魔法使いはパフェを求められる
『お腹が満腹なら吐けば良いじゃない』
放蕩日和の主人公でいらっしゃるお貴族様の台詞です。
ご馳走を前にしてわざわざ吐いてまで食べよう、楽しもうとするその心意気たるや。
良い子は絶対真似しちゃダメですね。
「つまんなーい」
お貴族様がお金と権力に物を言わせ、放蕩の限りを尽くすという物語は、メアリちゃんにはお楽しみいただけないようです。
まあ私も同じくですけど。
この本の真骨頂は所々で出てくる様々な遊びです。
馬車のキャビンを投石機に繋げた大回転ブランコとか、破城槌で交互に塔を破壊していく塔崩しだとか、彼女――著者は女性です――は遊びに全力でした。
そして休むときはこれまた全力で休みます。
ハンモックという憩いの道具を知ったのも、この本からでした。
すっかり飽きたご様子のメアリちゃんに膝の上から邪魔されつつ、私は放蕩日和をめくります。
するとデザート早食い勝負の頁で、メアリちゃんがある単語を拾いました。
「パフェってなあに?」
「パフェか、屋敷でよく食べてたっけ。あのね、甘いクリームとジャムみたいな……ゼリー? が入ってて、果物とかアイスクリームが乗ってて……とにかく甘いの……」
屋敷にこもっていた頃、「糖分が欲しい」と注文してから出てくるようになったパフェ。
何度も食べたのに、よくよく考えると何でできているか覚えていませんでした。
とにかく甘くて華やかな見た目のデザートなんだよ、と自分の表現力の無さに軽く驚きながらも、精一杯メアリちゃんに伝えます。
「食べたいっ!!」
そんなことしたら、こうなりますよ。
「いやあ……町で見たことないし、そもそもあんまり甘味自体見ないし……。メアリちゃんが知らないってことは、ないんじゃないかなあ」
「お姉ちゃんだけ食べて……」
そう言われましても、この町での甘味なんて果物か先日のパンケーキかぐらいです。
しかも私にはパフェのつくりかたがわかりません。
いちおうフェルミアにも尋ねてみますが、
「知りませんね……」
森で暮らし自然のものを食す森の民が、あんな欲望の塊みたいなものを知るわけもありません。
「たーべーたーいーっ!!」
やってしまいました。
火がついたメアリちゃんは、子供特有の無尽蔵なエネルギーで駄々をこねます。
「メアリ、無いものはないの。お姉さまを困らせてはダメ」
「いーやーっ!」
もはやメアリちゃんは聞く耳を持ってはくれません。
何を言おうと焼け石に水。
すぐに万策尽きた私は、結局メアリちゃんと一緒に町でパフェ探しをしてみることとなりました。
「あ、リヴィ姉さま、先ほど町の者が鶏肉を持ってきました。さっそく冷蔵箱を使わせていただいてよろしいですか」
「好きに使って。でもなんか毎日貰っちゃって申し訳ないね」
「それだけ尊敬されていらっしゃるということかと」
本当に毎日のように頂き物をしています。
不在の時など玄関前に野菜が積み重なっていることもあるぐらいです。
感謝しかありませんけどお返しもせずでは心苦しく、それも今後考えていかなければなりませんね。
「お姉ちゃん早くっ!」
フェルミアに家を任せて、私は駆けてくメアリちゃんを追いかけ町へと向かうのでした。
◇◆◇◆◇
案の定、パフェはこの町に存在していませんでした。
どころかパフェを知る者がいないのです。
その結果、パフェというものが何なのかを説明する度に「はいはい都会自慢ね」みたいな顔を向けられて、私はひたすらにダメージを受け続けていました。
「メアリちゃんもうやめようか……」
「食べたい! たべたいたべたいたべたいー!」
「もうやめてぇ……とっくに私のライフはゼロだよぉ」
せめて何か代替品を用意して納得させないと、もう手に負えません。
フェルミアに何か作ってもらって、お茶を濁すしかないですかね。
「……ぅ……ぃ……」
落ち葉が擦れるような乾いた音がしたと思えば、相変わらずやつれたままのソフィアさんが歩いてきました。
今にも風に飛んで生きそうなふらふらとした足取りで、何かを呟いています。
「聞いてソフィアお姉ちゃあん!」
メアリちゃんはソフィアさんに訴えます。
風に揺れているのか頷いているのかわからない動きをしたソフィアさんは、彼女の頭に手を置いて何かを呟き、
「……わかった……」
なんとあっさりとメアリちゃんを納得させました。
これほどまでにさすが町長の孫と思ったことはありません。
「ぇ……ぃ……ぇ……」
「あ、うん、ありがとう……」
何を言ったのかわかりませんでしたが、会釈して去っていくソフィアさんにお礼を伝え、こっそりとメアリちゃんに何を言われたのかを聞いてみました。
「そんなの食べたら、太って舟を壊しちゃう……って」
やはりまだ気にしていらっしゃるんですね、ソフィアさん。
違うって言ったのに。
でも幼いメアリちゃんも今のソフィアさんにそれを言われたら納得……というか不憫さと圧で言うこと聞かざるを得ませんでしたか。
「でもリヴィお姉ちゃんは? いっぱい食べてたんでしょ?」
「あぁ、私って食べても太らない体質なんだよね。……っ!」
嫌な気配を感じ顔を上げると――枯れ木が血の涙を流してこちらを見つめていました。




