第13話「脈動」
手術室の扉が開いた瞬間、空気が変わった。
長い緊張のあとに訪れる、異様な静けさ。
「終了」
その一言で、ようやく時間が動き出す。
ミネルはストレッチャーに移される。
まだ意識はない。
それでも“生きている”という事実だけが、そこにあった。
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廊下に出た瞬間。
サヤが駆け寄った。
「ミネル……!」
声が震える。
サヤと一瞬だけ目が合う。
「……ひとまず、繋いだ」
それだけ言って、ヘンリーは視線を外す。
医師の一人が短く頷く。
「手術は完了しました」
その言葉を聞いた瞬間、サヤの視界が滲む。
うまく呼吸ができないまま、何度も頷いた。
だがそれは、完全な安心ではなかった。
“終わった”というより、“終えられた”に近い。
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ラーナは記録端末を持ったまま、手術室前に立っていた。
中で起きていたことは、すでに終わっている。
それでも頭の中では、まだ処理が終わっていない。
(……ありえない)
(あの速度で、あの精度で、あの安定)
(人間の動きじゃない)
それなのに、恐怖より先に来たのは、理解欲だった。
(あれを再現できるようになりたい)
(いや、再現じゃない)
(……超えたい)
わずかに、奥歯を噛みしめる。
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少し離れた場所。
ヘンリーは白衣のまま立っていた。
手袋はまだ外していない。
しばらく動かない。
(間に合った)
その事実だけが、静かに落ちる。
だが胸の奥は、まだ静かではなかった。
ミネルは助かった。
手術も成功した。
(……ひとまずは、繋いだ)
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医局では記録が淡々と積み上がっていく。
「感染源除去成功」
「循環安定化」
「術後管理へ移行」
数字としては成功。
記録としては完遂。
それでも誰も、完全な安心という言葉は使わない。
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病室前。
サヤはICUへの引き継ぎ確認を終えたあと、ようやく壁にもたれていた。
ICUのミネルに面会はできない。
「助かったんだよね……?」
声が震える。
自分で言った言葉なのに、うまく信じきれない。
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ヘンリーはその光景を遠くから見ていた。
声は届かない。
でも表情だけは見える。
(まだ、安心はできない)
(あいつも、まだあの顔のままだ)
その言葉だけが、胸の奥に残る。
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医局の中。
医師たちが静かに話す。
「ここまで持ち直すとは思わなかった」
「判断が速すぎる」
「完全に主導していたな」
その中心に、ヘンリーはいる。
だが会話には入らない。
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廊下。
誰かが小さく呟く。
「……あの人、誰なんだ?」
返事はない。
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ヘンリーはようやく手袋を外す。
ゆっくりと。
その動きだけが、妙に静かだった。
(……救えた)
(今度は、間に合った)
その実感だけが、少し遅れて胸に落ちてきた。




