夜明けの鉄都と、東方への旅路
半壊した帝城の謁見の間。 天井の大穴から差し込む陽光が、瓦礫の山と、かつて絶対権力を誇った老人の背中を照らしていた。
「うぅ……余の理想が……新世界が……」 ガリウスは力なく床に這いつくばり、虚空に向かって何かを掴もうとしていた。その姿に、もはや皇帝としての威厳はない。
「終わりだ、ガリウス」 俺は『王家の鍵』を懐にしまい、彼を見下ろした。 「あんたの野望は潰えた。……これからは、生身の老人として罪を償うんだな」
その時、広間の入り口から、軍靴の音が響いた。 多数の兵士を率いて現れたのは、隻眼の将校ヴァルターだった。
「……動くな」 アリアとミリスが即座に武器を構える。
だが、ヴァルターは銃を抜かなかった。 彼は倒れている皇帝と、俺たちの姿を交互に見ると、深く息を吐き、部下たちにハンドサインを送った。
「武器を収めろ。……戦闘終了だ」
「なっ、師団長!? しかし奴らは!」 「見ろ。皇帝陛下は敗れ、虚無の力は消え失せた。これ以上戦って何になる? 帝都を更地にするつもりか?」
ヴァルターの一喝に、兵士たちは戸惑いながらも銃を下ろした。 ヴァルターは俺の前に進み出ると、軍人らしく背筋を伸ばした。
「『銀翼』のレン。……我々の完敗だ。帝国の誇る科学力も、皇帝陛下の『進化』も、貴様という規格外には通じなかった」
「俺たちを捕まえる気はないのか?」
「今の我々にそんな余力はない。それに……」 ヴァルターは天井の大穴を見上げた。 「空気が変わった。ずっとこの街を覆っていた、重苦しい鉛のような圧迫感が消えたのだ。……貴様がやったのだろう?」
「ああ。ついでに空気清浄もしておいた」
ヴァルターは苦笑し、敬礼をした。 「感謝はしない。だが、認めよう。貴様は破壊者ではなく、変革者だったとな」
彼は部下に命じてガリウスを拘束させた。 「皇帝陛下は我々が裁く。そして、帝国の立て直しは我々軍部が行う。……貴様らは行け。ここにはもう、用はないはずだ」
「ああ。そうさせてもらう」
俺たちはヴァルターに背を向け、崩れかけた城を後にした。
◇
城を出ると、帝都の街並みは夕暮れに染まっていた。 街中の至る所から、市民たちが恐る恐る顔を出している。機械化された身体を持つ彼らだが、その瞳には、今までなかった「生気」が戻りつつあった。
「……ふぅ。長かったような、短かったような」 アリアが大きく伸びをする。 「でも、これで一件落着ね! 次は温泉でも……って言いたいところだけど」
「まだ、終わってない」 ミリスが東の空を指差した。
大陸の東。 そこには、世界最大の宗教国家『聖都エデン』がある。 そして、全ての元凶である教皇が俺たちを待っている。
「……レン。本当に行くの?」 アリアが真剣な顔で俺を見た。「教皇って、たぶん皇帝よりヤバいわよ。世界中の信者を操ってるし、何より『鍵』のことを知ってた」
「ああ。あいつは世界の真理を知っている。そして、それを使って何かをしようとしている」 俺は東の空を見据えた。
「俺たちがここで逃げれば、いずれ世界はあいつの思い通りに書き換えられる。……行くしかないだろ」
二人は顔を見合わせ、そして力強く頷いた。
「ま、そう言うと思った! 付き合うわよ、地獄の果てまで!」 「……ん。レンの背中は私が守る。絶対に死なせない」
「頼もしいな」 俺は二人の頭を撫でた。
「よし、出発だ。まずは補給と休息。それから……」
俺は『亜空間倉庫』から、予備の食料と地図を取り出した。
「東への長旅だ。この『銀翼』の最後の仕事になるかもしれない。……気合入れていくぞ」
「「おーっ!!」」
こうして俺たちは、鉄の都を背に、最後の決戦の地へと歩き出した。 その背中を、帝都の市民たちが、いつまでも静かに見送っていた。




