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王家の遺産と、無限の収納庫

「カンパーイ!!」


 冒険者ギルドに併設された酒場は、今夜、かつてないほどの熱気に包まれていた。  主役はもちろん、俺たち『銀翼』だ。


「いやぁ、めでたい! ギルバートさんを倒してSランクとはな! 俺たちの誇りだよ!」 「レン君、こっちのテーブルにも来てよ!」 「アリアちゃん、その剣さばきどうやったの!?」


 冒険者仲間たちが次々と酒や料理を運んでくる。  かつて俺を「ゴミスキル」と嘲笑った連中は、もうここにはいない。ここにいるのは、俺たちの実力を認め、共に祝ってくれる仲間たちだけだ。


「ふふっ、お酒が美味しいわね! 今日は私が奢りよー!」  アリアがジョッキを片手に上機嫌だ。 「……ん。アリア、飲みすぎ。明日二日酔い確定」  ミリスが冷静にジュースを啜りながら、アリアの背中をさすっている。


 俺はその喧騒を微笑ましく眺めながら、カウンターの隅で一人、手の中にある『王家の鍵』をいじっていた。


(ギルバートさんとの戦いで、感覚が少し変わったんだよな……)


 俺は鍵に微弱な魔力を流し込む。  北の遺跡で父さんのホログラムが言っていた。「お前のスキルは、物理法則を繋ぎ止める王の力だ」と。


 もし、この鍵が始祖王朝の遺産を管理するための端末だとしたら。  「空間」を管理する機能が、他にもあるんじゃないか?


「……『空間固定』・拡張エキスパンド


 俺が鍵を回すような仕草をすると、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。  何もない空中に、黒い穴――いや、裏返ったポケットのような空間が開いた。


「お? なんだいレン、また新しい手品か?」  隣で飲んでいた顔馴染みの戦士が目を丸くする。


「手品じゃないですよ。ちょっとした実験です」


 俺はテーブルの上の空いた皿を、その黒い穴に入れてみた。  皿は抵抗なく吸い込まれ、完全に姿を消した。  そして、俺が「出ろ」と念じると、再び俺の手元にパッと出現した。


「成功だ……。『亜空間倉庫インベントリ』ってところか」


 空間の一部を切り取って「固定」し、自分に追従させる。  内部の時間は止まっているため、熱い料理は熱いまま、冷たい氷は溶けないまま保存できる。しかも、容量は魔力が続く限りほぼ無限だ。


「すげぇ! それがあれば、重い荷物を持たずに済むじゃねぇか!」 「かつての『荷物持ち』が、究極の荷物運びスキルを手に入れちまったな」  周囲の冒険者たちが感心して笑う。


 俺も苦笑した。  確かに皮肉だ。だが、これでもう馬車に頼らずとも、大量の水や食料、予備の武器を持ち運べる。長期遠征には必須の能力だ。


「よし。じゃあ次は、こっちの実験だな」


 俺は酔っ払っているアリアと、ミリスを呼んだ。 「二人とも、ちょっと武器を貸してくれ」


「んぁ? いいけど……レン、私の剣、ボロボロよ?」  アリアが腰から剣を抜き放つ。  愛用の炎属性の魔剣だが、北の氷河での激戦と、ギルバートさんとの打ち合いで、刃こぼれが酷く、刀身にはヒビが入っていた。  ミリスの杖も同様で、魔力伝導率が落ちてしまっている。


「Sランクの依頼をこなすには、今の装備じゃ心許ないからな。買い換えるのもいいが……せっかくだから強化アップデートしてみようか」


「強化? 鍛冶師でもないのに?」


「鍛冶とは違うアプローチさ」


 俺は『王家の鍵』をアリアの剣にかざした。  イメージするのは、物質の分子結合の『固定』。  刃こぼれしている部分の金属分子を再構成し、最も鋭く、最も強固な状態で結合をロックする。


「『状態固定』――絶対硬度アダマンタイト・クラス


 キィィィン……!  剣が眩い光を放つ。  光が収まると、そこには新品同様――いや、それ以上に冷徹な輝きを放つ剣があった。  ヒビは完全に修復され、刃先は触れるだけで空気を切り裂きそうなほど研ぎ澄まされている。


「うそ……!? 新品より軽いし、魔力の通りが段違いだわ!」  アリアが剣を振ると、ヒュンッと恐ろしい音が鳴った。  俺が「刃の鋭さ」と「強靭さ」という状態を『固定』したため、この剣は今後、折れることも刃こぼれすることもない。メンテナンス不要の最強武器だ。


「ミリスの杖もだ。『伝導率固定』――抵抗ゼロ」


 続いてミリスの杖も強化する。  魔力を阻害する物質の抵抗を極限まで排除し、魔力が100%魔法に変換されるように固定した。


「……すごい。少し魔力を流しただけで、暴発しそうなくらい溢れる」  ミリスが杖の先端に小さな氷の花を咲かせて驚いている。これなら、魔法の威力も倍増するだろう。


「ありがとう、レン! これならドラゴンだって輪切りにできそうよ!」 「ん。レンは最高の鍛冶師」


 二人が嬉しそうに武器を抱きしめる。  俺も自分の防護服に『衝撃吸収固定』を付与し、準備は整った。


 Sランクの称号。  亜空間倉庫による輸送力。  そして、強化された最強の装備。


 これ以上ない戦力が整った――そのタイミングを見計らったかのように、酒場の扉が乱暴に開かれた。


「た、大変だ! 緊急伝令ッ!」


 泥だらけの伝令兵が、息を切らせて駆け込んできた。酒場の喧騒が一瞬で静まり返る。


「西の国境砦より報告!  ガレリア帝国の軍勢が国境付近に集結中! さらに、その先兵として……見たこともない『機械の兵士』と、空間の裂け目から現れる『黒い魔物』が暴れているとのこと!」


 俺とアリア、ミリスの視線が交差する。  来たか。


「ギルバートさん!」  俺は奥の席にいた師匠に振り返った。


「ああ、聞こえてるぞ」  ギルバートさんは真剣な顔でジョッキを置いた。「Sランク『銀翼』、初仕事といこうか」


「はい!」


 俺は強化された装備を纏い、立ち上がった。  ついに、帝国の影、そして世界の亀裂との戦争が始まる。

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