圭太君へ 二〇〇五年二月八日
やあ、僕の大学受験は昨日終わったよ。私立文系のそれなりに有名な大学を受けた。すべり止めは、三流の、関係者以外名前も知らないようなつまらない大学だ。でももう終わってしまえば「あとは野となれ山となれ」と叫びたいくらいに清々しいよ。君はたぶん、去年だけで大学受験は終えられたのだろう?
遠くの方に細く白い雲がやっと見えるくらいにのびていた。空は快晴の気持ちのいい空気の澄んだ冬の日の午後に、僕は一年ぶりくらいにハルカさんに会いに行ったんだ。実は高校に入ってからはハルカさんとキヨタにほとんど交互に会いに行っていたんだ。でも、3年に入ってから交流は断っていた。一応の受験生の態度としてね。
ハルカさんは一年前と変わらぬ、ずっと変わらぬ場所に座っていてくれていた。そして、最初に会った一〇年以上前から全く老いた様子もなく、その肌も艶々しいままで、年を経ていないように驚くほど変わらぬ姿を見せていた。僕を見つけると女神のように優しく微笑みかけてくれた。
「久しぶりね」
「ご無沙汰してすいません。大学受験を控えていたものですから」
「私はね、雪みたいなものなの」
突然何を言い出すのかと思ったが、ハルカさんは続けた。
「今日は降ってないわね」
「雪が…ですか?」
「そう」
「何でハルカさんが雪なんですか?」
哀しげに笑って彼女は言った。
「私には両親もいないし、親戚もいない。あなたとは時々話すけれど、友達もいない。もちろん恋人も。仕事もしてないから、私が死んでも困る人も悲しむ人もいない。だから、だれもお葬式なんてあげてくれない。待っているのは空から降るあてのない雪のように何も残さず消えていく運命だけ」
「そんな…。まだ若いのに。あなたが死んだら僕が悲しみます」
その時僕はどうやって彼女は生活の為のお金を得ているのだろうと、ふと思ったが、このうっとりするようなメランコリックな眼差しが飾るセンチメンタルな状況をそんな現実的な問いで壊したくなかったので、疑問を飲み込んだ。しかし、彼女の着ている服は大量生産ではなく一点ずつ職人が手作りしたのではないかと思うような繊細で美しい、おそらくは高価なものに見えた。そう、僕の理想の女性は寸分たがわず僕が最も美しく素敵で、理想的と感じる洋服をいつも身に纏っていた。その上品な服も、柔らかい素材のスカートも、高級そうな靴も、夏に差している日傘も、僕が敬愛している彼女を存分に引き立てて、僕をより一層虜にした。その容姿も彼女を包んでいる儚げな凛としたオーラも僕をどんなムービースターよりも惹きつけた。
「いいえ。あなたは悲しまないわ」
「どうして?」
僕は強い態度で聞いた。彼女は僕の左手を取り、彼女の右の頬にそっとその手のひらを押し当てた。
「冷たいでしょう?」
そう言ったきり、彼女は僕の方をそれ以上見ようとしなかった。
キャンパスライフについて書いて送ってくれ。僕が万が一「つまらない大学」にも落ちて浪人するはめになった際、君が語る楽しいキャンパスライフを励みにして、また一年頑張るよ。
仁以千絵より




