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魔法使いの弟子(係)は健闘する


 奉仕権争奪戦(メイドバトル)

 それは主人への奉仕の座を巡り、メイドたちが覇を競う戦い。

 もし挑戦者が勝利した場合、敗北者はその座から降ろされ代わりに挑戦者が主人の新たなメイドとなる……。

 と説明されましたが、なるほどわからんです。


 ただクロムたちに円満退職してもらうためには、それしかないというのはわかりました。

 だからといって、「じゃあそれで」だなんて言うわけないんですけど……。


「いいでしょう。耳短(ヒューマー)ごときに負ける気はありません」


「町長の孫として、この町で勝手をしてもらっては困りますね」


「わたしもメイドさんしてみたーい」


 なんか勝手に話しが進んでいきました。


 私不在で勝負内容が詰められていく最中、私はぐるぐると思考を巡らせます。

 そもそも、クロムたちと共に生活する道はないのだろうか?

 イエス、あります。

 数日程度でしょうが、既に彼女たちは私の世話をここでしてくれていました。

 それにより生活水準はほんの少し上がり、パフェも食べられました。

 しかもお給金は前払いで支払われているというじゃないですか。

 そう、そう考えればそもそも拒む理由はないのです。


 ならばなぜ私が彼女たちの奉仕を断ろうとしているのか。

 それは単純なことでした。


 隠れ狼って……クロムたちですよね?


 タイミングから考えてそうとしか思えません。

 「守秘義務」と言われて教えてもらえませんでしたが、クロムたちはおそらく魔法使いではありません。

 姿を隠すのには魔道具を使っているのでしょう。

 魔道具もそれなりに貴重なはずのものですし、そうそうそこいらにあるものではありません。


 もし彼女たちが隠れ狼なら、私は領主様の車両を襲った賊の主人ということになってしまうわけです。

 それだけは阻止しなければ、私のゆったり田舎暮らしがぐったり獄中暮らしに変わってしまいます。

 やるしか、ないようです。


「ねぇクロム、私からも幾つか要望があるんだけど良い?」


「イエス。勝負内容、挑戦者が決める。奉仕に関わるもの、すべて可」           


 そのお言葉に甘えます。

 私の素敵な暮らしを守るために。




 そして翌日、本当に奉仕権争奪戦(メイドバトル)が始まったのでした。


「さあ、どっちがリヴィお姉ちゃんのメイドさんになると思いますか」


「え、突然どうしたのメアリちゃん」


「実況のメアリです」


 そうなんだ。

 なんで?


「始まりました奉仕権争奪戦(メイドバトル)。勝ったほうがお姉ちゃんのメイドさんになります。おきもちは?」


「え、あ、恐縮です……?」


「たまむしいろだねっ」


 大人とはそういうものです。


 準備が済んだところで、私は屋根裏部屋から持ってきた砂時計を置きます。

 私が要望した時間制限(タイムリミット)を示すためのものです。

 各勝負ではメイドの役割を一つずつ競って頂きますが、制限時間の内に勝負がつかなかった場合は引き分けとなるルールです。

 

「りょーしゃがんばってほしいものですねぇ」


「ところでメアリちゃん、一戦目は」


「じゃあわたしがゴングを鳴らすね!」


 と机に置いてあったハンドベルを握りますが、


「一戦目、メアリちゃんだよね」


 やっと自分が出場者だと思い出してくれたらしく、その手が止まりました。


「実況は……?」


 知らんがなです。


 不承不承といった様子でメアリちゃんは立ち上がり、箒をひっつかみます。

 そして箒の柄をさ迷わせて小首を傾げました。


「どーこー?」


 対戦者に宣戦布告といきたかったのでしょうが、クロムたちはまだ消えたままでした。


「ねぇクロム」


「承知」


 傍らから声だけして一枚の紙が現れます。


「もしかして読めと?」


「実況と聞いた」


 私が言ったんじゃないんですけどね……。


「えー、それではこれよりリヴィ・クオンティーナ専属奉仕権争奪戦(メイドバトル)を執り行い……ます……」


 なんか自分で言うのすごく恥ずかしいんですけど。

 私の奉仕権を争わせるって、私はお下品な王族か何かでしょうか。


「……全四試合。勝数の多いほうを私のメイドとして認めます。はい……」


「お姉ちゃん、わたしがんばってご奉仕するからねっ」


「うん……」


 心苦しさがすごいんですけど。

 これ奉仕じゃなくて責苦ではないでしょうか。


「そ、それでは……両者前へ!」


 そう言った瞬間、メアリちゃんの前に女の子が現れました。

 こういうシステムなんですね、私毎回言わなきゃいけないんですね。


「お、お初にお目にかかりますリヴィお嬢様。私、リヴィお嬢様担当お掃除係をさせて頂いております、ナヴィアと申します」


 ナヴィアは少し気の弱そうな黒髪の女の子でした。 

 この子が私が散らかしたあれやこれを片付けてくれていたわけですか。

 お世話になってますと私もお辞儀を返します。


「わたしメアリ! リヴィお姉ちゃんの弟子係だよっ」


「えっ! で、弟子!?」


 ナヴィアが私に確認を求めますが、私は視線を逸らしてそれを拒みます。

 ちらりと見やるとナヴィアはうろたえているようでした。


「それでは両者、部屋の中心に引かれた線のそれぞれの側、半分ずつを清掃し競っていただきます。第一試合、お掃除対決、始め!」


 「よおしっ」とやる気十分でメアリちゃんが掃除を始める中、ナヴィアは動転したままです。


「と、頭目!」


「問題なし。弟子であっても、関係ない」


「でもでも、お嬢様の弟子なら奉仕対象に含まれるのでは!?」


奉仕権争奪戦(メイドバトル)の最中。奉仕対象はお嬢ただ一人。敵は確実に潰す」


 メイドさんが潰すって言っちゃってますよ。

 お世話しまくって再起不能のダメ人間にでもしてくれるということでしょうか。

 

「わ、わか……かしこまりましたっ!」


 実はこれは私の作戦だったのですが、思うほど効果は出なかったようです。

 冷静さを取り戻したナヴィアはてきぱきと清掃を行います。

 丁寧でありながらも素早い。なんという身のこなしでしょう。


「ごみみーつけたっ」


 それに対してメアリちゃんは遊び心を持ったお掃除の仕方をしています。

 楽しげなのはいいですが、進捗は一目瞭然。

 これはこの勝負落としましたかね。

 

「ちょっとメアリ!」


 ソフィアさんが声をかけメアリちゃんが「ん?」とこちらを振り返ります。

 ソフィアさんが呼び掛けた理由はすぐわかりましたが、逆効果でした。

 大きく振り上げた箒が、メアリちゃんが振り向いた拍子に棚の上にあるもの全てを凪ぎ払います。


 ガッシャーンッ!


 砕けた破片が飛び散ります。

 メアリちゃんの表情が一変します。

 怪我はないようですが、びっくりしちゃったのでしょう。


「メアリ!」


 ソフィアさんが駆け寄ろうとしますがすぐにピタリと動きを止めました。


「勝負の最中。第三者の干渉は許されない。お嬢も」


 クロムに制され状況を確認してから、私も浮かせた腰を下ろします。

 

「ソフィアさん、メアリちゃんはまだがんばってる。だからひとまず見守ろう」


 溜まった涙を拭いながら、メアリちゃんは現実に向き合っていました。

 そしてゆっくりとしゃがみこんで破片を片付け始めます。

 

「いたっ!」


「だ、大丈夫ですか! メアリ……お、お嬢様」


「お嬢さま……? お姫さまみたいっ」


 瞳を潤ませたままですが、メアリちゃんは気丈にも笑って見せました。

 さして歳が離れているようには見えませんが、そんなメアリちゃんにほだされたのかナヴィアは微笑を浮かべて指先の怪我を治療し始めます。


「ありがとうっ」


「いえいえ、これも勤めですから。では片付けは私が」


「わたしがしたから、わたしがちゃんと片付ける。だから大丈夫」


「ですが……あぁ! 危ないですから、素手で触るのはおよしください!」


 そんなやり取りの後に二人は一緒に片付けを行い、


制限時間超過(タイムアップ)につき、この勝負は引き分け!」


 第一試合は二人が親交を深めて終わりました。

 戦いの中、芽生える友情。

 そのためと思えば、調度品の一つや二つ壊されても安いものです。

 えぇ、ほんとに。


 そりゃあ壊されないに越したことはなかったですけどね。



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