魔法使いはハーピーの里へ
フェルミアに教えてもらったところ、ピィノたちが住み着いた場所へ行くには日帰りではすみそうにもありません。
ですので準備に数日かかってしまいました。
幸いなことにその間黒獣が町を襲うことはありませんでしたが、このままではいつ被害者が出るとも限りません。
ゆったりしている余裕はなさそうです。
「じゃあ家と町のことはお願いね」
「おまかせください、お嬢様。これであたし達も暗殺メイドですから、黒獣程度けちらしちゃいますよ」
リーナのその言葉のおかげで私は安心して家を空けられます。
本当に頼りになるメイドさん達です。
物騒極まる単語は余計ですけど。
「どうかお気をつけて」
メイド三人の横に立ったソフィアさんが心配顔で言います。
「ありがと。三人には緊急時にソフィアさんの指示を仰ぐようにって伝えてあるから、いざとなったらお願い。そうならないようにピィノを返しに行くんだから大丈夫だとは思うけど」
「町のためにありがとうございます。ですがどうかご無理はなさらないで下さい」
「森に詳しいフェルミアもいるし、戦うメイドさんのクロムもいるし、あと……あ、来た来た」
迎えにいったフェルミアを乗せて走って来たのはモズリスちゃんです。
今回モズリスちゃんには、重要な役割を担ってもらうことになります。
「よし、じゃあみんな乗って……この、大草舟に!」
「お嬢、これ、ただのそり」
つれないですなぁ……。
「しかも、リスぞり」
「そう、既にモズリスちゃんの承諾済み。フェルミア、用意は?」
「はいっ、森で採取した分と町で買い求めた分、十分に」
開いて見せる革袋の中には、たっぷりと木の実が詰まっています。
よしよし、報酬はばっちりですね。
「じゃあ、モズリスちゃんお願いね!」
「きゅきゅっ」
私たちはそりの上へ、そしてクロムはモズリスちゃんの背中へ。
なんでしょう、後ろから見てるとすごく和むこの光景は。
ちっちゃい幼女が大きなリスに乗ってるのを眺めながらの旅、悪くはないです。
「よし、それでは出発!」
力強く前進するモズリスちゃんに引かれ、そりが動き出します。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「何かあればすぐに戻ってきてください! 私もお手伝いしますから!」
「ふぁ、いってらぁっしゃ~い」
みんなの見送りの言葉を受けて、私たちはピィノの里へと向かったので――。
なんかお見送りの人数が増えてませんか。
振り返ってみれば、一目瞭然でした。
「そこのとりぃぃぃぃ――ッ!!」
肝心のピィノがしれっとお見送り側に混じってます。のん気に翼を振ってます。
「モズリスちゃん、ストップ!! 一番忘れちゃいけない荷物が、あ、わわッ!?」
急停止でつんのめったそりが、そのままひっくり返っていきます。
私はそりに容赦なく投げ飛ばされながら、この前途多難な旅に既に心が折れそうでした。
◇◆◇◆◇
「すごぉ……ととっ」
走るそりから身を乗り出したピィノが、興奮したのか翼を広げ、そのまま風を受けて飛んでいきそうになっています。
私は服を引っ張ってその身体をそりの上に戻しつつ、昨晩のことを考えていました。
ピィノは突然起き上がり助けを求めすぐにまた眠り、その後目覚めた時には元に戻ってしまっていました。
そして彼女曰く、夜中のことは記憶にないと。
フェルミアは「鳥頭だから」とばっさりでしたが、どうも引っかかるところがあります。
「妖鳥ってみんなこうなの?」
私はピィノの頭を撫でながら――撫でるとおとなしくなるので――フェルミアに尋ねます。
フェルミアは私の膝の上に頭を乗せたピィノを睨んでから、
「しょせん鳥頭ですから。……ただ、私もさほど詳しいわけではありませんけど、少々度が過ぎている気はします」
「だよね。いくらなんでもこれは……」
全員これなら、きっと妖鳥という種はもうとっくに途絶えているでしょう。
と、リラックスした表情で頭を撫でられているピィノを眺めます。
「やっぱり何も覚えてない?」
「覚えてるよーな、覚えてないよーな。なんだかわかるようで、何にもわかりませぇん。ふぁぁ」
「鳥頭、姉さまが尋ねているのにその態度はなに? ちゃんと座って答えなさい! 離れなさい!」
「ふあぁ、耳ながーい」
「この鳥頭、今すぐ離れろぉぉぉッ!!」
「二人とも暴れないのー」
そんなことを繰り返しつつ、リスぞりは草原を走ります。
流れる景色を眺めながら、ひとまず私はピィノが記憶喪失であると仮定し状況を整理します。
ピィノが夜中に口にした言葉からすると、ピィノの里が何らかの危機的状況にあり、人間がそこに関連している。ただ人間が加害者なのか被害者なのか、というところは現段階では推測も難しい状態です。
おそらくこの子の記憶喪失もそこに関係があるのでしょうが、いったい何が起きれば記憶喪失になるのでしょう。
その上でもう一つの大きな疑問があります。
「飛べない妖鳥」
「確かに、いくら鳥頭でも飛び方を忘れるのは……ないとは言い切れませんが」
記憶の喪失に飛行能力の欠如。
そしてピィノを追いかけてきたと思われる黒獣。
きな臭い嫌な匂いがするだけで、情報不足のためにやはり想定を立てることすら難しいようです。
今はまだ、考えても仕方ないようですね……。
「わたし飛べるんですかぁ? 飛びた、ととっ、ふぁぁぁッ!?」
不用意に翼を広げたピィノが、とうとうそりから飛んで――いえ飛ばされていきました。
そして墜落。
頭から落ちて泣いています。
「このまま置いていきませんか」
フェルミアのその提案に、一瞬首を縦に振りそうになったのは内緒です。




