魔法使いは慰める
山々の連なる景色の中、一つだけ異様な形の山がありました。
いえ山というにはあまりにも荒涼としていて、それは巨大な石柱と形容すべき姿をしています。
フェルミア曰く、その頂上に妖鳥の里があるとのことでした。
「とりあえず今日はここまで。明日の朝にあの崖まで行ってみようか」
リスぞりのおかげで随分早く付近まで来れたものの、里に向かうには森を徒歩で進み、さらに崖を登らねばなりません。
しかし既に日は傾き、昼間でも暗い森の中はさらにこれから危険度を増します。
ですので私たちは森の入り口で野営をし、朝から行動を再開することと致しました。
「じゃあクロム、モズリスちゃん、お願いね」
私とフェルミアで周辺の見回りに向かいます。
クロムが自分がすると言ってくれましたが、危ない仕事全部を押し付けるわけにはいきません。
なぜかモズリスちゃんに乗ったままのクロムに、「すぐ戻るから」と伝え森へと入りました。
「姉さま、風の精霊に聞いてみてもよろしいでしょうか」
もちろん、と頷きつつも、フェルミアの言葉に感じられた微かな自信に不安を感じます。
自信を持てと言ったのは私なんですけどね。失敗した時の反動が恐いのです。
でも本人がやる気なんですから、背中を押してあげるべきでしょう。
「黒獣が遠くにいた場合はどうなるの? とりあえず知りたいのは近くにいるかどうかなんだけど」
「ご安心ください! ちゃんと質問の仕方を考えれば応えてくれますので!」
なら良いのですが。
失敗した時はいっぱい慰めてあげましょう。
そしてフェルミアが意識を集中させ精霊魔法を唱えます。
ふと物音に気付き振り向けば、すぐそこにお探しの黒獣の姿がありました。
「……第一雷撃魔法ぁっくしょんッ!」
上手くくしゃみに見せかけて退治しておきました。
集中するフェルミアは気づいていないようです。
無事に詠唱が終わり、一陣の風が吹きスカートの裾を揺らします。
それを受けたフェルミアはなんとも言えない困り顔でした。
バレたでしょうか……。
「いるけどいない……? でもいない?」
当惑するフェルミアの顔がじょじょに曇り模様に。
聞かれてる途中で退治されたんだから、精霊の答えもそんな感じになっちゃいますよね。
「いたけど今は大丈夫ってことだよ! さっすがフェルミア、もう完璧だね!」
雨が降る前に強引にフォローしておきました。
「え、あの……。はいっ、姉さまのおかげです!」
結果、快晴の笑顔です。
「よしもうちょっと奥に行ってみようっか。今すぐに!」
「でも、いないみたいですのでもう問題ないかと……」
「ほら、もっとフェルミアの精霊魔法見たいし! 万が一もあるからもう少し奥でもやっとこう!」
焦げ臭い匂いに気づかれる前に、私はフェルミアを連れて進みます。
そこでは問題なく、風の精霊が危険なしと告げてくれました。
黒獣の危険も、フェルミアが失敗して泣いちゃう危険も無事に回避されたようです。
◇◆◇◆◇
「第一風魔法」
帰りの道すがらモズリスちゃん用の木の実を集めます。
がんばってもらっている分お礼をしなくてはですからね。
「お持ちしますっ!」
「うん? 大丈夫だよ、このくらい」
「いえ、持たせてください! せめて荷物持ちぐらいは」
妙に引っかかる言い方でした。
それで気が済むならと木の実を渡しましたが、あわてたのかフェルミアはその木の実を落としてしまいます。
「どうしたの?」
あわてふためき、散らばった木の実を拾うフェルミアに問いました。
どう考えても何か余計なことを考えてしまっている顔です。
つい先程まで精霊魔法を成功させ、にっこにこだったと言うのに。
「あの、姉さまの魔法を見ていて……自分の不甲斐なさを自覚したというか。一つ成功させただけでうかれてしまって……その」
やっぱり余計な考えです。比較することじゃないでしょうに。
フェルミアはフェルミアだ、と伝えてはみたものの再び曇ってしまった表情は晴れません。
「ですが……奉仕権争奪戦の時も、私がうかれたばかりに負けてしまいました。私だけが、姉さまのお役に立てなかったんです……」
それも気にしてましたか。
だから今、私の魔法を見て素に戻り、うかれていた自分を責める方向にいってしまったと。
あぁ、これは無理に慰めるよりも吐き出させてあげるほうが良さそうです。
「引き分けに持ち込めたんだし、何も気にすることじゃないけどね。でも、悩みがあるなら聞くよ?」
「姉さまはお優しいです。あの鳥頭にすら。私はそんな姉さまにお返しできているんでしょうか……」
「してくれてるよ! 今だって手伝ってくれてるし、家事だってやってくれてるじゃない」
「ですが……やはり姉さまのお世話は耳短の方が良いのかもしれません。ここ数日、あの耳短……リーナたちに家事を教わっていて、どうしてもそう思えてきました」
木の実を拾うフェルミアは顔を上げません。
手伝おうと目線を下げると、伏した目に涙が溜まっているのが見えました。
「前にも言ったけど、そういうふうに考えてると精霊に愛想つかされちゃうよ?」
「はい……。わかってはいるつもりなんですけど、ダメですね、私は」
「ダメじゃないよ。そんなフェルミアも良いと思う。魔法を使うには自信があったほうが良いけど、でもだからってフェルミアがダメってことじゃない。私は今のフェルミアが好きだよ」
「姉さま……っ」
頭を撫でると、顔を上げたフェルミアが涙を溢しながら抱きついてきました。
まったく困ったちゃんですね。
「私も、お慕えしています……姉さま」
綺麗な顔で微笑んでフェルミアが目を瞑りました。
まるで彫像のよう、とその均整の取れた芸術品のような顔にしばし見惚れていたところ、抱きつかれて身動きが取れないことに気付きました。
そして近付いてくるフェルミアの顔。
「え、ふぇ、フェルミア――ッ!?」
「どうか、お情けを……」
慰めようとは思いましたがこれは想定外です! 許容範囲外です!
「ま、まま待って! こういうことは、その、順序があるっていうか……!」
と言ったもののフェルミアは止まりません。
想定外過ぎて思わず硬直してしまったその時、
「くぁッ!?」
飛来した何かがフェルミアの頭を直撃しました。
落ちたそれは枝のようです。
「あっちも窮地、こっちも窮地。お嬢、睦んでる場合じゃない。緊急ッ」
解放され安堵していると、飛び込んで来たクロムになぜだか私が怒られました。
私を慰めてくれる人はどこですかね……。




