魔法使いは完璧に丸く収める
ずっと屋敷に引きこもってたわけですよ。
そんな私に、物事を丸く収める技術なんてあるわけないじゃないですか。
私は一体いつから、コミュ力があると錯覚してたんでしょう?
三人での話し合いの場の空気はひどく重く、潰れてしまいそうです。
それでも私ははっきりと、弟子を取るつもりはないと二人に伝えました。
するとメアリちゃんの頬がぷくっと膨れます。
「お姉ちゃん教えてくれるって言ったのに……」
メアリちゃんは意外と冷静に私の話を聞いてくれました。
ほっと一安心したところで、
……あっ。
ようやく心当たりに行き着きました。
魔法に憧れを抱いたメアリちゃんに対し、薬草を持って帰る途中確かに私は「教えてあげる」と言いました。
それを拡大解釈して「弟子」と思い込んだわけです。
わかってしまえば、幼子らしい可愛い思い込みというやつです。
ただ、私が曖昧なままにしたツケでしょうか。
問題の本質は今やずれてしまっていました。
「ねぇ、言ったもんね? ねっ」
と同意を求めるメアリちゃん。
その同意を求められているのは、
「うぐっ、うっ……うん、言ったもん……」
涙を零しながら頷くフェルミアです。
「大丈夫だから泣かないで」とメアリちゃんに慰められています。
それでいいのか、推定三百歳ちゃん。
「フェルミアはどうして弟子だなんて思ったの?」
「だって、言ったもん……ぐすっ」
「がんばって、フェルお姉ちゃん。ちゃんと言ったらきっとわかってもらえるよ?」
「うっ、うん……がんばる……」
幼女に背中を押された推定三百歳。
涙でくしゃくしゃになった顔を上げます。
「尊敬できる人と一緒に暮らすって……」
「……ん?」
どこかで聞いた覚えがありました。
はて、どこだったでしょうか。
「……っ! うっ……ふぇ、ひ、ひぐっ」
「お姉ちゃん、泣かないでっ!」
なんですかこれ。
これではもう幼女さんと三百ちゃいの女の子ですよ。
なんですかそれ。
「ひ、日々の、生活の中で……培っていくって……」
嗚咽混じりにそう言われ、
……あっ。
ようやく心当たりに行き着きました。
精霊魔法をうまく使えないフェルミアに対し、確かに私はそう言いました。
それを拡大解釈して「弟子」と思い込んだわけです。
わかってしまえば、三百ちゃいの女の子らしい可愛い思い込みというやつです。
というやつですか?
初耳なんですが。
「そういうことね……」
魔法の基礎能力を磨くためにとアドバイスしたのですが、あの時言った「尊敬できる使い手」として、フェルミアは私を選んでくれたわけです。
それは光栄に思いますが、それで一番弟子と勘違いするのはおかしい。
となると思い出すのはあのフェルミアのお姉さんです。
あの人が面白半分で、三百ちゃいのフェルミアちゃんに何かを吹き込んだのでしょう。
「はぁ……」
慕ってくれるのは嬉しいんですよ。本当に。
だけど私にはやるべきことがあり、今は弟子を取るわけにはいかないのです。
だってそうですよね?
私はこれから……ゆったりまったり遊んで暮らすんだもん!
お家も頂いて「さぁこれから何をしよう」といううっきうきな状態なのです。
今まで遊べなかった分遊び、ちょいとばかしボーナスとして自堕落に生活したいのです。
弟子なんかじゃなく一緒に遊んでくれるなら大歓げ……
……あっ。
頭の中を雷撃が走ります。
来ましたよ、やっとお越しになりましたよ。お待ちしておりましたよ名案さん……!
「老子は、言っていた――」
私はおもむろに人差し指を立てて、尤もらしい喋り方で話します。
「――魔法というのは、心の底から楽しいと思える遊びでなくてはならない……」
ちなみに捏造ではなく本当に言っておりました。
言い方はもっと意地悪な感じで「ヒヒヒッ」と笑いながらでしたけど。
ぴんと来ていない様子の二人に、私はさらに続けます。
「魔法に必要なもの、それはイメージ。しかし何も知らずに強く明確にイメージすることは至難の業。だからこそ自然と戯れることが必要なの。炎の熱さを知り、風のやわらかさを知り、水の清らかさを知り、大地の豊かさを知る。見聞きして、触って、嗅いで、味わって、それでようやく本当の意味で知ったことになる。そのために最も効率的な方法、それが何かわかる?」
「遊び、ということですか」
「そのとお……いたんだ、ソフィアさん」
メアリちゃんのご両親を連れ、誤解を解くため町に行ってくれていたはずなのですが、いつの間にか座っていらっしゃいました。
「はいっ、説明して納得してもらいましたのでご安心ください。それより失礼しました。どうぞ続きを」
コホンッ。
咳払いをしつつ私は胸のうちでガッツポーズです。
これは都合が良い。ソフィアさんまでご同席いただけるだなんて。
やっぱり私はツイています。老子の呪いなんてありはしなかったのです。
「そう、遊ぶこと。夢中という言葉がある通り、楽しく遊ぶことは高い集中力を発揮します。自然を知るにはその身を持ってそれを体験するのが一番。それも遊びであるなら、より集中して感覚を研ぎ澄ませることができる、ということ」
私は弟子をとるつもりはありません。
でも練習に付き合ってあげることぐらいはできます。
そう、前置きをしつつ、
「さあ、魔法を知りたいというなら着いてきなさい。ただし、本気で遊ぶ覚悟のある者だけ……ッ!」
外套ばっさあ。
――決まりました。
そして完璧に丸く収めました。
以前ソフィアさんにこの町に来た目的を研究開発云々と言ってしまい、遊び呆けるにもだらけるにも人の目が気になっていたのです。
ですが魔法の基礎訓練ということにしてしまえば、それももう気にしなくていい。
そして実際に二人の基礎訓練にもなるわけです。
ありがとう、名案さん。
こんにちは、私の理想の暮らし。
そして私はにっこにこで、三人を引き連れて森へと歩き出したのでした。




