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固定スキル『固定』はゴミだと言われたが、敵をその場に固定してタコ殴りにできると気づいた件 〜追放された荷物持ちは、物理法則を無視して最強へ至る〜  作者: 冷やし中華はじめました
王都防衛戦(スタンピード編)

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剣鬼のスパルタ指導

 翌日。  レンたちが指定された場所へ向かうと、そこは王都から遠く離れた岩山、『グラカス山脈』の中腹にあるボロ小屋だった。  周囲には強力な魔物の気配が漂い、立っているだけで肌がピリピリするような危険地帯だ。


「遅えぞ。朝日が昇る前に来いって言っただろうが」


 小屋の前で、ギルバートが焚き火で肉を焼きながら不機嫌そうに言った。  時間はまだ早朝だが、彼はすでに一汗かいた後のようだ。


「すみません、道中の魔物が予想以上に多くて……」 「言い訳無用。……さて、早速始めるぞ」


 ギルバートは肉を放り投げ、レンたちの前に立った。


「お前らの弱点は明確だ。レン、お前は『スキルへの過信』。アリア、お前は『武器への依存』。ミリス、お前は『ビビり癖』だ」


 図星を突かれ、三人は押し黙る。  特にアリアは、最強の魔剣を手に入れてから力任せの戦い方が目立っていた。


「まずはアリア。お前の剣は取り上げる」 「はあ!? 剣なしでどうやって戦えってんだよ!」 「素手だ。あそこの森にいる『ロック・ベア』を10頭、素手で投げ飛ばしてこい」


 ロック・ベアは岩のような皮膚を持つ凶暴な熊だ。素手で殴り合えば骨が折れる。  だが、ギルバートは冷たく言い放つ。


「剣聖の家系なら『やわら』の心得もあるはずだ。相手の力を利用して制す。それができなきゃ、魔剣はただの鉄屑だ」 「くそっ、上等だ! 行ってやるよ!」


 アリアが森へと駆けていく。  続いてミリス。


「お前は魔力制御だ。この『水が入ったコップ』を持って山頂まで走れ。一滴でもこぼしたら、最初からやり直しだ」 「ええっ!? こ、こんな山道をですか!?」 「走りながら、常にコップの周囲の風と振動を魔力で相殺しろ。極限状態での並列処理を覚えろ」 「ひぃぃ……死んじゃいますぅ!」


 ミリスも泣きながら走り出した。  そして、最後に残されたレン。


「レン。お前はこれだ」


 ギルバートが放り投げたのは、分厚い布の目隠しだった。


「目隠し?」 「ああ。それを着けてそこに立て。……『固定』の使用は禁止だ」


 レンが言われた通りに目隠しをすると、視界が完全に闇に閉ざされた。  次の瞬間。


 ビュンッ!


 風切り音と共に、何かが頬を掠めた。石だ。


「痛っ!?」 「けろ。気配でな」


 ギルバートの声と共に、次々と小石が飛んでくる。  レンは慌てて避けようとするが、見えない攻撃をかわせるはずがない。体中に石が当たり、打撲が増えていく。


「ぐっ……! 無理ですよ、見えないのに!」 「目を使おうとするな! 『空間』を感じろと言ったはずだ!」


 ギルバートの怒号が飛ぶ。


「いいか。物が動けば、必ずそこの空間が歪む。魚が泳げば水が揺れるようにな。……お前は今まで、目で見て座標を指定していただけだ。それじゃあ『事後』なんだよ」


 バシッ! 額に石が直撃する。


「お前の『固定』は、本来もっと感覚的なもんだ。空間と一体化しろ。自分と世界との境界を曖昧にしろ」


 空間と一体化……。  レンは痛みを堪えながら、意識を集中させた。  これまでは「あそこを止める」と意識して魔法を発動させていた。  だが、求められているのは違う。  蜘蛛が巣にかかった獲物の振動を感じるように、自分の周囲の空間そのものを「拡張された神経」にするイメージ。


 1時間、2時間……。  レンはひたすら石を浴び続けた。体はあざだらけだ。  だが、意識は研ぎ澄まされていく。


(……来る)


 不意に、右側の空気が「押される」ような違和感を感じた。  風ではない。空間の圧だ。  レンは思考するよりも早く、首を左に傾けた。


 ブンッ。


 小石が耳の横を通り過ぎていった。  当たっていない。


「……ほう」


 ギルバートの手が止まる。  まぐれではない。今、レンは確実に「見えない石」を感知して回避した。


「……何か、掴めそうか?」 「……はい。なんか、世界が……水の中にいるみたいに感じます」


 レンは目隠しをしたまま、荒い息を吐いた。  自分を中心とした半径数メートルの空間。そこにある微細な空気の揺らぎ、魔力の波長が、肌に伝わってくる。  これなら、ギルバートのように「相手が動く前」に察知できるかもしれない。


「悪くないセンスだ。……だが、まだ1回だ。日が暮れるまで続けるぞ」 「望むところです……ッ!」


 夕方。  ボロボロになって戻ってきたアリアとミリスが合流した時、レンは地面に大の字になって動けなくなっていた。  だが、その表情は晴れやかだった。


「あー、死ぬかと思った……」 「私も……熊にビンタされました……」 「コップの水、50回くらいこぼしました……」


 三人は泥だらけの顔を見合わせ、力なく笑った。  Sランクへの道は遠い。  けれど、昨日の自分よりは確実に強くなっている。


「飯にするぞー。今日は猪鍋だ」


 小屋から漂う匂いに、三人の腹が盛大に鳴った。  地獄の特訓は、まだ初日が終わったばかりだ。

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