轟く魔導列車と禁忌の積荷
「――チッ! もう動き出しているぞ!」
地下プラットホームに駆け込んだ俺たちの目に飛び込んできたのは、重厚な駆動音を響かせて加速を始めた、漆黒の装甲列車の姿だった。 全長数百メートル。先頭車両は鋭利な衝角を備え、まるで黒い鉄の蛇が地を這うようだ。 『特急・ヨルムンガンド』。帝国の威信をかけた軍用魔導列車だ。
「待ちなさいよ! 逃げんなーッ!」 アリアが叫びながら走るが、列車はすでに全速力に近い速度を出しており、どんどん遠ざかっていく。
「追いつけるか……? いや、追いつく!」
俺は走るのをやめ、右手を前方に突き出した。 列車の最後尾、そのわずか数センチ後ろの空間を見据える。
「『空間固定』――牽引フック!」
俺は空間に見えない「突起」を作り、それを列車の後部に引っかけた。 そして、自分の腰と、アリア、ミリスの腰を、その突起と魔力の鎖で繋いだ。
「うわっ!? レン、何する気!?」 「振り落とされるなよ!」
ガクンッ!!
次の瞬間、俺たちの体は猛烈な勢いで前方へ引っ張られた。 列車の速度と同じスピードで、強制的に牽引される。風圧で顔が歪むが、俺は足元に『摩擦ゼロ』の固定を施し、地面を滑るようにして列車に肉薄した。
「とぉっ!」
最後尾のデッキに飛び移る。 アリアとミリスも、悲鳴を上げながらもなんとか着地した。
「はぁ、はぁ……! 死ぬかと思ったわよ!」 「……ん。ジェットコースターより怖い」 二人がへたり込むが、休んでいる暇はない。列車はすでに地下トンネルを抜け、地上の荒野を爆走していた。
「中に入るぞ。積荷を確認しないと」
俺は最後尾車両のドアを『固定』解除してこじ開け、中へと侵入した。
◇
車内は薄暗く、消毒液と油の混じったような不快な臭いが充満していた。 壁には太いパイプが這い回り、紫色の液体が脈打つように流れている。
「……気持ち悪い」 ミリスが口元を覆う。「この液体、要塞にあったのと同じ。『虚無』の高濃度凝縮液」
「これを帝都に運んで、何をするつもりだ……」
俺たちは警戒しながら、車両を一つずつ進んでいった。 そして、三両目に足を踏み入れた時、俺たちは言葉を失った。
そこは、巨大な冷蔵庫のようだった。 壁の両側に、人間大のガラスカプセルがずらりと並んでいる。 青白い保存液の中に浮かんでいるのは――人間だ。 それも、全員が同じ顔をしている。
黒髪に、整った顔立ち。 俺によく似た、けれど魂の抜けたような人形たち。
「これ……全部、レンのコピー?」 アリアが青ざめる。
「失敗作だな」 俺はカプセルの一つに触れた。 「空間魔法の適性を持たせるために、俺の遺伝子情報を使って肉体を培養したんだ。だが、こいつらには意識がない。ただの『素体』だ」
No.13は「成功例」だった。 ここにあるのは、そこに至るまでの何百、何千という屍の山だ。 俺の血が、こんなおぞましい実験に使われていたなんて。
ギリッ、と拳を握りしめた時。
『――ようこそ。我が兄弟の源流よ』
車内放送のスピーカーから、ノイズ混じりの声が響いた。 No.13の声ではない。もっと低く、獣のような唸りを含んだ声だ。
『弟の13号が世話になったな。奴は我らの中でも一番のひ弱だったが……まさか、こうも早く貴様をここに招き入れるとは』
「誰だ」 俺は虚空を睨みつけた。
『俺はNo.08(エイト)。この列車の護衛にして、貴様を葬る者だ』
ゴゴゴゴゴ……!
列車の天井から、機械のアームが降下してきた。 先端には赤いレンズのついた警備用ドローンがぶら下がっている。
『帝都に着くまでの暇つぶしだ。せいぜい足掻いて見せろ』
カシャッ。 ドローンの銃口が光り、同時に車両の前後の扉がロックされた。
「迎撃するぞ!」 「わかってるわよ! こんな悪趣味な場所、ぶっ壊してやる!」
アリアが剣を抜き、狭い車内を駆け抜ける。 ドローンから放たれたレーザーを剣で弾き返し、そのままアームごと両断する。
「……ん。『氷結』」 ミリスが床を凍らせ、カプセルの陰から現れた小型の機工兵たちを転倒させる。
「『空間固定』――射線封鎖」 俺は空中に見えない盾を固定し、十字砲火を防ぐ。
雑魚は問題ない。 だが、この列車自体が罠だ。 先頭車両にいるであろうNo.08。奴は「ひ弱だった」と13号を評した。 ということは、奴は空間魔法以外の「何か」に特化したタイプか?
「急ぐぞ。帝都に着く前に、このふざけた列車を止める」
俺たちは敵の残骸を踏み越え、先頭車両へと走った。 窓の外の景色が、ものすごい速度で後方へと流れていく。 決戦の舞台は、暴走する鉄の箱庭。
そこで待つ新たな「兄弟」は、俺の想像を超える異形だった。




