森
朝陽と別れ一人森へ入ったシュオンは森の様子を一通り見て回る事にした。
_淀みはまだ薄いようじゃが...確実に森に元気が無くなってきておるのう...。
飛び回る鳥達は前よりも静かにしている事が多くなり、虫達の動きも少し鈍くなりつつあった。
すると、シュオンの元に幼い小鹿が歩み寄り頭を軽く擦り付けてきた。
_どうしたんじゃ?母親とはぐれてしまったのか?...仕方がない我が探してやろう。
シュオンは森に意識を集中させ親鹿であろう鹿の気配を探した。
_...お主の事を心配して探しておるぞ。今会わせてやるからの、少しの辛抱じゃ。
子鹿を安心させるように優しく言うと、子鹿の身体を妖気で包み込んだ。
子鹿は妖気に怖がること無く身を委ねるように大人しくしていた。
_良い子じゃな。
シュオンはにっこり微笑むと子鹿を親鹿の元へ運んだ。
親鹿は子鹿を運んでくれたシュオンに目をやると軽く会釈をする様に頭下げた。
_かまわんよ、もうはぐれぬ様に気を付けよ。
そうシュオンが言うと親子仲良く森の奥へ戻って行った。
シュオンは動物や虫の声が聞こえたり気持ちが分かる能力を持っていて、困っている者が居るといつもすぐに助けていた。
助けた事により懐いて色々森の情報や変化を教えてくれる動物達も少なくなかった。
森を一人しばらく歩いて居ると木の上から蛇がシュオンに降ってきた。
_おや、元気やのよう。どうかしたか?
声をかけると蛇はシュオンの首の方へ軽く巻き付き
[森の奥にある大木、なんだか嫌な感じする。前は心地良かったのに今は寒気がする。あれ嫌、なんで?]
と言ってきた。
_大木?...あぁそう言えばあったな。我が見てやろう。
そう言うとシュオンは妖気を操り飛んで大木の方まで行った。
_以前は綺麗な緑色だったのが赤黒いような色になってしまっておるな。...何故じゃ?
飛んで大木に近づき地面に足を付けようとしたシュオンは咄嗟に足を浮かせた。
大木の根元を淀みが渦を巻いて囲っていたのだ。
_いつ頃から寒気がするようになったか詳しく覚えておるか?
[一週間...およそだけど、そう。元に戻して欲しい。出来る?]
首の方に大人しく巻きついている蛇は不安そうだった。
_そう不安そうにするな。我が戻してやろう。
そう優しく蛇に言うと、シュオンは大木に触れた。
_消去。
ただ一言呟くように言うと大木全体が光に包まれ、あっという間に淀みは晴れていった。
[寒気消えた!すごい!嫌なの消えた!戻った、戻った!ありがとう!本当、ありがとう!!]
大はしゃぎしながら蛇は大木の上までぐんぐん登って行った。
そんな蛇の姿を見て嬉しくなったが、それと同時に着実に淀みが増えていくのを実感した。
_それにしても雪乃...お主は何処に居るんじゃ。
朝陽の夢に出てきた母親である雪乃の事をシュオンは少し思い出した。
あれは何時だっただろうか。
雪乃とシュオンは不思議な関係だった。
一言も口を聞けないがいつも見守るシュオンと、一方的に沢山の話をシュオンにする雪乃。
当時は神社に色んな人が居た。
朝や昼は忙しなく人が活動し、暗くなってくるとだんだんと静かになっていった。
雪乃がシュオンに話し掛けるのはだいたい皆が寝静まった夜中の事が多かった。
勿論明るい時に話し掛けてくることもあったが圧倒的に夜中だった。
『今日は○○○○な事があったのよ。それでね、○○が○○○○○したの!面白かったわ、貴方も一緒に居たらきっと笑っていたと思うの!』
と他愛もない話をする事もあれば
『私...時々思うの。この当たり前の日々がいつか崩れてしまうんじゃないかって...どうしようもなく不安になったりするの...可笑しいよね。貴方はそんな風に考えた事...ある?』
と弱音を吐いて寂しそうに笑ったりする事があった。
雪乃は朝陽と時雨を産んでからは話し掛けに来る事は滅法減った。
二人を産んで育てるようになってからは前のように弱音を吐く事が無くなった。
だが一度だけ、二人を産んでから弱音を吐いたことがあった。
『朝陽と時雨を産んで、もっと強くならなきゃって思ったの。あの子達は何がなんでも守るの!だってせっかく私の元に産まれてきてくれた大切な宝物なんだもの。...でもどうしてかしら...。何だかとてもおぞましい物が覆いかぶさってくるような...飲み込まれてしまいそうで...私怖いの...。何に怯えてるのかしらね...怖くてたまらないの...私母親なのに...強く居なきゃいけないはずなのに...。』
カタカタと身体を震わせ静かに涙を流す雪乃の姿をシュオンは見ている事しか出来なかった。
だが、その姿を今でもはっきりと覚えていた。
_あの時...我が動けていたなら...何か助ける事が出来たのだろうか...。雪乃...今お主は何処に居るんじゃ。無事でおるか?...また一人泣いては居らぬか?
やるせない気持ちがシュオンを襲った。




