三位一体の猛攻と、断絶された思考回路
「排除。排除。排除」
機械的な声が三重奏のように重なり、三人の『兄弟』たちが同時に動き出した。
正面から突っ込んでくるのは、大剣を構えた剣士タイプ・No.05。 その影に滑り込み、姿を消したのは暗殺者タイプ・No.06。 そして後方で杖を掲げ、援護射撃の構えを取るのは魔導師タイプ・No.04。
「来るわよ! レン、背中は任せた!」 アリアが炎の剣で迎撃に出る。
ガギィィィンッ!!
No.05の大剣とアリアの剣が激突し、火花が散る。 力は互角。だが、その瞬間だった。
ヒュッ。 アリアの死角である足元の影から、No.06が飛び出した。毒塗りの短剣がアリアの脇腹を狙う。
「させない!」 俺は『空間固定』で不可視の盾を展開し、短剣を弾く。
だが、俺が防御に意識を割いた隙を、後方のNo.04が見逃さなかった。
「『虚無の雷』」
紫色の雷撃が、俺とアリアの頭上から降り注ぐ。 回避不能のタイミング。 完璧だ。個々の力はSランクには及ばないが、その連携は、まるで一つの生き物のように隙がない。
「……ん。『鏡面氷壁』!」
ミリスが杖を振るい、空中に氷の鏡を作り出した。 雷撃が鏡に反射し、天井のモニターを破壊する。
「ふぅ……危なかった。ありがと、ミリス!」 アリアが冷や汗を拭うが、敵の攻撃は止まらない。
No.05が剛剣を振るう隙間に、No.06がナイフを投げ、No.04が爆撃を加える。 息つく暇もない波状攻撃。
「素晴らしいだろう?」 玉座で頬杖をつきながら、ガリウス皇帝が愉悦の笑みを浮かべる。 「彼らの思考は並列化されている。視覚、聴覚、戦況判断……全てを瞬時に共有し、最適解を導き出す。貴様らのような『個』の集まりでは、この『群』の統率には勝てんよ」
「思考共有……なるほどな」 俺はNo.06の斬撃を紙一重でかわしながら、ニヤリと笑った。 「便利な機能だ。だが、便利すぎる機能ってのは、それが無くなった時に脆いもんだぜ」
俺は『空間把握』の感覚を極限まで研ぎ澄ませた。 見える。 三人の『兄弟』の間を行き交う、微弱な魔力の波長。高速で情報をやり取りしている通信シグナルだ。
「アリア、ミリス! 三十秒だけ持ちこたえてくれ! 俺が奴らの『脳みそ』を焼き切る!」
「三十秒ね! 了解!」 「……ん。凍らせて時間稼ぐ」
二人が前線で奮闘する間に、俺は『王家の鍵』を高く掲げた。 狙うのは敵の肉体ではない。彼らを繋ぐ、見えない糸だ。
「電波が飛び交う空間は、俺の庭だ」
俺は空間内の魔素の振動を感知し、その特定の周波数だけを狙い撃ちにする。
「『事象固定』――通信途絶」
キィィィィン……!
俺を中心に見えない波紋が広がり、広間全体の空間が微かに震えた。 俺は、三人の間で交わされる情報伝達の魔力波を、その場で『固定(停止)』させたのだ。 命令が届かない。視界が共有できない。
その結果――。
「――ッ!?」 「ガ、ガッ……?」
No.05が大剣を振り下ろそうとして、突然動きを止めた。 連携のタイミングがズレたのだ。 その直後、本来ならNo.05が避けているはずの場所へ、後方のNo.04が放った魔法弾が直撃した。
ドォォンッ!! 「グァッ!?」
No.05が背中を焼かれてよろめく。 さらに、連携攻撃のために飛び出したNo.06が、よろめいたNo.05の体と激突し、二人揃って無様に転倒した。
「な、何!? 連携が乱れただと!?」 皇帝が身を乗り出す。
「思考を共有してるってことは、自分の目や耳を使わなくなってるってことだ」 俺は混乱する三兄弟を見下ろした。 「回線が切れた瞬間、自分がどう動けばいいかわからなくなる。……所詮は操り人形だ」
俺は指を弾いた。 「今だ! まとめてやっちまえ!」
「オッケー! 隙だらけよ!」 アリアが炎を最大火力まで高める。 「『紅蓮旋風』!」
「……ん。『氷塊乱舞』」 ミリスも無数の氷の礫を放つ。
炎と氷の嵐が、統率を失った三人を飲み込んだ。 個々の防御行動も取れず、彼らは為す術もなく吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。
煙が晴れると、そこには半壊した「兄弟」たちの残骸と、無傷の俺たちが立っていた。
「……見事だ」 皇帝がゆっくりと拍手をした。その表情に焦りはない。 「まさか情報伝達網そのものを物理的に遮断するとはな。その発想、そして実行する技術……やはり貴様の『固定』は、我が計画に不可欠なピースだ」
「褒め言葉はいらない。これで手駒は全滅だろ?」 俺は鍵を皇帝に向けた。「降りてこいよ。あんたも『固定』してやる」
「ククク……手駒? 勘違いするな」 皇帝が玉座の肘掛けにあるスイッチを押した。
ズズズズズ……ッ!
地響きとともに、謁見の間の床が割れ始めた。 そこからせり上がってきたのは、巨大なカプセルに封印された、ドス黒い闇の塊――『原初の虚無』の欠片だった。
「これを見ても、まだ勝てると思うか?」
皇帝の背中のパイプが、その闇の塊と接続される。 瞬間、皇帝の機械の体が膨張し、異形の姿へと変貌を始めた。
「余が自ら相手をしてやろう。帝国の叡智と虚無の力が融合した、神の如き力をな!」
帝国のラスボス、ガリウス皇帝との最終決戦が幕を開ける。




