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魔導工場の闇と、暴走する鉄蜘蛛

 ズドォォォォンッ!!


 巨大な鋼鉄のゲートが、内側へくの字に曲がって吹き飛んだ。  砂煙が舞う中、俺たちは悠然と『オルト要塞』の内部へと足を踏み入れた。


「ひぃッ!? ば、化け物だ! ゲートを魔法もなしに破壊したぞ!」 「撃て! 撃ち続けろ! 奴らを中に入れるな!」


 要塞の中庭はパニック状態だった。  無数の銃弾が飛んでくるが、俺は『物理固定・反射』を展開したまま歩き続ける。弾丸は俺の手前50センチで見えない壁に当たり、乾いた音を立てて地面に落ちるか、射手の方へ跳ね返っていく。


「……趣味が悪いわね」  隣を歩くアリアが、周囲の景色を見て顔をしかめた。


 そこは、軍事基地というよりは巨大な工場のようだった。  空を覆う黒い排煙。  地面を這う無数のパイプライン。  そして、建物のガラス越しに見える、ベルトコンベアに乗せられた大量の『機工魔人マキナ・ソルジャー』のパーツ。


「ここで生産していたのか。……ミリス、あのパイプの中身、わかるか?」 「……ん。すごく嫌な感じがする」


 ミリスがパイプに触れようとして、指先を引っ込めた。 「ただの魔力じゃない。生き物の……恐怖とか、痛みみたいなのが混ざってる」


「やっぱりな」  俺はパイプラインの行き着く先、要塞の中央に鎮座する巨大なドーム状の施設を睨んだ。


 帝国の技術の根幹。  それは、捕らえた魔導師や、空間の亀裂から抽出した『不安定なエネルギー(虚無)』を、無理やり機械の動力として押し込める禁忌の技術だ。  No.13が言っていた「強化魔導骨格」も、そうやって作られたのだろう。


「おいおい、勝手に見学とはいい度胸だな、ネズミども」


 ドームの前から、地響きのような駆動音が聞こえてきた。  地面のアスファルトが割れ、巨大な影が姿を現す。


 全長十メートル。八本の多脚を持つ、巨大な鋼鉄の蜘蛛。  その背中には戦車のような砲塔が乗っており、コクピットにはニヤついた男が座っていた。


「要塞司令のドズルだ。我が愛機『アラクネ・ギガント』の餌食になってもらおうか!」


「蜘蛛か。……アリア、虫は好きか?」 「大ッ嫌いよ!」  アリアが即答し、剣に炎を纏わせる。


「排除開始!」  ドズルの操る多脚戦車が、巨体に似合わない俊敏さで飛び跳ねた。  八本の脚が機関銃のように突き出され、コンクリートの地面を粉砕しながら俺たちに迫る。


「『氷壁アイス・ウォール』!」  ミリスが氷の壁を作るが、鋼鉄の脚はいとも容易くそれを貫通し、粉砕した。  純粋な物理質量とパワー。小手先の魔法防御では受けきれない。


「ヒャハハハ! この装甲は『対魔素材』コーティング済みだ! 貴様らの魔法など通じわァッ!」


 さらに、戦車の主砲――紫色の光を帯びた砲口が、俺たちに向けられた。


「消し飛べ! 『虚無収束砲ヴォイド・カノン』!」


 ドォォォンッ!!  空間を抉り取るような極太のビームが発射された。  これは反射できない。ビームそのものが空間を侵食する性質を持っているからだ。


「散開!」


 俺の指示と同時に、三人は別々の方向へ跳んだ。  ビームが着弾した背後の兵舎が、音もなく半円状に消滅する。


「あぶなっ! あんなの食らったら即死じゃない!」  アリアが冷や汗を流す。


「チョロチョロと! 次は外さん!」  多脚戦車が旋回し、再び砲口を俺に向ける。


「……面倒な玩具だ」  俺は立ち止まった。  逃げ回っていても埒が明かない。それに、あの砲撃を街中で撃たれたら被害甚大だ。ここでスクラップにする。


「レン、どうするの!? 魔法が弾かれるわよ!」 「弾かれるのは『外側』からの魔法だろ?」


 俺はニヤリと笑い、右手を突き出した。  狙うのは戦車そのものではない。戦車が踏みしめている『地面』だ。


「『空間固定』――接地ロック」


 俺は、多脚戦車の八本の脚が地面に触れた瞬間、その接地面の座標を『固定』した。


「発射ァァァ……ん? ぬおおっ!?」


 ドズルが砲撃のために機体を踏ん張ろうとした瞬間、異変が起きた。  脚が地面から離れない。  まるで大地と一体化したように、ピクリとも動かなくなったのだ。


「な、なんだ!? 故障か!?」 「いいや、お前の足は今、地球の一部になったんだよ」


 俺は指を弾く。 「アリア、今だ! 動けないマトなら外さないだろ?」


「任せて! ……あの大砲、ムカつくから詰めちゃえ!」


 アリアが跳躍し、戦車の砲身の上に着地した。  そして、自分の剣を逆手に持ち、砲口の中に深々と突き刺した。


「『爆炎・内部炸裂イグニッション・バースト』!!」


 アリアが魔力を流し込むと、砲身の内部で膨大な熱エネルギーが膨れ上がった。  だが、砲口は剣で塞がれている。  行き場を失ったエネルギーは、逆流して機関部へとなだれ込む。


「ぎゃああああッ!?」


 ドズルの悲鳴とともに、多脚戦車の内部から眩い光が漏れ出した。  ボンッ、ボボボボンッ!!  装甲の継ぎ目から爆炎が噴き出し、巨体が内側から崩壊していく。


 アリアが華麗にバック宙で離脱すると同時に、巨大な鋼鉄の蜘蛛は、黒煙を上げて崩れ落ちた。


「……ふぅ。一丁上がり」  俺は固定を解除した。


 司令官を失い、最強兵器も破壊された帝国兵たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。  制圧完了だ。


「レン、これを見て」  ミリスが、破壊された司令室の残骸から一枚の書類を見つけてきた。  それは鉄道の運行予定表だった。


「……『帝都行き・特別装甲列車。積荷:No.シリーズ素体および虚無凝縮液』……?」


 俺はその文字を見て、目を細めた。  この要塞はただの工場だ。本命の研究所や、教団との接点は、やはり帝都にある。  そして、この要塞の地下駅から、直通の列車が出るらしい。


「決まりだな」  俺は二人に振り返った。


「次の乗り物は列車だ。……帝都ガレリアまで、一気に殴り込みといこう」


 俺たちは黒煙を上げる要塞の深部、地下プラットホームへと向かった。  そこで待つのは、鋼鉄の国の中枢へと続く、地獄行きの特急列車だ。

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