魔法使いは見えないメイドを見つける
くいくいと袖を引かれてパフェを掬い、
「あーん」
三百ちゃいのフェルミアちゃんにパフェを食べさせます。
一口目は強烈な甘みにめまいすらしていたようですが、すっかり虜です。
「お、おいしい?」
「うんっ」
うん、じゃないですし。
ソフィアさんを元気にしてくれたご褒美で食べさせてあげたんですが、私はいつまでこの餌付けみたいなのをさせられるんでしょう。
まあ良いですけどね、もはや私はパフェどころじゃなくなっているので……。
「一体誰でしょうね」
同じく膝の上のメアリちゃんにパフェを食べさせていたソフィアさんが、訝しげに一枚のメモを見つめます。
それはパフェと一緒に扉の前に置かれていたという手紙です。
確かに町の人が扉の前に野菜など置いていってくださることはあります。
しかし今回はパフェです。それも町で聞いた限り誰も知らなかったもの。
誰だって不思議に思うでしょうが……私が気にしているのはそこではありませんでした。
「うーん……音止め」
突然のことにみんな目を丸くして私を見ます。
当然そうなるでしょう。だけどこうしなければならないんです。
「見えないメイドさんがいる」
「「「……」」」
すっごい哀れみのこもった目で見られました。
それに屈せず、私はみんなに見えないメイドさんのことを伝えます。
私が王都で済んでいたお屋敷、そこで家事全般をしてくれながら一度も目にしなかった存在。そしてそこで見たメモと目の前にあるものの筆跡が一致していること。
「お姉ちゃん、お姫さまみたい! 良いなあ」
やはりそうですか。恵まれていたんですね、私。
「つまり魔法使いさんはその人たちがこの家に潜んでいると?」
なぜかソフィアさんの私への評価が落ちました。
贅沢な暮らししてたからでしょうか。ダメ人間だったでしょうか。
「あーん」
三百ちゃいフェルミアちゃん、話聞いてない。
「フェルミア、ここ数日でおかしなことはなかった? 何か変化があったならたぶん家のことだと思うけど、全部おまかせしちゃってたから私じゃわからないの」
「え? ……いえ特には」
そう言ったものの、フェルミアは「ん?」と漏らして小首を傾げます。
「姉さま、今全部と仰いましたか? 昨日の洗濯と冷蔵箱にいつの間にか入れられていた野菜は、姉さまではないんですか?」
断言するのもお恥ずかしいことですが、私は一切家事をしていません。
本当に断言することでも、断言していいことでもないですが……。ソフィアさんのダメ人間を見る目が痛いです。
「ねえフェルミア、そういえば昨日スープを飲んだ時に一瞬変な顔してなかった……?」
「あ、あれは……思っていた味と少し違いまして、煮込んだことで味が変わったのだとばかり……」
「それも……、なのかもね」
間違いありません。
この家で少なくとも昨日から暗躍していた者がいます。
「お姉ちゃん、なんでメイドさんなの?」
「なんでってメアリ……あぁなるほど、見えないんですもんね。なぜ見たことがないのに、メイドさんだとわかるんですか? リヴィさん」
「そこが問題なんだよ。私がメイドさんだって知っているのは老子がそう言ってたから。でも老子は適当な人だったからね……もしかするとメイドさんじゃないのかもしれない」
みんなピンと来ていないようですが、こう言えば伝わるでしょう。
「――執事かもしれないの」
みなが目を見開き、途端に周囲を警戒し始めました。
それはそうでしょう。この美少女(私も含んどきますね)しかいないはずの空間内に、見えない男性がいるかもしれないのです。
老子の無茶苦茶な性格からすると、最悪の場合メイド(筋肉もりもり男性)ですらあり得ます。
もうただの変態さんですよ。
「呼びかけてみてはどうでしょうか? リヴィさんのメイドであれば普通出てくるんじゃないですか?」
「屋敷で何度か呼びかけたことがあったけどダメだったから、たぶんダメだと思う。きっと一筋縄じゃいかない、老子が用意したメイドさんだもん……。何か向こうが予測できない手段を打たないと……」
「姉さま、一つよろしいでしょうか……」
フェルミアが言い難そうに天井を指差しました。
「寝息のような音が聞こえているのですが……」
結論を言えば、”予測できない手段”が既に打たれていたのです。
もしここ数日で来たのだとすれば、メイドさんたちは知る由もありません。
まさか一人の町娘が、実は音響兵器であるだなんて。
「あら、まあ……」
梯子を上って屋根裏部屋を覗いた私が目にしたのは、可愛らしいメイド姿の幼女四人が、耳を押さえた格好で気絶している光景でした。




