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聖域の守護者と、歪んだ忠誠

 巨大な扉をくぐり抜けた先に広がっていたのは、予想を裏切る光景だった。  そこは地下深くのはずだが、天井が見えないほど広大なドーム状の空間になっていた。  壁面は発光する白い結晶で覆われ、空間全体が昼間のように明るい。そして中央には、一本の長い橋が架かり、その先にある巨大な祭壇へと続いている。


「……きれい。でも、すごく静か」  ミリスが周囲を警戒しながら呟く。


「ああ。静かすぎて不気味だ」  俺は橋のたもとで足を止めた。  『空間把握』が告げている。この橋の中央に、とてつもなく強大で、研ぎ澄まされた魔力が存在していることを。


「ようこそ、罪深き迷い人たちよ」


 凛とした声が響き渡った。  橋の中央、光の中に一人の騎士が立っていた。  全身を輝く白銀の鎧で包み、背中には白いマント。手には身の丈ほどもある巨大な聖剣を携えている。


 その顔立ちは端正だが、瞳には氷のような冷徹な光が宿っていた。


「私は聖騎士団長、レオハルト。教皇聖下へと続くこの『天の回廊』を守護する者だ」


「聖騎士団長……。一番偉い騎士様ってわけね」  アリアが剣を構え、ジリジリと間合いを詰める。「そこを退いてくれないかしら? 私たちは教皇に用があるの」


「退くことはない」  レオハルトは静かに首を振った。「ここを通れば、貴様らは教皇聖下の崇高な計画を邪魔することになる。それは世界に対する反逆だ」


「崇高な計画だと?」  俺は一歩進み出た。「人々の心を奪い、絶望を吸い上げてエネルギーにするのが崇高なのか? お前も見たはずだ、あの工場の惨状を」


「知っている」  レオハルトは眉一つ動かさずに答えた。 「だが、それは必要な代償だ。世界を『虚無』の侵食から救い、恒久の平和をもたらすためには、個の犠牲など些細なこと」


「……本気で言ってるのか」  俺は呆れた。 「洗脳されているわけじゃなさそうだな。お前は自分の意思で、あの地獄を肯定しているのか」


「肯定する。私は秩序の剣。大義のためならば、自らの手さえも汚そう」  レオハルトが聖剣を構えると、刀身から眩い黄金の光が溢れ出した。


「Sランク『銀翼』。貴様らの力は危険すぎる。ここで粛清する!」


 ドォォォォンッ!!  レオハルトが踏み込んだ瞬間、橋の床石が爆ぜた。  速い。重装備とは思えない神速の踏み込み。


「させない! 『氷壁アイス・ウォール』!」  ミリスが即座に氷の壁を展開する。


 だが、レオハルトは止まらない。 「神聖術・『断罪のジャッジメント』」


 彼が聖剣を一閃させると、黄金の斬撃が氷壁を紙のように切り裂き、そのまま俺たちへと迫った。


「くっ! 『空間固定』――防御!」  俺は見えない盾を展開して防ぐが、重い衝撃が腕に走る。  ただの魔力じゃない。空間そのものを焼き切るような高密度のエネルギーだ。


「アリア、反撃だ!」 「任せて! スピード勝負なら負けないわよ!」


 アリアが炎を纏って疾走し、レオハルトの死角へ回り込む。 「もらった! 『炎閃』!」


 ガギィィンッ!


「なっ!?」  アリアの斬撃は、レオハルトが背中も見ずに振るった聖剣によって完璧に防がれていた。 「軽いな。迷いがある剣だ」


 レオハルトが手首を返し、強烈なカウンターを放つ。  アリアはとっさに剣で受けるが、凄まじい膂力りょりょくに弾き飛ばされ、橋の上を転がった。


「きゃあああっ!」 「アリア!」


「次は貴様だ、魔導師」  レオハルトがミリスに狙いを定める。


「……ん。来させない」  ミリスが杖を掲げ、絶対零度の吹雪を放つ。  だが、レオハルトの鎧が白く輝き、冷気を弾いていく。 「聖鎧『アイギス』。あらゆる魔術的干渉を無効化する。貴様の氷など、涼風に過ぎん」


 強い。  帝国のエイトのような力押しでも、イズマイルのような搦め手でもない。  純粋に、武人としての技量と装備の性能が段違いに高い。これが人類最強クラスの騎士か。


「レン、どうする!? 魔法も物理も通じにくいわよ!」  アリアが体勢を立て直しながら叫ぶ。


「……真っ向勝負で勝てる相手じゃないな」  俺は冷静に分析した。  奴の聖剣は、俺の『固定』すら切り裂きかねない威力がある。そして鎧は魔法を弾く。  攻防ともに隙がない。


 だが、どんなに完璧な要塞にも、必ず「継ぎ目」はある。


「レオハルト。お前は言ったな。『大義のために手を汚す』と」  俺は『王家の鍵』をブラブラとさせながら歩み寄った。


「その覚悟は立派だが、それがお前の弱点だ。お前は自分の正義に酔いすぎて、足元が見えていない」


「何だと……?」  レオハルトが剣呑な目を向ける。


「見せてやるよ。お前の信じる『秩序』がいかに脆いかをな」


 俺は鍵を構えた。  狙うのはレオハルト自身ではない。彼が絶対の信頼を置いている、その「足場」だ。


「『空間固定』――座標・剥離セパレート


 俺はレオハルトが立っている空間の座標を、この橋の座標から切り離した。


 ズズズズッ……!  レオハルトの足元の空間だけが、パズルのピースのようにズレ始めた。


「小賢しい真似を!」  レオハルトは跳躍し、空中で聖剣を振りかぶった。 「空に逃げれば関係ない! この一撃で消し飛べ! 『聖剣技・天断』!」


 上空からの必殺の一撃。  だが、俺はそれを待っていた。


「空中に浮いたな? ――そこが俺の土俵だ」


 俺は鍵を上空へ向けた。


「『物理固定』――慣性消去ゼロ・イナーシャ


 俺はレオハルトの落下エネルギーと、剣を振るう運動エネルギーを、その瞬間に「ゼロ」に固定した。


「な……ッ!?」


 空中で、レオハルトの動きがピタリと止まった。  重力に引かれることもなく、剣を振るう勢いもなくなり、ただのマヌケなポーズで空中に縫い留められる。


「力も速さも関係ない。エネルギーがゼロなら、ただの置物だ」


 俺はアリアとミリスに合図を送った。


「今だ! 動けない騎士様を料理してやれ!」


「やった! サンドバッグね!」 「……ん。カチコチにする」


 Sランクの全力攻撃が、無防備な聖騎士団長へと殺到する。

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