魔法使いは巻き込まれる
つい今しがた「一筋縄じゃいかない」だなんて言った私の眼前に、四人のちびっこメイドが転がっています。
年の頃はメアリちゃんと同じか、少し上か。
ただ褐色の肌をした女の子一人だけは、おそらくメアリちゃんより年下でしょう。
ひとまず私は転がる四人に治癒魔法をかけてみます。
びくっと反応したかと思えば、突如全員の姿が消失してしまいました。
やはりこの子たちが見えないメイドさんということで、間違いないようです。
「とんだ失態」
そうぶっきらぼうに溢しながら、褐色の肌の女の子だけが姿を現しました。
灰のような白っぽい髪に褐色の肌、幼い顔立ちなのに鋭い目付きをしていて、その瞳には歳不相応な落ち着きが感じられます。
「責任をとって、自害」
どこからともなく小刀が出てきました。
「ちょっと待ってッ! 勝手に話も人生も完結しないで!」
「危ない。離して、お嬢」
「お嬢って私を呼ぶってことは、やっぱりあなたが屋敷でお世話をしてくれてた見えないメイドさんなんだね?」
「守秘義務。離す。頭目として責任ある」
「責任というなら説明求む! 責任者なら話せる範囲での説明責任もあるのでは?」
顔色一つ変えはしないものの、ぴたりと動きが止まりました。
「一理ある。タイム、許される?」
「おーけーおーけー」
ちびっこメイドさんは背後の空間とひそひそ話始めました。
見えないだけでそこに他の三人がいるんでしょう。
「姉さま! 大丈夫ですか!」
屋根裏部屋にフェルミアが顔を出し、
「リヴィさん! 物騒な言葉が聞こえてきましたけど、いったぁッ! ちょっと、耳長なに蹴ってんのよ!」
「わたしも上がりたーい!」
梯子の下が大騒ぎです。
「結果発表」
「あ、はいはい。どうなった?」
「可能な範囲での説明、二票。無視、一票、お嬢を始末する、一票」
「最後の入れたの誰ですか」
二つ目も扱い酷いですけどね。私、お嬢様なんじゃないんですか。
「よって、可能な範囲での説明。自害のあとすぐ」
「死人に口なしッ!」
また出てきた小刀の柄をつかんで制止します。油断も隙もあったもんじゃありません。
「姉さま! 今お助け、足をつかむな雄鶏ッ!」
「あなたが蹴るからでしょうが! さっさと行きなさいよ!」
「見ーえーなーいーッ!!」
上は刃傷沙汰、下は押しくらまんじゅう、それなーんだ?
答え、私のお家。
穏やかな暮らしは、どこへ?
「はぁ……。とりあえずみんな、落ち着いてえ――ッ!」
私はなんとか皆を落ち着かせ、一階に移動して話をすることにしました。
色々あってちょっと三名ほど凍ってますが、致し方ありません。
「お嬢、親方様に似た」
凍った三名のうちの一人、メイドの頭目を名乗る女の子が、雪を払いながら嫌なことを言ってくれます。
親方とはこの場合、老子のことでしょう。
一緒にするだなんて失礼しちゃいますよ、ほんとに。
「他の三人はやっぱり姿を見せてくれないんだね」
「我らは陰からご奉仕する仕事。無用に姿を晒す、不様」
奇妙な価値観でいらっしゃる。
奇妙といえば、その格好も奇妙です。
メイド服ではあるものの、スカートは丈が短くタイト、全体的に動きやすさ重視な作りをしています。
そして白い手袋に、白いカチューシャ。
カチューシャは屋根裏部屋で見つけた獣耳のついたあのカチューシャです。
変な趣味の人もいるもんだと思ったら、私の師匠が付けさせたものでしたか……。
「姉さまの何かは知りませんが、こそこそと、どういうつもり!?」
頭に雪の積もったフェルミアが机を叩きます。
でも頭目ちゃんは眉の一つも動かしません。
「味、薄すぎる。洗濯、汚れが落としきれていない。畳み方、雑。掃除……」
そう言いながら頭目ちゃんは机の上に指を這わせて、
「したつもり。メイド、失格」
無表情なまま責め立てるようにフェルミアを睨みました。
「くぅぃぃぃっ!」
フェルミアは変な声で鳴いて、瞳を潤ませます。
弱すぎませんか、この三百歳。
「この野生の耳長に家事ができないことは置いておいて、あなた方はなぜ潜伏してたんですか。町長の孫として私は聞いておかなければなりません」
「我らはお嬢に説明。太った鶏、出荷されろ」
「くは……っ!?」
ソフィアさんもあっさり撃沈。
まだ回復していないのに急所を的確についてくる。
なんとも老子の雇ったメイドさんっぽいやり口です。
「わたしはメアリだよ?」
「クロムはクロム」
かと思えば、普通に話せば普通に返してくれるようですね。
メアリちゃんだからかもしれませんが。
「で、クロム。説明をしてもらいたいんだけど」
「説明責任果たす。質問は」
「まず、なんでここにいるの? あなたたちは老子に雇われて屋敷で身の回りの事をしてくれてたんだよね」
「イエス、我らは親方様の指示により活動」
「だからなんで……。そっか……ここにいるのも指示があったからってわけか」
「イエス、我らお嬢の専属。おはようからおやすみまで」
「専属って、じゃあ屋敷で私の事をしてくれてたのもみんななの?」
「イエス、親方様のお世話、別」
「そっかあ……。うん、じゃあ話はまだあるけどお礼だけ言わせて。あなた達のおかげで私も老子も不自由なく暮らせて、研究にも集中できた。ほんとにありがとう」
「……不要」
表情が読み取りづらくはありますが、少しだけ表情を緩めたようにも見えました。
「だからそのお世話係がなぜここにいるの! 姉さまのお世話はこの私がするんだから邪魔しないで!」
「お世話係、入浴を覗かない。お前、失格。失態。変態」
「うっ……ひうっ……」
フェルミアちゃん、メイド幼女に完敗。
フェルミアはなんちゃってクールさんでしたけど、クロムは徹底しての無表情。
よしよしとフェルミアちゃんを慰めつつ、私は私で淡々と状況を整理します。
「つまり、クロムたちは私の世話係を続けてるからここにいるってことなの?」
「イエス。殺してでもお世話する。それが掟」
自立心は尊重していただきたいものです。
既に新しいメイドさんのいる私に、そんなものが本当にあったのかは知りませんけど。
「嬉しいんだけどさ、この家じゃ四人は多すぎるし、お給金だって払えないかもだし」
「間引く?」
また小刀が出てきました。
「いや間引かないで。そうじゃなくて、もう老子も亡くなったから……私の面倒を見る必要もないというか」
「リストラ?」
ガタンと奥で物音がしました。
後の三人も見えないだけで、近くで聞いているのでしょう。
「いや本当にわざわざ来てくれたのは嬉しいんだよ? でももう状況も変わったし、老子もいないし、リストラっていうか契約満了……みたいな?」
「無職?」
いちいちその言葉が私の胸をちくりと刺します。
これまでの恩があるのに仇で返すようで罪悪感はありました。
「ちなみに給金。既に貰っている」
「え!? 老子が前払いを!?」
あの他人が嫌がることが大好きで他人を信用しようとしない老子が、まさかそんな気前のよいことをするだなんて驚きです。
「契約満了、奉仕対象の消滅」
「メイドさんの使う言葉ですかね、それ」
「と、もう一つ」
「あるの? 私が消滅しない方向性で?」
「ある。そこの変態耳長、お嬢に奉仕する?」
「もちろん! あなたみたいな耳短に後れをとるつもりはない!」
「ならば……お嬢も入れれば可能」
「なにが……?」
いやあな雲行きです。
ろくなことではないのだと確信しました。
「我らの掟。挑戦者、拒まない。故に、奉仕権争奪戦を執り行う……!」
ほーらね……。




