三位一体の魔力炉と、神殺しの鎖
『無駄ダ。無意味ダ。全テハ虚無ニ還ル……』
異形と化した教皇の声が、空間をビリビリと震わせる。 上空の巨大魔法陣から、雨のように黒い雷が降り注ぐ。一本一本が山を消し飛ばすほどの威力を持った、破壊の豪雨だ。
「レン! 作戦って何!? 早くしないと蜂の巣よ!」 アリアが炎の剣で黒雷を弾き飛ばしながら叫ぶ。
「……ん。防戦一方で、ジリ貧」 ミリスも氷の盾を多重展開しているが、次々と砕かれていく。
「二人の魔力を俺にくれ!」 俺は『王家の鍵』を両手で握りしめ、叫んだ。
「あいつは今、世界そのものと融合しようとしている。質量もエネルギーも無限大だ。俺一人の『固定』じゃ、一瞬で弾かれる」 「だから、お前たちの全魔力を俺の『鍵』に流し込んで、出力を底上げするんだ!」
「魔力を渡すって……そんなことできるの?」 通常、他人の魔力を体に入れるのは拒絶反応で自爆する危険な行為だ。
「俺がやるんだよ! 二人の魔力回路と俺の回路を『接続』状態で固定する! パスは繋ぐ、制御は俺がやる!」 俺は二人に背中を向けた。
「背中に手を当てろ! 信じて流せ!」
「わかった! レンが言うなら!」 「……ん。信じる」
アリアとミリスが、迷いなく俺の背中に掌を押し当てた。
「『事象固定』――魔力回路・直結!」
カチリ、という音が魂に響いた。 瞬間、背中から灼熱の炎と、極寒の氷の奔流がなだれ込んできた。
「ぐぅぅぅッ……!?」
全身の血管が焼き切れそうなほどの激痛。 相反する二つの巨大な魔力が、俺の体内で暴れ回る。普通なら爆散しているところだ。
「くっ……! 『身体強度』――固定! 『魔力変換』――固定!」
俺は自分の肉体が崩壊しないよう、細胞レベルで強度を固定し、暴れる魔力を無理やり一つのエネルギーへと変換していく。 炎の赤、氷の青、そして空間の透明な輝き。 三色が混ざり合い、俺の身体から虹色のオーラが噴き出した。
『ホウ……? 虫ケラガ集マッテ、何ヲスル』
教皇が巨大な手をかざした。 掌に圧縮された虚無の闇が、ブラックホールのように渦巻く。
『消エロ』
ズドォォォォォォォッ!! 極太の闇のビームが、俺たちを飲み込もうと迫る。 回避は不可能。防御も貫通する即死の一撃。
「今だッ!」
俺は限界まで高まった虹色の魔力を、全て『王家の鍵』に叩き込んだ。
「アリアの熱情! ミリスの冷静! そして俺の意志! 全部まとめて受け取りやがれ!」
俺は鍵を、迫り来るビームの真正面、そのさらに奥にいる教皇本体に向けて突き出した。
「奥義・『万象固定』――時間凍結!!」
キィィィィィィィィィン……!!
世界から音が消えた。
俺の鍵から放たれた虹色の光が、闇のビームを突き抜け、教皇の巨大な身体を貫いた。 光は瞬時に鎖の形となり、教皇の手足、翼、そして空間そのものを幾重にも縛り上げた。
その効果は、ただの金縛りではない。 対象の「時間」そのものを、その場に釘付けにする究極の固定。
迫っていた闇のビームが、俺たちの目の前でピタリと止まった。 空中の黒雷も、崩れ落ちる瓦礫も、そして教皇の驚愕に歪んだ表情も。 全てが、写真のように静止した。
『ナ……、ンダ……ト……? 身体ガ……時ガ……動カ……』
教皇の声が、スローモーションのように間延びし、やがて完全に途切れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」 俺は膝をつきそうになるのを、鍵を杖にして堪えた。 成功だ。神の動きを止めた。
「す、すごい……! あの化け物が、完全に止まってる!」 アリアが歓声を上げる。
「……ん。レン、かっこいい」 ミリスが俺の身体を支えてくれる。
「まだだ……! 時間は止めたが、あいつの防御までは破れてない!」 俺は脂汗を流しながら、止まった教皇を睨んだ。 『万象固定』の効果時間は短い。相手の魔力が強すぎて、せいぜい数十秒が限界だ。 その間に、あの鉄壁の虚無の装甲をぶち抜いて、核を破壊しなければならない。
「トドメはお前たちに任せる! あいつは今、防御行動も取れないただの的だ!」 俺は叫んだ。
「俺が固定を解除した瞬間、最大最強の一撃を叩き込め! あいつの胸にある『核』を狙え!」
「任されたッ!」 アリアが剣を構え、全身の魔力を燃え上がらせる。髪が炎のように逆立ち、瞳が紅蓮に輝く。
「私の全てを、この一撃に込める! ――『炎神・覇王断』!」
「……ん。私も、全力」 ミリスが杖を天に掲げる。周囲の空間が凍りつき、巨大な氷の槍が生成される。 「――『氷神・絶対穿孔』!」
「いくぞ……! 3、2、1……」
俺は鍵を握りしめ、教皇を見据えた。
「解除ッ!!」
バリンッ!! 時間の鎖が弾け飛ぶと同時、教皇が動き出そうとする。 だが、それより速く。
炎と氷、二つの神級魔法が、教皇の胸部コアへと吸い込まれていった。




