魔法使いはまったりゆったり夜を過ごす
「食べたかったのになあ」
納得はしてくれましたが、メアリちゃんは理想と現実の狭間で揺れています。
こうして幼子は、少しずつ大人の階段を上って行くのですね。
「よのなかはお金なんだなあ……」
もうちょっとゆっくり上っていただきたいものですね。
「きっと隣町に行けば食べられるよ。そのうち一緒に行ってみよっか」
「ほんと? やったあっ!」
なんとかメアリちゃんの幼心を繋ぎ止めました。
ただ、隣町にあるかも本当は怪しかったりします。
なにせこの町の人が誰も知らなかったんですから。
でもレシピぐらいはあるでしょう。それさえあればこの町でも作れるはずです。
「楽しみだなあ」
期待に胸を膨らませるメアリちゃんに、必ずやいつか食べさせてあげましょう。
最悪の場合、高価だと教えてもらったパルフェタイトの塊で食事処に殴りこんでやる所存です。
世の中、お金ですからね。ふふふ。
パフェ問題がひとまず収束し、今晩もお泊りのメアリちゃんと穏やかな午後を送ります。
一緒にそり遊び(メアリちゃんとフェルミアが)をし、私はテラスの前に杭を打ち込みハンモックを吊るしてゆったりと読書。
ハンモックは結局メアリちゃんにブランコとして取られてしまいましたけど、穏やかで賑やかな楽しい時間を過ごせました。
そして一緒に夕食……なんですが、そこには少し問題がありました。
「リヴィお姉ちゃん、今日もスープ薄いかな」
「うーん」と曖昧にごまかすのは、森の民の聴力を知っているからです。
フェルミアは努力してくれているんですが、確かに全体的に料理の味が薄い傾向にありました。
許容範囲内ということで私は何も言わなかったんですが、メアリちゃんはおかまいなしです。
フェルミアも昨日メアリちゃんに指摘されてから、だいぶ気にしているようでした。
そして審判の時がやって来ます。
フェルミアがいささか緊張した面持ちでメアリちゃんの前に皿を置き、なぜかメアリちゃんは腕組みをして「うむ」と大仰に頷きます。
そしてスプーンを手にして軽くかき混ぜ、スープを一すくいして香りを嗅ぎまた頷いて、
「これはねんだいものですな」
言っている意味がわかりません。
スープの年代物はたぶん腐ってます。食べちゃダメ。
「めったに手に入らないしろものだぞ。どうだいいっぱい。いやあ妻にしかられるんで……じゃあいっぱいだけ」
飲むんかい。
じゃなくて、なんか小芝居が始まりました。
おじさま、メアリちゃんに見られてますよ。こっそりお酒飲んでるの。
というか、見られすぎじゃないでしょうか。
「メアリちゃん、冷める前にいただこうね」
「はあい」
でないとフェルミアが可哀想です。相変わらず審査待ちしていますし。
「んっ!」
ズズッとスープを啜ったメアリちゃんが声を上げます。ドキドキ。
「おいしく……あるっ!」
ひっかけでした。
小憎いですね。
「良かったぁ……」
本当に緊張していたらしく、フェルミアがあまり見せない脱力した顔をしました。
喜ばしく思いながら私もいただきます。
「……あれ、おいしい」
うっかりです。
当然ながらフェルミアが「え、今までおいしくなかったの? あぁ、私もうダメだ」という顔で私を見つめます。
「は、幅を広げたね! いつものも好きだけど、こういう味付けも好きだよ。さっすがフェルミア、頼りになる! 料理上手!」
失言を帳消しにできるよう挽回を図りましたが、どうやらうまくいったようです。
「ふふ、喜んでいただけたなら良かったです。……?」
スープを啜ってフェルミアは一瞬妙な顔をしましたが、「おかわり!」といつの間にか完食していたメアリちゃんのリクエストに応えるため台所へぱたぱたと。
「薄くなかったね!」
私は「濃い目もおいしいね」と返しておきました。きっと今頃台所で耳をひくひくさせているでしょうからね。
◇◆◇◆◇
食事を済まて一息ついた私は、お風呂の準備を済ませてゲストのメアリちゃんを脱衣所にエスコートします。
そんな中昨日同様ではあるのですが、
――――――――――――――――――――
なんと フェルミアが 台所から顔を覗かせ
一緒に 入りたそうに こちらを見ている!
一緒に 入れてあげますか?
→はい
いいえ
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ピロリンッ。
「いいえ」を選択しておきます。
「……いいなぁ」
三百ちゃいフェルミアちゃんの小さなぼやきが聞こえました。
落ち着いた性格のようで、ところどころ子供みたいなんだから困ったちゃんです。
お風呂のリフォームを考えてもいいんですけど、場所がないんです。
広いお風呂も良いとは思うんですけどねえ。
「どうぞっ!」
脱衣所に来るなり元気に両手を挙げたメアリちゃんの服を脱がせます。
こっちも甘えん坊の困ったちゃんです。
こちらは素直に微笑ましいですけど。
「今日はちゃんと下着の替え持ってきた?」
「昨日のは?」
「昨日の? ……って、昨日履いてた下着、もしかして置いてったの?」
「はい」
ということは昨晩お風呂に入った後、メアリちゃんはノーパンツだったわけですか。気づきませんでしたね……。
と思っていたところで、メアリちゃんのスカートがすとんと落ちて、それが現在進行形だったことを知りました。
この子、丸一日ノーパンツだったようです。
「ちょっとフェルミアに聞いてくるね……。ん?」
下着履くべしの教えを説いた後、私は棚に置かれた着替えを見つけました。
私の着替え、その横にはメアリちゃんの下着。
今日は洗濯していなかったと思ったのですが、ちゃんと洗っててくれたようです。
さすがフェルミア、頼りになる。
おかげで裸のメアリちゃんを待たせることなくお風呂に入れられました。
そして入浴後、既にメアリちゃんは忘れているっぽいですが、お楽しみが待っていたのです。
「ごめんね、フェルミア」
「いえ、お気になさらないでください。後でいただけるだけで十分です」
「忘れてた!」
メアリちゃんは案の定忘れていたようで、ハッとした表情で私の顔を見上げます。
「わたしがなにをしたっていうの」
そっちじゃないの。
閉じ込められたことは、そのまま忘れてもらえると助かります。
「さあ、メアリちゃん。一緒に作ったイチゴミルクを飲もう!」
「おぉぅッ!」
勢いでごまかす私です。
冷蔵箱の扉を開けると冷たい空気が漏れ出し、その向こうにそれが姿を現します。
そう、キンキンに冷えたイチゴミルク様です。
「ぐびっと一気に飲むのが決まりだよ」
と老子から教えられたんですけど、よく考えたらなんでなんでしょう。
おいしいからいいですけど。
「きみのひとみにかんぱいっ」
「え、あ、どうも」
グラスを鳴らして一気に傾けます。
火照った身体にその冷たさが心地良く、弛緩した身体と心に、優しい甘みがじわりと染み渡りました。
「「ぷあぁ――ッ!」」
この一杯のために生きてます!
お読みいただきありがとうございます。
ストックが切れて更新時間がまちまちになって申し訳ないのですが、引き続きお読みいただけますと嬉しいです。
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