表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/48

第26話「気に食わない笑顔」

 ナースステーション。



「サヤさん」


「はい!」



 振り向くと、若い医師が立っていた。



「さっきの処置、すごく助かりました」


「え、あ……!」



 少し驚く。



「あの判断、普通は迷いますよ」


「でも迷わず動いてくれたから、すごく助かりました」



 まっすぐな言葉。


 一瞬戸惑って。



「そんな……!でも嬉しいです、ありがとうございます!」



 ぱっと、顔が明るくなる。


 遠慮のない、満面の笑み。


 その笑顔を見て。



「……あ、いえ、その……」



 若い医師が、少しだけ視線を逸らす。


 わずかに頬が赤くなる。


 少し迷ってから、続ける。



「……また一緒に当たることあったら、頼りにしてもいいですか」


「え?」



 一瞬きょとんとして。



「もちろんです……!」



 ためらいなく、頷く。


 その無邪気さに。



「……」



 ほんの少しだけ、言葉を失う。



「……本当に、助かりました」



 今度は、さっきよりも視線が長く残る。





 少し離れたところで。



「……」



 ヘンリーが、それを見ていた。


 笑顔も。


 そのあとの反応も。


 全部。


 何も言わない。


 でも。


 視線だけが、わずかに鋭くなる。







 その後の業務。



「サヤ」


「は、はい!」



 名前を呼ばれて振り向く。


 いつも通りのはずなのに。



(……なんか、違う)


「この処置、つけ」


「はい」



 隣に立つ。


 距離は近い。


 でも。


 会話は必要最低限。


 目も、あまり合わない。



(……冷たい?)



 ほんの少し、不安になる。







 夜。


 あの家。



「お邪魔します……」



 どこか落ち着かないまま、扉をくぐる。



「入れ」



 いつも通りの声。


 でも。


 空気が少し違う。



「……どうした」



 先に聞かれる。



「え?」


「落ち着かない顔してる」


「そ、そんなことないです!」



 慌てて否定する。


 少しの沈黙。


 そして。



「……あいつと、随分楽しそうだったな」


「え?」


「さっきの医者」



 一言で、分かる。



「あ……」



 思い出す。


 あのやり取り。


 低い声。


 淡々としているのに、少しだけ棘がある。



「……別に」



 一度、息を吸う。



「仕事として褒められただけですよ?」



 なるべく普通に言う。


 でも。



「……」



 沈黙。


 視線だけが、外れない。



「あいつに頼られるの、そんなに嬉しいか」


「……っ」



 言葉に詰まる。



「……あいつ、お前のこと気に入ってるみたいだな」


「え……?」



 思わず顔を上げる。


 視線が、ぶつかる。



(そこまで見てたんだ……)



 心臓が、少し跳ねる。



「……そんなふうには、見えませんでしたけど……」



 小さく返す。


 自信はない。


 次の瞬間。


 ぐい、と腕を引かれる。



「――っ」



 一気に距離が近づく。


 背が、壁に触れる。


 逃げ場が、ない。



「分かってて言ってるだろ」



 低い声が、近い。


 息が、かかる距離。


 心臓が、うるさい。



「……外で」



 一拍。


 視線が、落ちる。


 唇のあたりで、止まる。



「あんな無防備な笑顔、見せるな」



 指先が、顎のあたりで止まる。


 触れそうで、触れない。



「……っ」



 逃げようとした瞬間。


 すぐに、引き戻される。



「……逃げるな」



 さっきより、低い。


 一瞬、言葉を失う。


 その意味を、ゆっくり理解する。



(……あの笑顔のこと)



 顔が、一気に熱くなる。



「そ、それは……!」



 言い訳しようとして。


 でも、出てこない。


 その代わり。


 少しだけ前に出る。


 ほんの少しの意地。



「……じゃあ」



 小さく言う。



「グレーテルさんには、してもいいですか」



 一瞬。


 空気が止まる。



「……」



 ヘンリーが、言葉を失う。



(……え)


(詰まった……?)



 その一瞬。


 確かに、隙があった。


 でも次の瞬間。



「……ほんとに厄介だな」



 小さく吐き出す。


 そのまま、引き寄せられる。



「――っ」



 距離がゼロになる。



「……あんまり煽るな」



 低く、静かな声。


 でも。


 どこか優しい。


 サヤは。


 ドキドキしながら。


 小さく、笑った。



(……ずるいのは、どっちだろう)

エイル「最近見ないねって?空気読んで出てきてないだけよ。まったく……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ