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◆ゲームと魔女とあぶないアンパンでアバンチュールの巻◆

こんにちわ、楽しんでいただけましたら嬉しいです。


 ゆらりゆらり……


 波のまにまに高瀬舟は揺りかごのように揺れている。


 海上の香り。


 それはきつい磯の香りだ。


 そんな潮の満ち引きにつられるように高血圧になりそうな塩分を存分に含んだ潮風がさーっと吹き渡る。


 いまは海面の波の揺れは緩やかだ。


 そう穏やかな時間なのだ。


 そんな波のしらべをうけて、たゆたう高瀬舟は漕ぎ手もなく迷走している。


 漕ぎ手のない船は目的地に向かう術をしらないようにぷかぷかと浮かんで迷走するしか術をもたない。


 貧乏ゆすりのように揺れる高瀬船には食糧だろうか黒ゴキブリもどき三匹ほど入ったリュックサックと横たわるジャージ姿のグリグリメガネのかけた

 

 少年が一人。


 そんな高瀬船を見下す幼女。


 小さな肩にカラスを乗せた幼女は口を歪めて憫笑する。


 余裕たっぷりに悠然と見下していた。


「我の駒……目を覚ましなさい」


 幼女は軽く髪をかきあげた……天高く輝く太陽の光を燦々と浴びた髪。


 その色は力強い金髪。


 そう輝く金髪は妖艶な魔力を含み神々しいほどの煌びやかな光彩を放ち、とてもこの世のものとは思えなかった。


 こつん……

 

 滑らかな表面が落ち着いた輝きを放つ黒のブーツの先端が高瀬船の平たい船底に触れる。


 高瀬船に音も立てずに舞い降りた金髪の幼女。


 あどけない幼さ全開ながらもその姿はまるで天使の降臨のように優雅で傍観者がいればその全ての人を魅了するだろう。


 金髪の幼女は少し前かがみになり高瀬船に倒れている少年の顔を覗き込む。


 その距離は薄ピンク色のくちびるが頬に触れそうになる距離だ。


 だが、金髪の幼女は気にする素振りは見せない。


 ただ、少年の顔をじーっと興味深く見つめている。


 その表情は真剣そのものだ。


 そして急に金髪の幼女は頬を膨らませた。


 いらっとした感情を精一杯込めて、いつか決めるぜ! 稲妻シュートのようにドライブをかけてバコッ! と優雅なおみ足で少年を蹴りあげた。


「ううぅぅん……つ、つくし……って……」


 高瀬船が揺れた、痛み成分たっぷりの信号が痛覚を走る。激走だ。

驚いて瞼をしばたかせる。


 燦々と輝く太陽が眩しい……ってなんで青いお空が見えるだ?


「おい、我の駒……」


 抑揚のない声が金髪の幼女から発せられる。


 その瞳を眇めながら俺を見下す。

 

 つぶらな口元には嘲笑の笑みが浮かんでいる。


「誰、お前……と言うか……なんで海の上なのだ」


 俺はうつむいたまましばし考える。


 今は昼……と、言う事は昨日の晩に何かがあった。


 再び俺を海に漂流させるような重大な何かだ。

昨夜はつくしのボロボロのテントのゴツゴツ石畳の上で眠ったはずだ。


 『がばぁっ』と身を起こした俺が辺り一面の大海原を見渡すと、金髪の幼女は辟易するように軽く肩をすぼめた。


「ゆうき、大友ゆうき……」


 金髪の幼女を見た俺は目を丸くする。


 それは衝撃だった。


 そこには、間違えなく檻村先生の面影がある少女が……か、隠し子なのかぁぁぁ。


「やはり無知で貧弱な人間か……オッズが高いぶん、かなり役不足だな。そこでだ、お前に少しプレゼントをやろう」


 俺に何かをくれるらしいが……オッズとはなんだ。


 金髪の幼女は青磁のような滑らかで愛らしい手をゆうきの前に差し出す。

すると空間がうがり始める。それは異世界の繋がる空間だろうか!?


 永遠の深淵とも思える闇の穴から古ぼけた小箱が現れた。


「くくくっ、その中にはジャ○アンに苛められたの○た君も泣いて喜ぶ。マル秘アイテムが入っているぞ」


 ――の○た君って……それにこの得意げな顔した幼稚園児っぽいガキんちょはいったい誰なんだーっ?――


「だれが、幼稚園児だ、私のパンツでもほしいのか? さっさとその東洋風の意匠が施された小箱をあけろ」


 俺の心を読みやがった……もしやつくしと同類かぁぁぁぁ!


「早く開けろ!」


 いてぇーっ! こいつちっちゃい手で俺の耳を掴んで口をすくそばによせて大声で命令してくるぞーっ。


「大声出すなーっ!」


 俺は思わず叫んでしまった。


少し罪悪感……しかし金髪の幼女は動じない。なんて肝の座ったやつだ。

ガキんちょに命令されるのはしゃくだが、肩にのっているカラスにつつかれても嫌なのでおそるおそる小箱を開けてみる。


「……パン?」


小箱の中からこおばしい香りとともに『焼きたてですよ!』と言わんばかりのちょこっと白ゴマがかかったあんパンらしきものが入っているぞ。


「どうじゃ、美味そうだろう。さぁ、遠慮するでない食べよ、それ食べよ、刹那に食べよ」とお腹が空いている俺には魔法の言葉に聞こえる。唇の端を上げて、ニッコリ微笑む金髪の幼女は物凄く得意げに肩をそびやかして言い寄ってくる。


 金髪の幼女がすこしだけ大人びた雰囲気をだして腕を組んだ。


 やはり、檻村先生にどこかしら似ている。


 そして、とても自信アリといったように俺に選択肢を提示してくる。


「ゆうき、お前には二つの選択肢がある……ひとつはこのまま大海原で迷子になってサメの餌になる。もうひとつは、そこにある魂を具材にした、私、特製のあんパンもどきを食べて、島に戻って、つくし達とともに死ぬか……どちらを選択する」


 こんな幼いのに妖艶な微笑みを浮かべる。


 カラスまでドヤ顔だ。


 こんなにも太陽が照りつけているのにぞくっと背筋に冷たいものが走る……やりきれない気持ちでいっぱいだが一つだけ理解が出来た、どっちにしても俺死んじゃうやん!


「稀有だな。あのゴーストシップを掻い潜り、監獄島からも……」


――監獄島って……つ、つくしがいる……――


 金髪の幼女の右手が弄ぶようにゆうきの顎にふれる。


 そして、頬と頬が触れ合うほど相貌を近づける。


 右手で俺の顎をさすりながら扇情をそそるような吐息が耳元に吹きかけられる。


 「私を信頼するか……運命を裏切るか……選択するは貴様だ。見てみろ、この大海原や大空を、人は矮小な存在だ……そんな矮小な人間よ。私はチャンスを与えているのだ……ただ、死にゆくだけの貴様に」


 やはり、ただの幼女ではない。


 本来、このお年頃は純真無垢な子供の瞳のはずが、この金髪幼女は魔性に

 満ちた瞳だ。


 純粋ではなく悪ずれている。


 本来はファンシーなサンタクロースの存在を信じている夢見心地のお年頃なのに。


「そのパンは、監獄島で長い間、執行人達に抗い続けた大妖・大飛丸の純度の高い魂が練り込んである。生きたまま生皮を矧がされ、目玉をくりぬかれてもまだ、死ぬまで監獄の中で抗い続けた剛の者よ。その憎しみ……私が気にいって魂のコレクションに入れていた特別な逸品……そのパンを食べれば、貴様は二つの魂を持つことになる……極めて稀有な人を越えた存在になるぞ」


 ここまで長広舌をふるう幼女。


 ある意味サンタクロースよりファンシーな存在かも。


 しかも、臆することなく強気の姿勢を保ちながら自信たっぷりに言ってくるさまは……年齢的に怖いものなしの時期なのだろうな。

この子の親御さんが常識的教育をしっかりしなきゃいけない。


 どうしたものか……と俺の心と思考回路が嘆息した……どうにも訳がわからん……。


 ただ、俺は聞き逃さなかった『つくし達が死ぬ』と言う言葉が物凄くひっかかった。


 俺は素直に生きると決めたのだ……ここは素直に行動に移そう。


『おほんっ』と空咳を一つ。襟をただすように心を落ちつけて……小生意気な幼女の将来の為にも鉄拳制裁!


「こらっ、ガキんちょ! 人が大人しく聞いていたら勝手なことばかり言いやがって」


 素早く右手で油断していたカラスの首根っこを掴み、左手で金髪の幼女を頭に掌をのせて押さえつけた。


「何をするのだぁぁぁ。ここで死にたいのかぁぁぁ。ええい、痴れ者め。放せ」


 高瀬船の船底でバタバタ暴れるちびっこ……しかたない……お仕置きだ!


 俺はガキんちょが羽織っていた黒マントをまくりあげると、小脇に抱えて、スカート越しに『ぱしっ!』とお尻を叩く。


「こ、こら、い、痛いだろ。変態やめろぉぉぉ、止めなければこの場で貴様を引き裂き塵芥にしてやる」などとたいそうな事を言うちびっこ。


 こりゃ、某魔法少女番組の見過ぎだな。


 そんな抵抗をかまいもせずにパンパンと叩く……むろん手加減はしている。


「うううぅぅぅ、うえぇぇぇぇぇん」


 はっ、泣きだしてしまったぞーっ!

 

 しかたなく舟の上に降ろしてみる。


「ほら、まずはお兄さんにきみの名前教えてくれるかな」


 しかたない……俺はグリグリメガネをはずして、優しくやんわりと微笑んだ。


「………………」


 少し沈黙の後、ぽっ!と何故か金髪幼女の頬が紅色に染まっていく。


 「き、貴様……おおっ、我が名だな」


 何故か俺の顔をガン見しながらパタパタとマントを払って「おほんっ」とわざとらしい咳払い一つ……この子佇まいをなおしたぞ。


 「我が名はファクター。臨界の魔女と呼ばれている。おほんっ、その、貴様を殺すには少し惜しい人材……いや、人財だな。なので、不本意だか一つだけ助かる道を授けてやろう」


 今更ながら年少のお年頃らしく両指を胸元で絡ませてモジモジしながら上目遣いで呟く。


――な、何だ、この態度の急変は何だか、手のひらを返したように優しくなったぞ――


「助かる方法?」


「うむ、ただし、条件がある……その……」


 何だかもごもごと何かを言いだそうとしている。


 金髪幼女を覗き込んで見ると更に顔が真っ赤になる。


「おほん、我に愛しているといって情熱的に抱きしめて、キスをしろ」

???……この、がきんちょ……もしかして、おませさんなのかーっ!


「も、もし、その恥ずかしすぎることをしたら、俺に何がある?」


 とんでもないキノコ爆弾級の破壊力的条件を提示してきた。


 そんなロリコン的趣味はない俺にとってその条件提示はは範疇外だ。

し、しかし、このファクターはつくしを知っていた。

それによく考えてみれば、檻村先生の面影がある子供に悪い子がいるはずはないぞーっ! (ゆうきの個人的偏見から)


「我の最大級の加護をつけてやる……」


 ファクターの瞳には強い意志が宿っている。


 それは嘘偽りのない人だった檻村先生の最後の瞳と同じ色を宿していた。


 信じるに値する心が吸い込まれそうな瞳の色だ。


「加護の度合いは貴様の態度次第だぞ……そのキス……の……」


 モジモジとしながら微笑むと高瀬船に黒マントを脱ぎ捨てた。


「はいはいはい、わかった。ただしこちらも条件がある。さっきオッズといったよな。ゲームか何かだろ。監獄島の存在もふまえてしっかりルールを教えろ。そして、お前は俺にかけろ。しっかり儲けさせてやる。だから加護とやら期待しているぞ」


 ――はぁぁぁぁ……ここは覚悟を決めるか――


 燦々と降り注ぐ白日の元、俺は一生……いや、一笑してしまうほどの体験をする事になった。


 とと様・かか様・アブノーマルな世界を体験した……こんな息子をお許しください……。


いかがてしたか?

おもしろてなぁと思っていただけましたら嬉しいです。

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