第16話 崩れゆく均衡
1940年3月。
冬戦争が始まって3ヶ月が過ぎていた。
北欧の遅い春が近づき、昼間の時間が少しずつ長くなっていたが、戦況はフィンランド軍にとって最悪の局面を迎えていた。
ソ連軍は学習していた。
無謀な突撃を減らし、圧倒的な物量の火砲と戦車で、フィンランド軍の陣地を一つずつ丁寧に潰し始めたのだ。
コッラ川の防衛線も限界に達していた。弾薬は底をつきかけ、兵士たちは不眠不休の連戦で、立っているのがやっとの状態だった。
シモの形相も変わっていた。
かつての純朴な農夫の面影はない。頬はこけ、目は落ち窪み、その瞳には鬼火のような鋭い光が宿っていた。
愛銃「M/28-30」のストックは傷だらけになり、白い迷彩服は泥と油と、誰のものか分からない血でどす黒く汚れていた。
「シモ、下がれ! ここはもう持たん!」
小隊長が叫ぶ。
だが、シモは首を振った。
「俺たちが下がれば、誰が彼らを止めるんですか?」
彼は狙撃手としての役割を超え、サブマシンガン(スオミ KP/-31)を手に、最前線で突撃部隊を食い止める役割も担っていた。
接近戦。
雪原の白い悪魔は、森の奥から静かに狙う死神から、血飛沫の中で踊る修羅へと変わらざるを得なかったのだ。
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