魔法使いはすごいぞ!
ザッ、ザッ、と足音を鳴らし、私たちは町を進みます。
なぜ一列になっているのかは知りません。
できれば恥ずかしいのでやめて欲しいのですが、何とも言い出しにくい空気がそこにはありました。
そして結局、そのまま町を抜けて反対側の伐採場に到着。
「ご苦労さまです!」
「さまですっ!」
「ご、ご苦労……」
「ご苦労さまあああぁぁぁッ!!」
朝からお仕事に精を出している逞しい木こりのみなさんに順番にご挨拶(一人はただの絶叫)、そして少々木材をいただけないかと交渉。
木こりさんは積まれていたおそらく薪用の材木を指差して、
「今日は皆調子が良くて十分切り出してますから、遠慮なく持っていってくださいよ」
筋骨隆々たる腕で斧を担いだまま、爽やかに白い歯を見せてくださいました。
「ご要望があればこっちで用意しても構いませんよ」
捲くられたシャツから覗く筋肉がひくひくと主張しています。
気づけば周囲の他の方々も、思い思いのポーズで筋肉アピールしていました。
なんとも心強いですね。
しかし皆さんが額に汗してお仕事する中、突然来て成果物だけ頂くのは気が引けます。
なにせこの町での利用もありますが、他の町へも出荷している商品なのですから。
木こりさんの筋肉も材木も町の財産というわけです。
ですのでお気持ちだけいただきつつ、調達は自分たちでするからと断らさせて頂きました。
そして私は、ちょうど良さそうな大木に目星をつけて、
スパンッ!
と風魔法で木を切断します。
さらに、
スパパンッ!
と傾いた木の枝を削ぎ、ついでに適当な大きさに分割しました。
カットされた木が地面に倒れ、必要分をどう取ろうかなと考えていると、皆さんが手を止めてこちらを見ているのに気づきます。
お仕事の邪魔しちゃダメですね。
形を整えるのはお家に戻ってからにしましょう。
軽く会釈だけして、私はさらに木を分割。
スパパパンッ!
余りは出荷できるよう、皆さんがしているのと同じ形にしておきましょう。
スパパパパンッ!
積まれていた薪用の材木と同じ量の本数ができあがりました。
お邪魔しただけでは申し訳ありませんし、これこそWINWINの関係ってやつです。
良い仕事をしました。
休憩時間なのか、みなさん斧を足元に転がしてこちらをぼうっと見ていらっしゃいますが、我々は早々にお暇するといたしましょう。
「ありがとうございました!」
「……いえ、どうも、……すみませんでした」
寒いんでしょうか。
笑顔を曇らせた木こりさんが、捲くっていたシャツを直して二の腕を隠されてしまわれます。
見てみれば他の方々も同様です。
涙目で震えているようにも見えますが、風邪でしょうか?
今度、水薬でも差し入れすべきかもしれませんね。
「では失礼しました!」
「ましたっ!」
「……ふっ」
「……ははは」
私たちはまた一列になって町へと戻ります。
ソフィアさんだけは何やら木こりさんと話してから列に戻ってきます。
なぜか苦笑いでした。
よくわかりませんが、私たちは材料を手に入れたのでお家に戻ります。
◇◆◇◆◇
そしてお家の裏手側。
「わあぁぁぁッ!!」
草丘をメアリちゃんの笑顔が駆け抜けます。
「お姉ちゃーん!」
メアリちゃんは朝の一件なんて無かったかのように、にこにこしながら元気に丘を駆け上がり、
「楽しいっ!」
そんなシンプルで明確な感想を私に聞かせてくれました。
「良かったねぇ」と私が返すと、メアリちゃんはそのまままた頂上へ。
そしてその代わりに恐々とした表情のフェルミアが滑り下り、次いでソフィアさんが吹き飛んで斜面を転がっていきます。
蒼く晴れた空の下、どこまでも広がる緑の大海原。
そこで今私たちがしているのは――そり遊びです。
いただいた木材をさらに切って削って作ったそりは、簡素なものではありますが草の上を滑るには十分。
風を切って駆け下りる興奮、えも言われぬ爽快感っ!
いつかやってみようと考えていた遊びの一つです。
ちょっと怖くはありますが、こけて咽るような青草の匂いに包まれるのもまた良し。
みんなできゃっきゃわいわい言いながら楽しめるだけで、最高ではありませんか?
しかもみんな可愛い子ですよ? ふふふ。
「ちょっと、慣れてきました……」
そりを持ってフェルミアが上っていきます。
恐いくせにやめないんだから、気に入ってくれているのでしょう。
「いやあ、けっこう難しいですね! あとちょっとでコツが掴めそうなんですが」
さっきから吹き飛んでばかりのソフィアさんも丘を登っていきます。
何のコツが掴めそうなんでしょうか。
ほぼ途中で吹き飛んで空を飛んでばかりなので、そろそろ空へと飛び立つんでしょうか。
丘の上で和気あいあいと笑いあい、少女達はまた順番に丘を滑り下りていきます。
それを眺めている私は今――ぶっ倒れています。
別にいいんですよ、楽しんでもらえるなら何よりです。
放っておかれているからって、何だって言うんですか?
だって悪いのは私ですよ? 私が体力がないのがいけないんです。
でも、ちょっと愚痴らせていただけますか? いただけますよね?
あのですね、そり遊びって驚いたことに、一回滑り下りたら自力で丘を上らなきゃいけないんですよ?
信じられなくないですか?
引きこもりにそんなことさせますかね、普通。
こんなの聞いてない! と考えた人に文句の一つでも言ってあげたいところです。
その考案者、二往復して力尽き、今草の上に転がってますけどね……。
なんで三人は平気なんでしょう。なんで私の足腰はいつまでも悲鳴を上げているのでしょう。
「ふふ……ふっふっふっ」
誰も見ていないのに不敵な笑みを浮かべ、私はよろよろと立ち上がります。
愚痴っぽくなってしまいましたが、私の夢が……憧れが、この程度なわけはありません。
まだプランBがありまあす、です。
私は魔法使い。足腰が生まれたての小鹿でも、私には魔法というものがあるのです。
魔法使いを甘く見たこと、後悔させてやる……!
「覚えてやがれっ」
丘に捨て台詞を吐いて、私はお家へ戻ります。
そり遊びに夢中の三人は、誰一人としてそんな私に気づいてくれませんでした。
ぐすん。
スパパパンッ!




