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砕け散る聖剣、明かされる世界の終焉

「動け……ない!? 馬鹿な、魔術的な拘束ではないだと!?」


 空中に縫い留められた聖騎士団長レオハルトが、必死に藻掻もがく。  だが、慣性を失った彼は、空気中のちり一つ動かすことができない。まるで時が止まった絵画のように、その場に張り付いている。


「鎧の性能は立派だが、中身がサンドバッグじゃ意味ないな」


 俺は冷たく言い放ち、指を弾いた。


「やっちまえ!」


「ありがたく殴らせてもらうわ! 『炎帝・一点突破フレイム・スティンガー』!」


 アリアが跳躍し、炎を極限まで圧縮した剣先を、レオハルトの鎧の胸部に突き立てた。  本来なら聖鎧『アイギス』が熱を拡散させるはずだが、俺が衝撃のベクトルを「内部へ浸透」するように固定しているため、逃げ場を失った熱と衝撃が全てレオハルトの肉体を襲う。


「ガハァッ……!?」


「……ん。おまけ。特大ハンマー」


 さらに上空から、ミリスが生成した数トンもの巨大な氷の塊が落下してくる。  ズドォォォンッ!!  氷塊はレオハルトの頭上を直撃し、その衝撃で彼は空中から弾き飛ばされ――俺が「慣性消去」を解除したことで、砲弾のように地面へと叩きつけられた。


 ドガァァァァンッ!!


 橋が半壊し、土煙が舞い上がる。  やがて煙が晴れると、そこにはボロボロになった白銀の鎧と、折れた聖剣が転がっていた。  レオハルトは血を吐きながら、震える手で地面を掴んでいた。


「な、なぜだ……。私の正義は……世界を救うための、完璧な……」


「完璧な正義なんてない」  俺は彼を見下ろした。「誰かを犠牲にする救済なんて、ただの妥協だ。お前は考えることをやめて、教皇の言いなりになっていただけだろ」


「……ぐ、うぅ……」  レオハルトは何かを言い返そうとしたが、そのまま意識を失い、ぐったりと崩れ落ちた。  命までは取らない。彼もまた、教団というシステムに踊らされた被害者の一人だ。


「行くぞ。この奥だ」


 俺たちは倒れた最強の騎士を乗り越え、ついに祭壇の奥にある「最後の扉」の前へと立った。  黄金の装飾が施された、巨大な両開きの扉。  そこから漏れ出す魔力は、今まで感じたどんな敵よりも静かで、そして絶望的に深かった。


「……レン。手が震えてる」  アリアが俺の手を握った。 「大丈夫。一人じゃないわ」


「……ん。一緒に行く」  ミリスも反対側の手を握る。


「ああ。……開けるぞ」


 ギィィィィ……。  重厚な扉が、俺たちの意志に応えるように開かれた。


          ◇


 扉の向こうは、異質な空間だった。  壁も床もない。ただ一面の「白」が広がる、無限の空間。  その中心に、一つだけポツンと置かれた純白の玉座。


 そこに座っていたのは、老人ではなかった。  透き通るような金髪と、中性的な美貌を持つ、十代前半に見える少年だった。  だが、その瞳だけが、数千年を生きた老人のように深く、濁っていた。


 白の教皇、イノケンティウス。


「――よく来ましたね。始祖の血を引く者、レン」


 少年が微笑むと、それだけで空間全体が震えた。声が耳ではなく、脳に直接響いてくる。


「貴方が……教皇?」  アリアが警戒して剣を構える。


「ええ。この崩れゆく世界の管理者であり、看取り人です」  教皇は玉座から立ち上がらず、優雅に足を組んだ。


「帝国の皇帝を倒し、私の可愛い騎士たちを退け、ここまで辿り着いた。……合格ですよ。貴方には、真実を知る資格がある」


「真実だと?」  俺は『王家の鍵』を握りしめ、一歩踏み出した。 「もったいぶるな。お前は何が目的だ? 『虚無』を使って、世界をどうするつもりだ?」


「どうする、ではありません」  教皇は悲しげに首を振った。


「この世界は、もう死んでいるのです」


「……は?」  俺たちは言葉を失った。


 教皇が軽く手を振ると、白い空間に映像が浮かび上がった。  それは、宇宙から見たこの惑星の姿だった。  だが、その星は――半分以上が黒く壊死し、崩れ落ちていた。


「見ての通りです。この世界は数千年前、未知のエネルギー『虚無』の侵食を受け、寿命を迎えました。  それを無理やり繋ぎ止めているのが、かつての始祖たちが作った『くさび』……すなわち、貴方が持っている『鍵』と、空間固定のシステムなのです」


 教皇の視線が、俺の手にある鍵に注がれた。


「世界は、延命治療を受けている植物状態の患者と同じ。  私はそれを終わらせたいのです。苦しみだけの生を終わらせ、全ての魂を『虚無』へと還し、高次元の存在へと統合する。……それが私の救済プロジェクト・エデンです」


「ふざけるな!」  俺は叫んだ。「勝手に終わらせるな! 俺たちは生きてる! アリアも、ミリスも、街の人たちも、みんな懸命に生きてるんだ!」


「それはプログラムされた生存本能に過ぎません」  教皇は冷徹に告げた。


「レン。貴方の両親がなぜ死んだか知っていますか?  彼らは気づいてしまったのです。この世界の『寿命』に。そして、鍵を使って世界を修理しようとしたが……絶望して、私の手によって解放されたのです」


「お前が……父さんと母さんを殺したのか……!」


 ブチッ。  俺の中で、何かが切れる音がした。


 世界の真実? 寿命? 知ったことか。  こいつは俺から家族を奪い、今また俺の大切な人たちを消そうとしている。


「理屈はどうでもいい」  俺は魔力を暴走寸前まで高め、教皇を睨み据えた。


「俺は修理屋だ。世界が壊れてるなら直す。寿命が尽きてるなら、寿命ごと『固定』して引き伸ばす。  ……だが、お前だけは、ここで完全に破壊デリートする!」


 最終決戦。  神を騙る少年と、世界に抗う少年の戦いが、今始まる。

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