第2話 ヘイヘ家の食卓
ラウトヤルヴィにあるヘイヘ家の農場は、決して裕福ではなかった。
8人兄弟の7番目として生まれたシモは、物心ついた時から働き詰めだった。夏は畑を耕し、秋は収穫し、冬は木を切り出す。フィンランドの農民にとって、生きることは闘いそのものだ。
夕食時、大きな木のテーブルを家族全員が囲む。
父のユホは厳格な人物だった。食事中は無駄口を叩くことを許さず、ただ黙々と黒パンとスープを口に運ぶ。
「シモ、今日の成果は?」
父の低い声が響く。
「ウサギが一匹、キツネが一匹です」
シモが短く答えると、父は小さく頷いた。
「悪くない。キツネの皮は町で高く売れるだろう」
母のカトリーナが、シモの皿に少し多めにジャガイモをよそってくれた。彼女の温かい眼差しだけが、厳しい生活の中での救いだった。
シモは口下手で、兄弟たちの中でも特に寡黙だった。兄たちが村の娘の話や、隣村の噂話で盛り上がっていても、彼はただニコニコとそれを聞いているだけだ。
「シモは本当に喋らないな」
兄の一人が笑いながら言った。
「何を考えているのか分からんよ」
「考えていることなんてないさ」
シモは照れくさそうに首を振った。
(俺は、この生活が続けばいいと思っているだけだ)
土の匂い、家族の温もり、そして森の静けさ。それ以上のものを、彼は望んでいなかった。
だが、食卓のラジオからは、不穏なニュースが流れていた。
東の隣国、ソビエト連邦の動きだ。スターリンという指導者が、近隣諸国に対して領土の割譲を迫っているという。
「ロシアの熊が、また腹を空かせているらしい」
父が忌々しそうに呟いた。その言葉の重みを、シモはまだ深く理解してはいなかった。
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