古代遺跡の防衛システム
『太陽の遺跡』の内部は、外の灼熱地獄とは打って変わり、ひんやりとした冷気に包まれていた。 壁や床は滑らかな石材で作られ、天井には発光する苔が自生しているため、照明がなくても薄明るい。
「へぇ、中は意外と綺麗だな。もっとボロいかと思ったぜ」 「でも、気をつけてください。こういう場所には必ず……」
ミリスが言いかけた矢先。 カチッ。 先頭を歩いていたアリアが、床の石畳を踏んだ瞬間、小さな機械音が鳴った。
「あ」 「アリア!」
ヒュヒュヒュヒュッ!!
左右の壁にある彫像の口から、無数の毒矢が発射された。 回避不能の集中砲火。 だが、レンは動じない。
「――『空間固定・全停止』」
ピタリ。
アリアの鼻先数センチまで迫っていた数十本の矢が、空中で凍りついたように静止した。 まるで時が止まったかのような光景だ。
「……おっと。危ねえ危ねえ」 「アリア、もう少し足元を見て歩いてよ」 「悪い悪い。でもレンがいるから大丈夫だろ?」
レンが指を鳴らすと、固定された矢は力を失い、バラバラと床に落ちた。 その後も、遺跡の悪意ある防衛システムは牙を剥いた。
天井が落ちてくる圧殺部屋。 →レンが天井を『座標固定』して、落ちてこないようにロック。 床が抜けて溶岩地帯へ落ちる落とし穴。 →レンが床板を『固定』して、踏んでも開かないようにロック。 巨大な鉄球が転がってくる通路。 →鉄球そのものを『固定』して、ただのオブジェにする。
「……レンさん。これ、ダンジョン攻略っていうより、ただの通路ですね」 「安全第一だからね。罠が作動しなければ、ただの道だ」
レンの手にかかれば、古代人が知恵を絞って作った殺戮トラップも形無しだった。 サクサクと進むこと数十分。 一行は、大広間のような場所に出た。
その中央に、巨大な影が鎮座していた。 ライオンの体に、人間の女性の顔、そして背中には鷲の翼。 遺跡の守護者、スフィンクスだ。
「――侵入者よ」
スフィンクスが目を開き、厳かな声で語りかけてきた。
「我は叡智の守護者。ここを通るならば、我が問いに答えよ。もし間違えれば、その魂を喰ら……」 「アリア、やって」 「おう!」
レンは問答無用で指示を出した。 スフィンクスが「え?」という顔をした瞬間、アリアはすでに跳躍していた。
「なぞなぞ遊びに付き合ってる暇はねえんだよッ!」
魔剣『天覇』が閃く。 スフィンクスは慌てて前足でガードしようとするが、アリアの剣はミスリル製の爪ごと、その巨体を一刀両断にした。
「ば、馬鹿な……我の問いを……聞け……」
ズズズンッ……。 スフィンクスは問いを出すことすら許されず、真っ二つになって崩れ落ちた。 古代の叡智も、脳筋剣士と固定使いの前では無力だった。
「……あーあ。なんか可哀想になってきました」 「急いでるから仕方ないよ。ボルットンの気配が近づいている」
レンはスフィンクスの残骸を乗り越え、奥へと続く扉を見据えた。 『夜魔のローブ』を通して感じる感知能力が、最深部にいる強大な魔力反応を捉えていた。
「この先が最深部、『太陽の祭壇』だ。……準備はいい?」 「いつでも!」 「魔力、満タンです!」
レンが重厚な石の扉に手をかける。 鍵がかかっていたが、『空間固定』でシリンダーを強引に固定したまま扉を押し込むことで、鍵穴ごと破壊して開け放った。
ギギギギギ……。
扉が開く。 そこには、世界の命運を左右する、最悪の儀式が行われている光景が広がっていた。
「待っていたぞ、ネズミども」
祭壇の中央。 禍々しい光を放つ魔法陣の上に立ち、狂気の笑みを浮かべるボルットンの姿があった。 そして、彼の背後には――封印から解き放たれようとしている、黒い「何か」が脈動していた。




