魔法使いは辱められる
メアリちゃんの健闘により一引き分けで始まった奉仕権争奪戦。
第二試合は、探し物対決です。
「事前に庭のどこかに鍵を隠しました。主の欲しいものを見つけ出すのもメイドの勤め。先に探しだし手に入れたほうが勝者と致します」
「メイドさんすごいね」
メアリちゃんが実況に戻ってきました。
「ん? なにこれ。お姉ちゃん読んでー」
実況……!
結局私なんですね。良いですけども……。
「両者前へ」
既に準備しているフェルミアの前に、茶髪の女の子が現れました。
やはりこういうシステムのようです。
「はっじめましてリヴィお嬢様! お目にかかれて嬉しく思います。あたしはリヴィお嬢様担当買い出し係、リーナ。よろしくお願いしまーす」
これはこれはとまたお辞儀します。
買い出し担当ということは、休憩時読める本が欲しいという要望で、私に放蕩日和を届けてくれたのが彼女のようです。
そのセンス、賞賛に値します。
「どこを見ている耳短。あなたの相手はお姉さまの妹であるこの私」
「へー」
リーナは動じるようすもありません。
どころか、
「フェルミアさんってお料理はまあまあできるみたいだけど、他ができてませんよねー。買い出しもちょっと威圧的な感じでしたけど、メイドの評判はお嬢様の評判に繋がるんですよ? その辺、ちゃんと意識してますか?」
「……」
フェルミアちゃんが動揺させられちゃってます。
もう涙目でこっちを見ています。
異文化交流ですからね、少しずつがんばっていきましょう。
「第二試合、探し物対決……始めっ!」
リーナの姿が消えました。
やはり最低限しか姿は見せてくれないようです。
「世界を回すもの、汝風の精霊よ、盟約によりて我が声に応えたまえ、その力を貸したまえ――」
フェルミアが詠唱を始めます。
ここで使う風の精霊魔法ならば、一つしかないでしょう。
「――我が願いを……叶えたまえッ!」
フェルミアは周囲を探ります。
はたして、それは現れました。
花壇に咲く一輪の花が、みょんみょんと激しく風に揺れています。
薬草探しにおいてフェルミアが使っていた探し物へ導いてくれる魔法、それが成功したのだと隠した本人である私にはわかりました。
「姉さまッ!」
手応えがあったのでしょう。花咲くような笑顔でフェルミアが振り向きます。
ついつい私も頷いて応えてしまいました。
「こんなにはっきりと精霊が応えてくれたのは始めてです! これもリヴィ姉さまのご指導あってのものです! あのそりでの練習のおかげですね!」
「良かったね……うん」
「はいっ!」
あぁ、守りたいその笑顔。
でも勝負とは、現実とは厳しいものなのです。
嬉々としたフェルミアはいつ気づくでしょうか。
背後でリーナがさっさと鍵を回収していることに。
「フェルミアががんばったからだよ!」
せめて今だけは幸せであってもらいたい、そう思えばこその言葉でした。
でもフェルミアのしょんぼり顔、このあとすぐ!
◇◆◇◆◇
さて、勝負は一敗一引き分けとなり、三試合目に突入です。
フェルミアちゃんは傍らで膝を抱えてしくしく泣いています。
その頭をよしよししつつ、進めます。
「リヴィお姉ちゃーん」
「なあにメアリちゃん」
「お腹すいちゃった」
飽きましたね、この子。
「これが終わったらみんなでお昼にしようね。用意してないから町でなにか食べよっか」
と言った瞬間バスケットが置かれました。
「用意ある。そしてこれ、間食用」
包みから出てきたのは木の実の入ったクッキーです。
喜んでメアリちゃんがそれをかじります。
「おいしい! お姉ちゃん良いなあ、こんなすごいメイドさんがいて。毎日こんなおいしいの食べられるなんてずるーい!」
「恐悦至極。この程度、いつでも」
「わたしも良いの?」
「お嬢の客人、歓待必至」
「わぁ、やったー!」
一人対戦相手に篭絡されてしまいました。
そもそもなんのために争奪戦しているかすっかり忘れて……いやそもそもメアリちゃんは理解していないんでしょうね。
確かに、クッキーはおいしいですけども。パリポリ。
「あの、リヴィさん……」
「ふあっ、りょうふゃふぁええっ!」
並んだ二つのたらいを挟んで、ソフィアさんの前に現れたのは少し気の強そうな金髪の女の子です。
「わたくし、リヴィお嬢様担当洗濯係でございますエミオラと申します。以後お見知りおきを」
となると先日メアリちゃんがノーパンツだった時、洗濯済みパンツを用意してくれたのがエミオラですね。
二日連続のノーパンツを防げたこと、感謝します。
「で、あなたがわたくしの対戦相手ですの? しかも洗濯勝負で」
「洗濯なんて私も毎日していることです。負ける要素はありませんね」
「ふっ、あの洗いも灌ぎもシワ伸ばしも甘い耳長よりはできそうですが……」
やめて! フェルミアがまた泣いちゃうからしれっとダメージを与えるのはやめて!
「とはいえ雄鶏さんに負ける要素こそありませんわね」
両者一歩も譲らずに睨み合います。
そしてメアリちゃんと私の手も止まりません。クッキーおいしいです。
「こちらを」
ちょうど欲しいと思ったタイミングでクロムが飲み物を出してくれました。
「ん! すっぱ甘ーい!」
「イエス。それがレモネード」
レモンの酸味とハチミツの甘さが絶妙なハーモニーを奏でています。
クッキーの中に塩っぽいのが混ざってましたが、レモネードを出す前提で入っていたようですね。さすがクロム。
「あの、お嬢様、放っておかないでくださいまし……」
「ふぁ、ふぁいふぁんひふぁい、はふぃへ!」
第三試合は洗濯対決。
さすがに乾かすまでは待てませんので、干すところまでで判定となります。
今回対決に使われる洗濯物は……そういえば確認してませんでしたけど、あれって……。
「クロム、二人が洗ってるのって……」
「パンツ。お嬢の」
「私がなにをしたっていうの?」
クッキーを食べていたメアリちゃんが、ぎょっとした顔で私を見ます。
ちょっと台詞を借りるぐらいは許していただきたいものです。
二人がせっせと私の下着を皆の前で洗い始めました。
これは何の刑なんでしょうか。
そんな直視しづらい状況の中でしたが、しかし目を見張るものがありました。
「なにあの手つき……」
エミオラの手が優しく私の下着を滑ります。
強すぎず弱すぎずな加減で、どこか上品さすら感じる洗練された手つき……で現れる私の下着。
「エミオラ、元々貴族の出」
「あぁ、だからあんなにエレガントさが……」
いや意味わかんないです。
納得しかけた自分にびっくりです。
私の下着を晒さないで。
「だけど、あれもやる。驚愕」
クロムのその言葉の意味はすぐにわかりました。
正直この勝負も落としたと思ったのですが、私はまだまだ甘かったようです。
ソフィアさんは、やる時はやる頼りがいのある人ですから。
「ちょっ、あなた、何ですの!? その尋常ならざる震えはッ!!」
「確かにあなたの洗い方は洗練された見事なものです。それに対して私の洗濯は田舎臭くて野暮ったいものでしょう」
「そういう話のレベルですの!? なんで、なんでそんなに泡立っていますの!」
そう、ソフィアさんは超高速の震えを使ってエミオラの数倍、いや数十倍の泡を発生させていました。
しかもその泡は加速度的に増え、たらいから溢れてもなお勢いが留まりません。
「しかしこの辺境で受け継がれ研鑽を積んできたこの技、上品さだけに負けることはありません」
増殖する泡がやがてソフィアさんを包み、そしてエミオラをも飲み込んでいきます。
「これぞハイテンション家奥義、超音波洗浄!」
「そ、そんな馬鹿なですのぉ――ッ!!」
爆発的に増える泡が、完全にエミオラを飲み込みます。
やがてその中からソフィアさんだけが出てきました。
淡々と濯いで絞ってシワを伸ばして……そしてソフィアさんは二つの下着を干します。
いつの間にやらエミオラの分まで手にしていたようです。
「勝者、ソフィアさん!」
勝敗は一目瞭然。
ソフィアさんの洗った下着はまるで新品――もう一方が汚れているとかそういうことではないですよ?――のようです。
「洗濯に上品さなんて、必要ないんですよ」
決め台詞まで完璧です。
「驚愕。しかし認める。我々の負け」
泡の中から伸びたエミオラを引っ張り出してクロムが言い、
「いえ紙一重の勝負でしたよ」
と、敗者を讃えるような台詞をソフィアさんは返します。
……なんか良い話しっぽい雰囲気なんですが、兎にも角にも一刻も早く、私の下着引っ込めてもらっていいでしょうか?




