王都動乱、終結
「これで……終わりだァァァッ!!」
アリアの咆哮が、遺跡の石壁を震わせた。 レンの『多重固定』によって磔にされたボルットン。その無防備な巨体に、アリアが全身全霊を込めた一撃を放つ。
「神鳴流奥義――『天翔十字』!!」
魔剣『天覇』が十字の閃光を描いた。 オリハルコンの刃は、魔人の硬い鱗も、再生する肉も関係なく、その身体を深く、鋭く切り刻む。
「グガァァァァッ!?」
ボルットンが絶叫する。 だが、攻撃は終わらない。
「私の魔力、全部持っていってください! 『ヴォルカニック・エンド』!!」
ミリスの杖の先端が、太陽のような輝きを放った。 増幅回路を限界まで稼働させた極大魔法。放たれたのは炎の弾丸ではない。全てを飲み込む、紅蓮の奔流だ。
ドォォォォォォォォンッ!!!!
アリアが切り裂いた傷口に、ミリスの熱線が直撃する。 再生能力が追いつく隙すら与えない、完全なるオーバーキル。
「馬鹿な……私が……選ばれし王が……!! こんな、子供たちにぃぃぃッ!!」
ボルットンは断末魔と共に、その身を灼熱の炎に包まれた。 魔神の力をもってしても、英雄たちの連携には敵わなかった。 黒い巨体は炭化し、やがてボロボロと崩れ落ちていく。
後に残ったのは、ただの灰と、砕け散った野望だけだった。
「……はぁ、はぁ……。やった、か……?」
アリアが剣を下ろす。 魔力反応消失。再生の兆候なし。 レンは『夜魔のローブ』のフードを直し、静かに頷いた。
「ああ。僕たちの勝ちだ」
勝利の余韻に浸る間もなく、異変が起きた。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
遺跡全体が激しく揺れ始めたのだ。 核となっていたボルットン(依り代)が消滅したことで、魔力で維持されていた遺跡の構造が崩壊を始めたのだ。
「やばい! 崩れるぞ!」 「きゃあ! 天井が!」
巨大な石材が雨のように降り注ぐ。 出口までは遠い。普通に走っては間に合わない。
「二人とも、僕に捕まって! 強引に行くよ!」
レンは二人を引き寄せると、落ちてくる瓦礫の一つを見上げた。
「――『座標固定』!」
レンは落ちてきた巨大な岩を空中で固定し、それを足場にして跳躍した。 さらに上から落ちてくる岩も次々と固定し、即席の空中階段を作り出していく。
「うおおお! すげえ! レン、お前マジで何でもありだな!」 「落ちないでくださいよぉぉ!」
崩落する遺跡の中を、レンたちは重力を無視して駆け抜けた。 そして、遥か頭上に見える亀裂から差し込む光に向かって、最後の一歩を踏み出した。
◇
砂漠の外。 遺跡の入り口で待機していたエリスと騎士団たちは、地鳴りと共に崩れゆく遺跡を呆然と見つめていた。
「レン殿……! まさか、巻き込まれて……!?」
砂煙が舞い上がり、巨大な石造りの神殿が砂の海へと沈んでいく。 絶望的な光景。 だが、その土煙を切り裂いて、三つの影が飛び出してきた。
「とぉっ!!」
レン、アリア、ミリスが、砂丘の上に無事着地した。 全員、煤だらけでボロボロだが、大きな怪我はない。
「レン殿! ご無事でしたか!」
エリスが駆け寄る。 レンは服についた砂を払いながら、サムズアップして見せた。
「任務完了です。ボルットンは……もう二度と、悪さはできませんよ」 「……そうですか」
エリスは崩壊した遺跡を一瞥し、深く、深く頭を下げた。
「感謝します。あなた方は、この国の……いや、世界の危機を救ったのです」 「よしてください。僕たちはただ、売られた喧嘩を買って、勝っただけですから」
レンが照れくさそうに言うと、アリアが豪快に笑い、ミリスが安堵の涙を浮かべた。 灼熱の太陽が、彼らを照らし出す。 長い、長い戦いだった。 田舎のFランク冒険者から始まり、王都の陰謀に巻き込まれ、そして国を救う英雄へ。
「……帰ろうか。王都へ」
レンの言葉に、全員が笑顔で頷いた。 こうして、『王都動乱編』は幕を閉じた。 だが、世界は広い。 『空間の支配者』の名が轟いたことで、さらなる強敵や、未知なる冒険が彼らを待っていることだろう。
しかし今はただ、この勝利の味を噛み締めよう。 最高の仲間たちと共に。




