復活の儀式と魔人化
祭壇の間。 レンたちの姿を確認したボルットンは、狂気に満ちた瞳で見下ろしてきた。
「遅かったな、『銀翼』。……儀式は既に終わった」
ボルットンが背後の黒い脈動――『闇の繭』に手を触れる。 すると、繭は泥のように崩れ、ボルットンの体へと吸い込まれていった。
「私は知ったのだ。この国を統べるには、権力などという脆いものでは足りぬ。必要なのは、絶対的な『暴力』だとな!」
ズズズズズッ……!!
ボルットンの体が膨れ上がる。 豪華な貴族の服が弾け飛び、その下から現れたのは、漆黒の鱗に覆われた皮膚と、異常発達した筋肉だった。 背中からは蝙蝠のような翼が生え、額には禍々しい一本角が突き出す。 もはや人間ではない。 古代の魔神の力を取り込み、自らを依り代とした『魔人』の姿だ。
「フハハハハッ! 素晴らしい! 力が、無限に湧いてくるぞ!」
魔人ボルットンが咆哮するだけで、遺跡全体が震え、天井からパラパラと砂が落ちてくる。 圧倒的なプレッシャー。デュラハンやキメラとは桁が違う。
「……気持ち悪い姿になっちゃって。それがあなたの望んだ『王』の姿ですか?」 「黙れ小僧! 貴様らごとき、指先一つで捻り潰してくれる!」
ボルットンが右腕を振るう。 それだけで、ドス黒い衝撃波――『腐食の波動』が放たれた。
「アリア、前へ! ミリスは援護!」 「任せろッ!」
アリアが新装備、魔剣『天覇』を構えて飛び出す。 迫りくる黒い波動。アリアは回避せず、真っ向から剣を振り下ろした。
「斬れろォッ!!」
スパァァンッ!
白銀の刃が黒い波動を切り裂き、霧散させた。 オリハルコン合金の魔剣は、魔法すらも物理的に両断する。
「なっ!?」 「隙だらけだぜ、元宰相!」
アリアが肉薄する。 神速の斬撃がボルットンの胴体を捉え――ガギィンッ! 硬質な音が響いた。
「硬ってぇ!?」 「ふん、私の『魔鱗』はオリハルコンすら弾くわ!」
ボルットンが反撃の拳を繰り出す。 アリアは剣の腹で受け止めるが、凄まじい重量に吹き飛ばされ、壁に激突した。
「アリアさん! ……行きます、『フレア・ガトリング』!」
ミリスが杖を構える。 増幅回路によって強化された炎弾が、機関銃のように連射される。 数百発の炎がボルットンを包み込み、爆発を起こす。
ドガガガガガッ!!
「効かぬと言っている!」
爆炎の中から、無傷のボルットンが飛び出した。 彼は瞬時にミリスとの距離を詰め、鋭利な爪を振り上げる。
「死ね、虫ケラ!」 「ひっ……!」 「――『空間固定・障壁』!」
ガキンッ!!
ミリスの目の前に、レンが展開した見えない壁が出現し、爪を受け止める。 だが。
ミシミシ……パリンッ!
「……え?」
レンが目を見開く。 『固定』したはずの空間にヒビが入り、砕け散ったのだ。 ボルットンの爪から放たれる黒い霧が、固定された空間の座標そのものを「腐食」させ、強制的に解除させている。
「ハハハ! 見たか! 私の『腐食』の力は、空間すらも蝕むのだ!」
絶対防御の突破。 ボルットンは勝ち誇り、無防備になったミリスへ追撃を放とうとする。
「調子に乗るなよ」
レンの声が低く響いた。 恐怖はない。あるのは、静かな怒りだけだ。 レンは新装備『夜魔のローブ』に魔力を流し込んだ。 増幅された魔力が、周囲の空間をレンの色に染め上げていく。
「空間が腐るなら、腐るよりも速く、より強固に『上書き』すればいいだけだ」
レンが右手を突き出す。 イメージするのは、鋼鉄よりも硬く、永遠に変わらない不変の檻。
「――『空間支配・多重固定』!!」
ガガガガガガッ!!
ボルットンの手足、胴体、翼、そして周囲の空間そのものに、何十層もの見えない鎖が巻き付いた。 腐食されようとする端から、レンが次々と新しい固定を重ねがけしていく。 腐食と修復のイタチごっこ。 だが、速度と出力はレンの方が上だった。
「ぬ、ぐ……ッ!? 体が……動かん……ッ!?」 「言っただろ。僕の支配下では、王様は僕だ」
レンは冷ややかに見下ろす。 魔人化してもなお、レンの『固定』は揺るがない。 ボルットンは空中で磔にされ、身動きが取れなくなっていた。
「アリア、ミリス! 今だ! 最大火力でブチ込め!」 「おう! 借りは返すぜ!」 「もう許しません!」
勝機。 最強の矛と、最強の砲台が、動けない的に向かって照準を合わせた。




