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圭太君へ                          二〇〇二年四月二三日

ありがとう。高校に入ってから僕はおかしくなった。中学校時代から、いや幼稚園児の時から僕の心の器に溜まったものに、父親の言葉がとどめの汚く濁った水を注いで、もしくは汚れた油を注いで、僕の心は臨界点を超えたんだ。父親はこう言った。

「この世に芸術家や陶芸家、画家や作家、イラストレーター、フォトグラファーなんてちゃらちゃらした職業をもって生きている奴がいるなんて、俺には信じられない。俺にはただのサラリーマンになるしか道はなかった。何がフリーランスだ。真面目な人間はそんな生き方するものか。いいか、『自由』っていうのは制限された世界でもっと昇華されたものであるべきなんだ。勝手が利いて楽しいという意味じゃない。『不自由』こそ『自由』なんだ。俺の言うことが分かるか?おい、お前は俺の理解の範疇で生きろよ。」

それだけのセリフなら、父親の自嘲として僕は我慢できた。さらに父親はこう続けた。

「お前は目立った反抗を示さない割には、俺のいう事を心に染み込ませようとしない。小賢しい奴だ。俺はお前に『俺の子』として生きることを要求するし、絶対にそうさせるからな。それをわからせるためには、お前が耐えきれなくなる位きつーい言葉をどんどん浴びせてやらなくてはなぁ。」

そう言ったんだ。僕は、その卑怯で偉そうな声と言葉に、確かにきつくプライドを傷つけられて、自分の人生を自分で選ぶという当たり前であるはずの権利の侵害を強く、強く感じた。僕は領域侵犯が一番きらいだ。その後から僕は自分の感情を自分の論理の統制下に治め切れないようになっていったんだ。少しずつ、少しずつ、ひどくなるような気がする。クラスでも頭のおかしい奴だって馬鹿にされてる。弱い奴だって。変な奴だって。僕は最近逃げるようにホームレスのところへ時間を過ごしにいってる。僕の中の僕はまともな神経の軸から遠く離れた所へ行っていて、その場所に押し付けられている。自分が全く前に進まず、ただ小さく削がれていっているのを感じる。こんな人間がどこへ生きつくのか、僕は僕自身を実験台にしてよく見てみるよ。

                                  仁以千絵より


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