鉄の都の歓迎と、皇帝の招待状
「……ようこそ、帝都へ。歓迎しよう、Sランク『銀翼』」
城門のスピーカーから響いた声。 それに呼応するように、城壁の上に並んでいた銃口が、一斉に下ろされた。 攻撃の合図ではない。銃を引くという意思表示だ。
「撃ってこないのか?」 アリアが剣を構えたまま訝しむ。
「……ん。罠の匂いしかしない」 ミリスも杖を握り直すが、俺はデッキの上から城門を見下ろして鼻を鳴らした。
「罠だろうな。だが、向こうから招いてくれるなら好都合だ」
ギギギギ……。 重苦しい金属音とともに、巨大な鋼鉄の城門が左右に開いていく。 その向こうから、一人の男が歩いてきた。 グラストヘイムの街で司教を見捨てて逃げた、あの隻眼の将校――ヴァルターだ。
「特急列車を乗っ取り、あまつさえ最新鋭の実験体(No.08)を葬るとは。……予想以上の戦力だ」 ヴァルターは憎々しげに俺たちを睨んだが、すぐに感情を押し殺して敬礼した。
「皇帝陛下がお待ちだ。武装解除は求めない。そのまま付いて来い」
「へぇ。随分と余裕だな」 俺たちは列車を飛び降り、ヴァルターの先導で帝都の中へと足を踏み入れた。
◇
帝都ガレリア。 そこは、王都とはまるで違う、煤と蒸気の世界だった。
石造りの建物には無数のパイプが張り巡らされ、空を覆う鉄の回廊を蒸気機関車が行き交う。 行き交う市民たちの服は灰色で、その多くが体の一部を機械化していた。 義手、義足、人工臓器。 ここでは、肉体を機械に置き換えることが「進化」であり「忠誠」の証なのだろう。
「……息が詰まりそう」 アリアが小声で言う。「みんな、死んだ魚みたいな目をしてる」
「これが帝国の『秩序』ってやつさ」 俺は冷ややかに周囲を観察した。 『空間把握』で見ると、街全体に微弱な『虚無』の魔力が流れているのがわかる。この街は、市民の生命力を吸い上げ、何かの動力源にしている。
俺たちは街の中央、黒い鉄の塔のように聳える『帝城』へと案内された。 長い回廊を抜け、最上階の謁見の間へ。
プシュー……。 自動扉が開くと、そこには広大な空間が広がっていた。 壁一面のモニター。天井まで届く巨大なパイプオルガン。 そして、無数のケーブルに繋がれた玉座に、その男は座っていた。
ガレリア帝国皇帝、ガリウス・フォン・アイゼン。
「――よく来た、始祖の末裔よ」
しわがれた、だが腹の底に響くような声。 皇帝は老人だった。だが、その体は首から下が完全に機械化されていた。 生命維持装置と一体化した、鋼鉄の帝王。
「お前が皇帝か。随分と物々しい椅子だな」 俺が皮肉を言うと、側近たちが色めき立ったが、皇帝は手で制した。
「我が肉体は衰えたが、精神は鋼の如し。……レンと言ったな。単刀直入に聞こう。余の配下になれ」
「断る」 俺は即答した。「俺は誰かの道具になるつもりはない。特にお前のような、世界を壊して平然としている奴の下にはな」
「世界を壊す? ククク……違うな。余は世界を『進化』させているのだ」
皇帝の義眼が赤く光った。 背後のモニターに、世界地図が映し出される。そこには無数の赤い点――『空間の亀裂』が表示されていた。
「古の始祖たちは、『虚無』を封印することを選んだ。だが、それは問題を先送りにしただけだ。現に封印は綻び、世界は滅びに向かっている」 「だからって、亀裂を広げてエネルギーにするのが正解か?」
「力無き者は淘汰される。それが自然の摂理だ」 皇帝は傲然と言い放った。 「余は『虚無』を制御し、人類を新たな次元へと進化させる。機械と融合し、虚無に耐えうる強靭な肉体を手に入れるのだ。……貴様の細胞から作った『兄弟』たちのように」
「……狂ってるな」 俺は吐き捨てた。 「適合できない人間はどうなる? 要塞で見た捕虜たちのように、燃料として使い潰すのか?」
「貴い犠牲だ。全人類を救うことはできぬ。ならば、選ばれし強者だけが生き残る箱舟を作る。それこそが王の責務よ」
皇帝の論理は、残酷なまでに合理的だった。 だが、俺は認めない。 父さんと母さんが守ろうとしたのは、そんな冷たい世界じゃない。
「俺の答えは変わらない」 俺は『王家の鍵』を握りしめ、皇帝を指差した。 「俺は『修理屋』だ。お前が壊そうとする世界を直し、お前のような歪んだ野望を『固定』させる」
「……交渉決裂か。残念だ」
皇帝が指を鳴らした。 カシャカシャカシャッ! 謁見の間の天井や壁が展開し、無数の銃口と、黒いローブを纏った人影が現れた。
三人。 No.13やNo.08と同じ、俺の顔をした「兄弟」たちだ。
「ならば、貴様はただの素材として処理する。……やれ、No.04、05、06」
「了解、マジェスティ」
機械的な声とともに、三人の「兄弟」が同時に襲いかかってきた。 魔法タイプ、剣士タイプ、そして暗殺者タイプ。 連携の取れた波状攻撃が、俺たちを襲う。
「アリア、ミリス! ここが正念場だぞ!」 「望むところよ! こんな鉄屑の城、解体してやるわ!」
鉄の都の中心で、Sランクパーティと帝国の最高戦力が激突する。




