魔法使いは三度死ぬ
「参りましたね……」
やはりあの魔法使いとは私のことでした。
事の発端は、昨晩メアリちゃんが自分を弟子だと言い始めたこと。
そしてそれを真に受けたご両親を中心として、あの騒ぎが起きていると。
早朝から仕事に出ていたソフィアさんは、遅れてその話を聞き、あわてて駆けつけてくれたとのことでした。
「お心当たりがないということなら、メアリが勘違いしたのでしょう。お騒がせしたこと、町を代表して謝罪致します」
「ううん」と首を振りつつ、言いかけた言葉を飲み込みました。
「一番騒がしいのが何を謝っているの、雄鶏」
まぁ、そうなりますよね。
別にソフィアさんを責めるつもりは全くないんですが、今回ばかりはフェルミアの言葉を否定できませんでした。
騒がしいっていうか、もはや音響兵器でしたから。
いいんですよ? 別にいいんですけどね。はい。
「はあ? というか、何をしれっとリヴィさんのお家に寄生しているんですかね。森の民なら森で野ざらしにでもなってたらいいのでは?」
「ふっ、お姉さまとは姉妹の契りを交わした身。私はもう……」
手を頬に当ててフェルミアはいやんいやんと身をよじります。
そしてソフィアさんが吠えました。
「ちっ、契りィィィッ!? ち、契りって、あああなた何をッ! リヴィさん、リヴィさん本当なんですか!?」
「わたしリヴィ、四ちゃい」
「……え、リヴィさん?」
「わたしね、まほうがつかえるの」
「お、お姉さま、どうされたんですか!? これはこれでお慕えいたしますが、気をしっかり!」
「でもうまく――ハッ」
状況のややこしさに許容量超過してしまいました。
お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね、もう大丈夫です。
で、ピクニックの話でしたっけ?
話でしたよね?
◇◆◇◆◇
なんとか角が立たないよう丸く収められないか、私たちは三人で議論します。
ちなみにピクニックのピの字も出てきません。残念です。
相変わらずサプライズ好きな名案さん、出てきて欲しい時には出てきてくれません。
ほんと、いいかげんにしてもらえませんか?
「問題ありませんリヴィさん。町民が勝手に勘違いしたのですから、町長の孫であるこの私におまかせください。もちろん禍根を残すようなことには致しませんので」
ソフィアさんから実に力強いお言葉を頂きました。
押し付けるみたいで申し訳ないですが、下手に私が出ずに第三者におまかせしたほうが良いのかもしれません。
それに、たぶんメアリちゃんは泣いちゃいます。
私はどうやら泣き顔に弱いようなので、上手くやる自信がまったくないのです。
だからソフィアさんに「お願いします」と依頼していたところで、その時はいきなりやって来てしまいました。
「リヴィお姉ちゃーん、来たよー!」
太陽のように明るい笑顔を浮かべたメアリちゃんです。
その後ろにはこれまた笑顔のご両親が。
私には、眩し過ぎます。
小さな冒険者に攻撃されているかのように、胸がチクチクと痛みます。
ソフィアさんがご両親に目配せし、メアリちゃん一家を連れて外へ。
もはや私には祈ることしかできません。
相変わらず小さな冒険者は私の胸を攻撃中。ひたすらにじっとそれに耐えていると、
「うえぇぇぇぇぇんッ!!」
小さな冒険者の致命的一撃が炸裂しました。
私、死亡。
「言ったもんッ! お姉ちゃんと約束したもん!!」
死んだ私の耳にそんな言葉が届きます。
そしてドアノブを回す音、止めようとするソフィアさんの声、けれど止まらず開くドア。
「リヴィお姉ちゃん……?」
先ほどと打って変わって、真っ赤な目からぽろぽろ涙を零しているメアリちゃんが顔を出しました。
私、死亡。
「言ったよね? 約束したよね? わたし、いちばん弟子だよね?」
まったく心当たりがありません。
そしてもはやその心も、ついさきほど冒険者によって討伐され、今や素材を剥ぎ取られています。
何をどうしていいものか。
情けないほどうろたえる私の背中を、そっと叩いて前に出たのはフェルミアでした。
「メアリ、それはきっと聞き間違い」
「違うもん! ぜったい言ったもん! ね、ねっ、リヴィお姉ちゃん!」
「メアリ」と優しく囁きながら、フェルミアは小さな肩に手を置きます。
「一番弟子は、この私」
「…………」
私、死亡。
さっきぶり三度目。
死因、ややこ死。
――fin――




