魔法使いは風通る
魔導機関車の許へ来たものの、即後悔することになりました。
「貴様が賊かッ!!」
「どうかしましたか」と声をかけただけなんですけど、それだけで私が取り囲まれてしまいました。
挨拶しただけで賊扱いされる世の中、私は間違っていると思います。
「ただの通りすがりの魔法使いなのですが」
剣先のような猜疑心が私に刺さります。
ほんとに剣で刺されないだけましですが、気分はあまりよろしくはありません。
「お邪魔だったみたいなのでそれでは失礼……」
させてはもらえませんでした。
包囲網が狭まっただけです。
来るんじゃなかった。
「つくならもう少しましな嘘をつくんだな、魔法使い様」
挑発なのか一人の兵士さんが薄ら笑いを浮かべます。
ですがそれ以外の方は何かに怯えているように、周囲を気にしていました。
それでなーんとなく、状況が読めてきましたよ。
にしても、魔法使いって。
古い書物にしか出てこないような魔法使いの呼び方です。古風なことですねえ。
「お手伝いしてもいいですが、助っ人を歓迎してくれる雰囲気には見えませんね」
「助け? ふざけるな、よくもぬけぬけとッ!」
今にも斬りかかってきそうな雰囲気に、仕方なしと私は風魔法を唱えました。
「風つか――ッ!?」
草舟の底で兵士さんの顔を踏みつけ、難なく包囲網から脱出。
そのまま速度を上げて車両の周りを旋回しますが、やはり脅威となりそうな姿はなし。
ぐーるぐると大きく旋回していると、キャビンから一人の初老男性が下りて来ました。
白髪に深く刻まれた皺、その特長は間違いなく初老男性のものですが、それ以外の部分、身体つきや大きさに関しては他の兵士さん以上に見えます。
老いを知らぬ屈強な戦士そのもの、といった感じです。
少なくともお孫さんに飴をあげるような、優しいおじいちゃんっぽさは皆無です。
そうあって欲しかったものですね。私に飴と優しさをください。
「マッチョなおじいさーん!」
その風格とキャビンから降りてきたことから、私は彼が護衛を率いている人物だと判断しました。
だから私はその男性にハンドサインを送ります。
上、パーンッ、目、隠す、以上。
ご理解いただけましたでしょうか。でも確認している暇はないのです。
「第二閃光魔法ッ!」
すかさず光球を頭上に放ち、一帯を照らします。
「ぎやあぁぁぁッ! 目があぁぁぁッ!!」
兵士さん×全員が絶叫してますが、そういえばおじいさんにしか伝えませんでしたね、私。
それはともかく――別に剣を向けて囲まれた仕返しではありません――私の読みが正しければこれで良いはずなのです。
兵士さんは私に「貴様が賊か」と仰いました。
つまり彼らは相手を特定できていないのです。
ならば遠距離攻撃を受けたか、それとも相手が”見えない存在”か。
「――ッ! おじいさん、馬車の左側面!」
そこに真犯人の姿がありました。
ぼんやりとした虹色の人影が、キャビンに近づき何かをしようとしています。
次の瞬間、そこに大量の土煙が噴きあがりました。
マッチョなおじいさんが目にも留まらぬ速度で剣を叩き込んだのです。
私はまた後悔しました。
マッチョなおじいさんとか言ったこと、怒ってたらどうしようと。
怒られないようにせめて少しでも貢献しておこう、と旋回しつつ周囲を警戒しましたが他にそれらしき光の反射は確認できません。
どうやらお一方だけだったようです。
「助けられたな」
落ち着いたところで声をかけると、おじいさんは渋いお声で返してくれました。
「しかしせっかくの助力を無駄にしてしまった。すまない」
おじいさんはキャビンから離れられないようでしたら、取り逃がしてしまったようですが仕方ないことでしょう。
それに私も「ギャー(血がぶしゃーっ)」なんて見たくはないですし。
「だがなぜわかったんだ。通りすがり、と聞いたが」
おじいさんの鋭い目が静かに私を見据えます。
礼儀正しくしていただけても、信用まではしてもらえていないようです。
この状況では当然だとは思いますが。
「みなさん剣で武装して、まるで目の前に敵がいるかのように警戒していらっしゃいました。だからすぐ近くに何かがいて、それが見えないのだと仮定しました。そう考えるとわざわざその機関車を降りているのにも説明がつきますしね」
ちょっとやそっとであれば突っ切ってしまえばいいのです。
魔導機関車にはそれだけの馬力があります。
それをしなかったのは、おそらく見えない何者かが車両の外に張り付き攻撃してきたから、といったところでしょう。
私の説明を聞いたおじいさんの視線が和らぎました。
味方とは言えずとも敵ではないと思ってくれたようです。
「お嬢ちゃん、あんた若いのに凄いんだなあ。てっきり半端者かと思ったが、本当に魔法使いなのかい」
顔にくっきりと何かの痕がついてる兵士さんが、気軽な感じで明後日の方向に話しかけます。
私は手で帽子と外套を指してそれに応えました。
せっかくこれぞ魔法使い、という格好をしてますから、活用しませんと。
見えてないかもしれませんが、別に剣を向けられたことを怒ってるわけじゃないですよ?
「嬢ちゃんは今のが何だったのかもわかってんのかい?」
「何者かはわかりませんけど、魔導具を使って姿を消していたんでしょうね」
私の言葉におじいさんが頷きます。
「確かに一瞬だが身体が見えた。あれは、ローブか?」
「透写の効果が付与されたローブを着込んでいたんだと思います。もし相手が魔法使いなら、閃光魔法を放たれても屈折率を調整して隠れることもできますけど、魔導具であれば本人の意思で即座に調整することができません。強烈な光のせいで透写が不完全になり、だから虹色に見えたというわけです」
「はあ、嬢ちゃんは本当にすげえ魔法使い様だったんだなあ。俺、難し過ぎて何言ってるかわかんねえよ。あと俺、何にも見えねえよ」
でしょうね。
別に剣を向け(以下略
「何か礼をせねばならないか」
渋いおじいさんがそう言って車両の中を伺います。
私はあわてて「いえいえ」とそれを遮りつつ草舟に足をかけました。
あまり貸し借りだとか作りたくはないんです。
それで私がどれだけややこしい目にあい続けているか……。
「どうぞ道中お気をつけて! それでは!」
それだけ言い残してさっさと私は出航します。
振り返ると、車の窓からこちらを覗く女の子の姿が見えました。
私と同じぐらいで宝飾品を身につけた綺麗な女の子です。
ただなぜでしょう。
その瞳を見た瞬間、気圧されるような不思議な感覚がありました。
お姫様は眼力も凄いんだなあと驚嘆しつつ、会釈だけ返して私は進みます。
さあ、みんなのところに帰りましょう!




