魔法使いは作り出す
すぐにでも読書に耽りたいところでしたが、その前にやっていたことがありました。
滾る読書欲をぐっと堪えて、私は作業を優先することにします。
「姉さま、朝からされていましたが草むしりですか?」
家の裏でごそごそと作業していた私にフェルミアが尋ね、私の足元を見た彼女はぎょっとしました。
「煉瓦って……生えてくるのですね。花は咲くんですか?」
森の民が新たな知識を得ました。間違ってますけど。
彼女の視線の先には、丸く露出した地面からにょきにょき生えている煉瓦がありました。
フェルミアは興味深げにそれを見つめ、ほうほうと何やら関心してしまってます。
「違う違う、創造魔法で作ってるんだよ。ほら、前に土人形を出してたことあったでしょ。あの簡易版を使ったの」
「あぁ、魔法ですか! さすが姉さまは何でもできますね……」
なんて言っている間も煉瓦が生えてきます。
膝を抱えたとんがり耳のメイドさんが、そんな生える煉瓦を見つめている……ふむ、絵になりますね。
「そだ、もし今日の買出しに行くなら牛乳と果物を買ってきてもらえる?」
「果物なら森で採ってくることもできますけど」
「んー、とりあえずお試しだから買える物でいいよ。ありがと」
煉瓦が芽吹くのも終わり、フェルミアは買い物へ。
そして私は屋根裏部屋へと上がります。
屋根裏は倉庫代わりになっているのですが、そこには今も前の持ち主の持ち物が残っています。
まあガラクタばかりなんですけど。
「おっ、こんなものもあった」
拾い上げたのはカチューシャでした。
白いフリルがついて……なぜか獣耳をかたどった飾りもついています。
前の持ち主の方、いったいどういう趣味をされていたのでしょう。ご尊顔を拝見してみたいものです。
……いややっぱいいや。
カチューシャを脇に置き、私は部屋の隅にあるチェストの残骸を引っ張りだします。
一昨日この部屋を探索しておいて正解でした。
がらくたでもこのチェストの扉と仕切り板は役に立ちそうです。
材料が揃えば後は簡単。
土間で煉瓦を積んで穴をいくつか空けた仕切り板を設置、そしてチェストの扉を取り付けます。
「後はトレイを棚に乗せてっと、第一氷雪魔法! これで良しっ」
一人うんうんと作品を前に頷いていると、
「ただいま戻りました」
「リヴィお姉ちゃーん、来たよー」
「おかえり、フェルミア。いらっしゃい、メアリちゃん」
「今日はどんなれんしゅーする……の? 何それっ!」
ふっふっふっ、良いリアクションです。
ソフィアさんがソフィア・ローテンションになってしまいましたからね、代わりにメアリちゃんに驚いてもらいましょう。
「これはね、冷蔵箱だよ」
「わぁ、すっごいっ!」
興味津々のメアリちゃんが冷蔵箱を覗き、そのまま入っていきます。
ちょうどすっぽり収まる大きさでした。
なんか収まりが良かったので、つい扉を閉めてしまいました。
でも反応がありません。
少し待ってから、開けてみます。
「わたしがなにをしたっていうの」
オコでした。
のそのそ出てきたメアリちゃんは、予想以上にクールダウンしておりました。
さすが冷蔵箱ですね。
……はい、ごめんなさい。
「冷蔵箱、これは……雪蔵のようなものでしょうか」
「森の民でも使うんだね。こっちだと氷室って言うけど、同じだろうね」
そのまま氷の冷気を使って食べ物を冷やしておける道具、それが冷蔵箱です。
屋敷にはもっと大きなものがありましたけど、ここではメアリちゃんが収まるぐらいでちょうど良いでしょう。
「あ、果物はこれで良いでしょうか?」
「ん……ん! イチゴ! ばっちり!」
買ってきてもらったのは牛乳とイチゴ。何を作るかなんてもう一目瞭然ですね。
「さあ、メアリちゃん手伝ってもらえる? 今日の練習はこれだよ!」
「わたしがなにをしたっていうの」
まだオコでした。
メアリちゃんが光の消えた瞳のままです。
ちょっと冷蔵箱、冷やしすぎるかもしれませんねえ。
◇◆◇◆◇
「ぺったん、ぺったん」
機嫌を直してくれたメアリちゃんが楽しげにイチゴを潰します。
そこへ砂糖を少々。盗み食いしようとした小さな手をペチリと――またオコになりそうなので優しく――叩き、グラスの中の牛乳に投入。
よく混ぜたら出来上がりです。
「いただきまーすっ」
「こらこら、冷蔵箱のお仕事を取らないで」
せっかく作ったのに、メアリちゃんがクールダウンしただけですよ。
どうせなら笑顔にさせてあげたいですよね。
真顔にさせたの、私ですけどね。
不満げなメアリちゃんを宥めつつ、グラスを冷蔵箱へ。
ふふふ、キンキンに冷えてやがるイチゴミルクを飲ませてやるぜっ。
「これなら買い置きしておけますね」
食材をチェックしていたフェルミアが野菜を手にして言います。
「うん、野菜もだけど特にお肉とか魚もね。これで毎日買い物に行かなくても済むよ」
「メイドの務めですので手間は惜しみません。けど、助かります。さすが姉さま、ご配慮痛み入ります」
「なんのなんの」と返す私は、お風呂上りにフルーツミルクが飲みたかっただけだとは言いません。
みんなハッピーならそれで良いじゃない。良いですよね? 良ーんですよ。
「もういいかなあ」
待ちきれぬメアリちゃんが冷蔵箱を開けます。
冷気が逃げるから開けちゃダメと嗜めて、時間つぶしに私はメアリちゃんと一緒に読書することに致しました。
さあ仕事は終わりです。
後はゆったり読書といきましょうかね。




