表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/48

第13話「脈動」

 手術室の扉が開いた瞬間、空気が変わった。


 長い緊張のあとに訪れる、異様な静けさ。



「終了」



 その一言で、ようやく時間が動き出す。


 ミネルはストレッチャーに移される。


 まだ意識はない。


 それでも“生きている”という事実だけが、そこにあった。





 廊下に出た瞬間。


 サヤが駆け寄った。



「ミネル……!」



 声が震える。


 サヤと一瞬だけ目が合う。



「……ひとまず、繋いだ」



 それだけ言って、ヘンリーは視線を外す。


 医師の一人が短く頷く。



「手術は完了しました」



 その言葉を聞いた瞬間、サヤの視界が滲む。


 うまく呼吸ができないまま、何度も頷いた。


 だがそれは、完全な安心ではなかった。


 “終わった”というより、“終えられた”に近い。





 ラーナは記録端末を持ったまま、手術室前に立っていた。


 中で起きていたことは、すでに終わっている。


 それでも頭の中では、まだ処理が終わっていない。



(……ありえない)


(あの速度で、あの精度で、あの安定)


(人間の動きじゃない)



 それなのに、恐怖より先に来たのは、理解欲だった。



(あれを再現できるようになりたい)


(いや、再現じゃない)


(……超えたい)



 わずかに、奥歯を噛みしめる。





 少し離れた場所。


 ヘンリーは白衣のまま立っていた。


 手袋はまだ外していない。


 しばらく動かない。



(間に合った)



 その事実だけが、静かに落ちる。


 だが胸の奥は、まだ静かではなかった。


 ミネルは助かった。


 手術も成功した。



(……ひとまずは、繋いだ)





 医局では記録が淡々と積み上がっていく。



「感染源除去成功」


「循環安定化」


「術後管理へ移行」



 数字としては成功。


 記録としては完遂。


 それでも誰も、完全な安心という言葉は使わない。





 病室前。


 サヤはICUへの引き継ぎ確認を終えたあと、ようやく壁にもたれていた。


 ICUのミネルに面会はできない。



「助かったんだよね……?」


 声が震える。


 自分で言った言葉なのに、うまく信じきれない。





 ヘンリーはその光景を遠くから見ていた。


 声は届かない。


 でも表情だけは見える。



(まだ、安心はできない)


(あいつも、まだあの顔のままだ)



 その言葉だけが、胸の奥に残る。





 医局の中。


 医師たちが静かに話す。



「ここまで持ち直すとは思わなかった」


「判断が速すぎる」


「完全に主導していたな」



 その中心に、ヘンリーはいる。


 だが会話には入らない。





 廊下。


 誰かが小さく呟く。



「……あの人、誰なんだ?」



 返事はない。





 ヘンリーはようやく手袋を外す。


 ゆっくりと。


 その動きだけが、妙に静かだった。



(……救えた)


(今度は、間に合った)



 その実感だけが、少し遅れて胸に落ちてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ