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仁以千絵君へ                        一九九八年八月二一日

ありがとう。君は6年生だね。まったくの子供のままでいられる期間の最後の一年を、君はまた、あれこれ考えながら、無邪気でいられる楽しみをふいにするのだろうね。中学にあがると周りのみんなは突然大人のエゴを持ち出す。僕も自分を守るために大人になろうとする。しかし、本当の大人じゃないから、子供のわがままを正当化しただけだ。君の言葉で言うと「独善的」だね。君が今のままの君で中学に上がったら、痛々しいことになるだろうね。まあ、でも、君は案外それに耐えられるくらい強いかも。僕だったら君の生き方には耐えられないもの。たとえ、幼稚園児や小学生の社会で生きていたとしてもね。受験はしていない。中学校には持ち上がりで入った。高校に上がる時は内部進学ができたら一番いいと思っている。でも、大学はきっと受験しなくちゃいけない。今まで「将来」だった事が「現在」に近づいてくるのは怖いことだ。希望通りにいかなかったときの自分の落胆を想像するとぞっとする。

 中学に上がったから、初めて英語の授業が時間割の中に入った。外国の言語を習うのは、論理的で、かつ体系的な文法とか構文を理解して文の形にする能力と、言葉への勘が必要らしい。単語も覚えなきゃいけないから記憶力もね。僕は国語と数学のハイブリットって勝手に呼んでるよ。僕は英語が教科の中で一番好きなんだ。全く苦がなく勉強できるよ。それにインターナショナルな気分になれるしね。英語を学んでいると、アメリカ人やイギリス人と日本人が話をするときのニュアンスの論点の違いに気付くよ。僕はアメリカ人じゃないからはっきりしたことは言えないけれど、アメリカ人の方が理屈で勝っている人が実際の言い争いでも勝つことが多い、つまり論理的な感じが強い気がした。でもこれは実際にアメリカ人やイギリス人と関わって得た感想じゃないからね。まったく根拠は薄いから。でも、日本語よりも素直な言語なのは確かじゃないかなあ。実際外人は日本人よりオープンだっていうしね。僕は君の事をちょっと考えたんだ。君は薄っぺらなのにやたら高いところにあるプライドを満たしたいって言ってた。でも、僕は、その奥には「真理を知りたい」っていう気持ちがあるんじゃないかと思う。人生は不思議なことに自分の生き方からずれたことは起こらないものだ。自分の生き方を見直す出来事は起こるけれどね。だから好きな人と別れたり、受験に失敗して落ち込んだり(僕はまだ未経験だけれど)といったような、胸が張り裂けそうな出来事は起こるし、起こりそうだけれど、自分の中に用意ができていない脳が断ち切られるような出来事は起こらないような気がする。うまくいえないけれど、人生は筋に沿っているということだ。当然人生には選択する場面はあるからその筋は枝分かれするけれどね。君はその筋からわざとはみでようとしている。そして、別の筋の川の流れにも乗っからず、岸の上で立ち止まっている。立ち止まって周りの人が自分の人生、自分の時間をきちんと流れに乗って生きているのを端で眺めている。君はひとりひとりの人生に筋があることが不思議で仕方なくて、世界も不思議で仕方なくて、謎を解きたいから、わざと君の人生の流れに乗らずに、何かに反抗しているんじゃないかな?何かっていうのは、君の人生や、世界や、運命に。君は運命の不思議を解き明かしたいんじゃない?何だか妙な話になったね。言っている僕もわかるようなわからないような、なんだ。

 子供でいられる最後の一年、楽しんでください。

                                    圭太より


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