりは偶発的に起こった事故、何らかの失敗があったのだと推測します。

 でもわざとじゃなくても、ごめんなさいは必要ですよね?


「精霊のいたずらのせいで、町の人たちはすごく困っていた。あなたが原因だと言うなら、それはあんまりなんじゃない? したくないけど森の民(アールヴ)の里に手紙を送ってもいいんだよ? どうしてくれるんだって」


「それは……そんな、関係ない……!」


「だから関係ないことないの。誰かに迷惑をかけたなら、言うことがあるでしょ?」


 少女は歯噛みして怒りで肩を震わせます。

 何か言い返そうとしたようですが、「うっ」と震えた声が漏れるばかり。


「ごめんなさいは!!」


 ここが押し時だと私は少し声量を上げます。

 これも老子の教えです。


 『相手が弱った時にこそ、徹底的にいきな』


 ろくな教えではありません。


 しかし効果はてきめんでした。

 歯噛みしていた少女の震える口が大きく開いて、


「うわああぁぁぁぁんっ!!」


 びっくりするぐらい泣いてしまいました。

 クール系女子の印象が吹き飛び面影もありません。


「えっ、ちょっ……え?」


「リヴィさん……」


「え?」


「泣かせるのはさすがにどうかと思います」


「きゅるる」


「…………え?」


 泣きたいのは、私でした。



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